第五十一話 ギルド派冒険者戦②
「てめぇ! やる気か!!」
「そんなに痛めつけられたいのか!?」
ギルド派冒険者たちは私に向かって怒鳴る。
しかし、動けない。ただ怯えてほえているだけ。
ここはギルドの建物内だ。
血を流せば冒険者ではいられなくなる。誰もがそれを知っている。
知った上の駆け引き。
私はさらに一歩前に出る。
冒険者たちがさらに一歩後ろへ下がる。
脅しの効果はもう十分だろう。
相手はスキルを使おうとする度胸さえない。
防壁作成スキルを解除する。
攻撃を一度も防いではいないが、その役割はちゃんとはたした。
これで話し合いの舞台は整った。
私は冒険者たちに呼びかける。
「どうだろう? お互いに協力して事件を解決しないか?」
「ふざけるな! お前たちが手柄を独り占めする気だろ!!」
即座に反論してくる。
その姿からは冒険者としての地位の低さがみえるようだった。
ギルド長ピンスの話が本当なら、ギルド派の力はないに等しい。
ならば彼らはどうして他の派閥へ行かないのか。損得だけならばそちらの方がはるかに良い。
そこに説得の鍵があるはず。
「私たちはこの事件が終わったら、王都へ行かなくてはならない。事件を解決した手柄は全て君たちが持っていけ」
「な、なに!?」
ギルド派冒険者たちが驚く。
そうなるはず。その手柄について、私たちは争っているのだから。
一応、ムラサキの方をみる。
どうでもいいといった表情。
知っていた。ムラサキは冒険者の手柄などに興味はない。
「ただ、あの少女が生活できる分くらいには残してくれ。焼かれた村のただ一人の生き残り。これから先の行き場所がないのだ」
ギルド派冒険者たちがエルゼをみる。
初めてエルフの少女がいることに気がついたらしい。
エルゼはその視線におびえてムラサキの後ろに隠れる。
ムラサキが非難の視線が送るが、これだけは言っておかなければならない。
「エルゼはには味方は誰もいない。事件を解決しなければ、この街にいられなくなる。」
この場にいる全ての人間が無言になった。
いつの間にか戦いの雰囲気は消えている。
もちろんギルド派冒険者たちにもエルフへの差別は多少はあるだろう。
しかしそれを超えて、エルゼの身に起きたことは悲惨なことだった。冒険者といえどもここまでの悲劇は経験したことがないだろう。
焼き払われた村のたった一人の生き残り。
この少女は必ず幸せにならなければならない。
普通の人間なら、そう思わずにはいられないはず。
ある冒険者がぽつりと言った。
「かわいそうだな」
「おい、やめろ。 あいつらは敵だぞ」
別の冒険者がたしなめる。
しかしその空気はまたたく間に他の冒険者たちに広がる。
やはり、そうだよな。
彼らは情を捨てきれない。だからこそギルドに残っている。
甘いといってもいい。あるいは愚かだといっても。
だがしかし、そういう人間だからこそ信頼がおける面がある。
愚かさと愚直さには、ほとんど違いはない。
味方を増やしたい。
私たちではなくエルザへの。
王都へ去った後も、なんとか暮らしていけるように。
ギルド派冒険者たちが小さな声で話し合っている。
「あいつらに協力してもいいじゃないか?」
「そうだな。手柄さえもらえれば、戦わなくてもいいや」
どうやら彼らを味方にする目的は達成されたようだ。
しかしこれは冒険者同士の小さな勢力争いにすぎない。本当の問題はこれからだ。
ムラサキが近づいてくる。
「これが冒険者のやり方ですか。好きになれませんね」
「血を流すよりもずっといいだろ。サムライだったら、今ごろギルド内は血の海だ」
「サムライにも手加減することくらいはできます」
それは初耳だ。そんな能力があったとは。
私の知っているかぎり、ムラサキが手加減などしたことなどないが。
エルゼはじっと私をみつめている。
何かを言おうとしている。
しかし、どうにも口に出す言葉が決まらないようだ。
ギルド派冒険者の一人が私に声をかける。
「なあ。手柄を全部俺たちに渡して、あんたらに何が残るんだい?」
「何も残らない」
冒険者たちが困惑する。
私の行動は冒険者の原理に反している。信じられないのも無理はない。
「あんたらは本当にそれでいいのか?」
損得の計算も大切だ。
金も、安全も、生きていくことさえ、損得の計算の中にある。
私も冒険者だ。損得の計算は冒険者の本能だ。
ムラサキのようにはとても生きられない。
だが。
「それでいい。私たちはこの事件が許せないだけだ」
時にはそれを踏み外すことがあってもいいはずだ。
全てが損得の計算の上では、もっとも大切なものを見失ってしまう。
周りの人間が自分と同じ存在だと認識できなくなる。
それを、私は辺境の街で学んだ。
私は言う。
「本来ならば、困っている人を助けるのに理由などいらないさ」
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