第五十話 ギルド派冒険者戦①
ギルド派冒険者たちとにらみ合う。険悪な雰囲気。
どう転んでも友好的にはなりそうにない。
「事件の依頼したのはギルド長のピンスだ。君たちから横取りしたわけじゃないぞ」
「んなことは、わかってんだよ!!」
冒険者たちの一人が怒鳴る。
私たちを待っている間にも怒りを積もらせていたらしい。
「俺たちに挨拶もなく、勝手にこの街を歩き回りやがって! ピンスは認めても、俺たちは認めねーからな!!」
理論ではなく、感情の問題。
正論を叩きつけてもこの場はおさまりそうにない。
よくみると、冒険者たちの武器や服装は貧弱だ。低ランク冒険者なのだろう。
それはそうか。彼らが高ランク冒険者のはずがない。もし実力があれば、ピンスは彼らに依頼したに違いない。
嫉妬か。
わからないでもないな。
私自身も防壁スキルしか使えない。戦えない男とずっと呼ばれてきた。
今も誰かと戦うたびに、攻撃スキルが使えたらと願ってしまう。
「めんどうですね。あるじ様、斬り捨ててもいいですか?」
ムラサキが戦闘態勢のまま聞く。
私が許可を出したら、即座にスキルを発動するつもりだ。低ランク冒険者相手なら、何人いようがムラサキが勝つだろう。
「ダメに決まっているだろ。お前はエルゼを守ってくれ」
不満げにムラサキは私をみる。
だが、ダメなものはダメだ。
ギルドの建物内で戦いなどできない。血を流せば私たちの方が罪に問われる。
「ここは私にまかせろ。冒険者流の解決方法をみせてやる」
なおもムラサキは不満げだが、エルザと連れ後ろへ下がっていく。
今回は素直に言うことを聞いてくれた。少しは説教が効いたのか。
あるいは低ランク冒険者たちは敵としての魅力がなかったのか。
どちらでもいいか。ムラサキの考えていることなど推測するだけ無駄だ。
ムラサキにはできない交渉というものみせてやる。
私はギルド派冒険者たちに向き合う。
そもそも彼らは敵ではない。
私たちは昨日この街にきたばかり。圧倒的に情報が不足している。
これから人手も必要だろう。多少戦いに強くとも、私たちだけでは限界がある。
ぜひとも味方として、ともに事件を解決したい。
私は言う。
「では、どうすれば私たちを認めてくれるのだ?」
冒険者たちがニヤニヤと笑う。
こちらが下手に出たとでも思ったのだろう。
「そうだなぁ、俺たちの選んだクエストをやってもらおうか。無事にクリアしたら認めてやるよ」
「断る」
私はメイスを取り出す。
そして冒険者たちに突きつける。
「余計なことは必要ない。この場で決着をつけよう」
ギルド派冒険者たちの方へ歩き出す。
わざと好戦的な笑みを顔に作る。
私は彼らについて何も知らない。
だが逆に、彼らも私たちについて知らない。
そこがねらい目だ。
ここで素直に相手の要求を飲むようでは、一人前の冒険者ではない。
弱みをみせたら、相手がつけあがるだけだ。
こういった冒険者同士の小競り合いはどの街でも存在する。
それをうまく乗り切るのも冒険者の腕だ。
戦いの強さだけではない。
冒険者とは総合的な力が求められるのだ。
冒険者ギルド内では戦いなどできない。血も流せない。
だが、言葉での脅し合いならばできる。
私とギルド派冒険者たち。
これから問われるのは、冒険者としての経験だ。
そのはずだったが。
「な!? こいつやる気か!?」
あっけなくギルド派冒険者たちがあせり出す。
迷っている。相手もギルド内で戦いが起こるはずがないと思っていたのだろう。
この瞬間、私は勝ちを確信した。
冒険者たちの経験の不足がすけてみえるようだった。
おそらく街から出たこともないのだろう。
仲間同士でしかいなければ、交渉の能力は磨かれない。
もし相手が高ランク冒険者だったのなら違う展開になっていた。
この程度の脅しが通じるはずもない。
血は流れないが、ギリギリの交渉が続いていた。
「くそっ! 戦闘態勢を取れ!」
冒険者たちが剣や槍を構える。
遅すぎる。
「防壁スキル発動」
目の前に防壁をはる。私だけが入るような大きさ。
そして一歩だけ冒険者たちの方へ歩く。
「…っ!」
冒険者たちは一歩後ろへ下がる。
戦いも交渉も先手を取った方が絶対的に有利だ。
それには精神的な先手も含まれている。
こういった交渉では、自分を恐れされた方の勝ちになる。
交渉相手がムラサキだったら?
とっくに私に斬りかかっていたはずだ。
だがそんな損得を考えない人間など、めったに存在しない。
特に冒険者には。
さて、ここからどうするか。
勝つのは簡単だが、欲しいのは勝ちではない。
信頼だ。
無理やりこの冒険者たちを従わせても、後でしっぺ返しがくる。
おそらく村を焼き討ちをした犯人とは、命がけの戦いをしなければならない。間違いなく犯人は強敵だろう。エルフの街を焼き払うにはそれだけの能力が必要。
その時、後ろから襲いかかられてはたまらない。
基本的な利害は同じ。やりようはあるはずだ。
しかしそれにしても。
自分のはった防壁をながめる。
私のスキルはこういう時だけは役に立つ。
絶対に相手を傷つけないのだから。
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