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第四十七話 生き残りの少女

 「ギルドが機能しない理由が派閥争いとは。やはり冒険者というものは腐っていますね」


 冒険者ギルドを出るなり、ムラサキはそう言った。

 


 反論できない。この街で起こっていることは、冒険者の悪い面そのものだ。いや、冒険者というより人間そのものの…といった方がいいのかもしれない。



 「ピンスが言っていた聖女派、大賢者派というのは?」


 「はるか昔、勇者が悪の化身である魔王を倒した。その伝説によると、勇者には仲間が三人いたらしい。剣聖、聖女、そして大賢者」



 伝説の勇者たちがどれほどの力を持っていたのか、今では誰にもわからない。絵本の中で語られるのみである。



 「その伝説の名残が冒険者の称号として残っている。Sランク冒険者の中でも、特に功績のあった人間がギルドから認定される」


 「なるほど。つまり勇者の称号を持つ冒険者。それこそが最強ということですね」


 「いや、勇者の称号だけは別だ。かつて一度も称号を持つ冒険者は存在したことがない」


 

 勇者の称号は間違いなく最強の証である。

 しかし、誰が最強の存在を制御できるというのか。

 昔からギルド中央部はそれを恐れ続けてきた。だから勇者の称号だけは誰にも与えなかった。



 冒険者の管理こそが、ギルドの生命線。


 

 もっとも、その原則がこの街では崩れかかっている。

 

 剣聖、聖女、大賢者。この時代において、限りなく最強に近い冒険者。

 それぞれが冒険者を囲い込み、派閥を組んでいるのだ。そして派閥を組んだ冒険者たちはギルドを必要としなくなる。

 その動きをギルド中央部は制御しきれなくなっている。 



 だからこそ、この街のギルドは力を持っていない。

 ギルド長ピンスには動かせる冒険者がほとんどいないのだ。


 追い詰められている。

 初対面の部外者に事件の解決を頼まねばならないほどに。


 

 噂だけは辺境の街にも聞こえていた。

 だがいざ目の前にすると、暗い気分にならざるを得ない。


 この傾向がこの街だけのものか。それともこの国全体に広がっているのかわからない。

 そしてギルトと冒険者がこの先どうなっていくのかも。



 「あるじ様が勇者になれば、全ての問題は解決しますよ」


 「何を言っている。私は守ることしかできないのだぞ」



 私は防壁作成スキルしか使えない。戦えないのだ。

 そんな男が勇者の称号など。夢をみるにしても限度がある。



 そもそも仮に最強の存在が現れたとしても、この傾向を変えられるのかどうか。

 起きているのは力の問題ではない。心の問題だ。

 たとえ最強の存在でも人の心を完全に変えることなどできるはずもない。



 「くだらない冗談はいい。それよりも意見を聞きたい。ピンスの依頼を受けるべきかどうか」


 「当然、受けます。村を焼いた犯人は斬り捨てなければなりません」


 ムラサキの黒い目に迷いはなかった。

 悪は斬る。単純で美しいムラサキの理論。



 だが、この事件はそれですむようなものではない。

 実行犯を特定するだけならば、それほど難しくはないはずだ。

 しかしそれだけでは事件の解決にはならない。


 聖女派、大賢者派。ギルド。Sランク冒険者に低ランク冒険者たち。

 それぞれが自分たちの利益を得ようと、複雑にからみあっている。

 そこには底知れぬ闇さえ感じてしまうのだ。



 それに対して、部外者二人で何ができるのか。



 「あるじ様。わたしは信じています。ここで逃げるあるじ様ではないと」

 

 

 逃げる逃げないの問題ではない。

 達成できないクエストならば、初めから受けない方がいい。中途半端にかかわるとかえって事態を悪化させる。

 それは冒険者としての知恵である。



 この事件はただの冒険者である私たちでは手に負えない。

 多少戦いに強いだけでは、事件の解決など不可能だ。



 理性では、そう思うのだが。


 

 私はムラサキに言う。


 「そうだな。エルフの村のたった一人の生き残り。その少女に会ってから決めようか」




 

 次の日。

 私たちは街の病院を訪れていた。


 ピンスによると、この病院に生き残りの少女がいる。


 その少女は焼けた村から重度のやけどをおった状態で発見された。倒れた柱が奇跡的に少女を守ったらしい。

 


 やけど自体を治療するのは難しくはない。


 だが二か月がたっても、まだ少女は病院にいる。その少女を引き取るものが現れなかったから。


 

 ピンスの名前を出すと、職員は簡単に中に入れてくれた。

 そして少女がいる病室に案内される。



 私は歩きながらその少女について聞いてみる。

 しかし返ってくるのは嫌悪だけだった。完全にやっかいものあつかいである。

 

 病院としては、私たちにその少女を引き取ってもらいたい。その意思が言葉からにじんでくる。

 金にもならない患者などすぐにでも消えて欲しいのだ。


 


 あるいは、少女がエルフだからか。 




 病室の扉の前に立つ。



 ベッドの上に座るその少女の後ろ姿がみえる。



 エルフの特徴的な耳。輝くような金髪。

 

 そして、小さな背中。




 どうしようもないほどに孤独な背中。




 その瞬間。


 私は決意した。


 自らの手で事件を解決させることを。 


ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。

どうかよろしくお願いします。

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