第四十六話 都市オーレリア
都市オーレリア。
この地方で最も大きな街である。
私たちがいた辺境の街とは比較にならない大きさだ。
こうして街を歩いてるだけで、それがわかる。すれ違う人間の数が違う。
「ムラサキ。この街では絶対に土下座はやめてくれよ」
先日道に迷った時、ムラサキは何度も土下座した。私は地面からムラサキを引きはがすのに苦労するはめになった。いきなり土下座するのは驚かされる。心臓に悪い。
「この街では私たちは部外者だ。味方はいない。土下座したら敵を増やすだけだ」
「わかっています。あるじ様のご迷惑になるようなことはいたしません」
本当にわかっているのか。怪しいものだ。
その証拠に視線が私ではなく、道行く群衆に向けられている。
ぽつりぽつりいる、亜人が珍しいらしい。
エルフにドワーフ。友好的なモンスターと呼ばれる種族。この国ではその人数はとても少ない。しかしこの街ほどの大きさになればみることができる。
私はため息をつく。
まったく。しょうがない奴だ。
あきらめて、話を変える
「エルフの話だが、一目でそれとわかる特徴がある。耳が長いのだ。ほら、あんな風に」
露店で買いものをしている男を指さす。耳以外はほとんど人間とかわらない。特徴的な首輪をつけているのが目立つくらいだ。
私と目が合う。男は逃げるように露店から去ってしまった。
人ごみに紛れてみえなくなる。
「この国は人間のものだからな。亜人は肩身が狭い。裏では差別もあるらしい」
「エルフは強いのですか?」
焼かれたのはエルフの村だ。つまりエルフは被害者側。戦う理由など存在しない。
にもかかわらず、ムラサキは聞かずにはいられないらしい。
「実際に戦ったことはないが、強いらしいぞ。特に魔法のスキルに優れていると話に聞く」
「なるほど。強いのですか。ならば村ごと滅ぼした犯人はさらに強いということですね」
ムラサキは薄く笑う。
サムライにとって強者と戦うのは喜びなのだ。
私は笑えない。戦いなどない方がいいに決まっている。
ただ、この世界は戦わねば弱者は奪われるだけだ。それを見過ごすわけにはいかない。
大きな建物がみえてくる。
どこの街でも冒険者ギルドはとても目立つ。独特の雰囲気がある。
私たちは冒険者だ。たとえこの街の部外者だろうと、使えるものはある。
「まずは話を聞こう。私たちにできることが残っていればいいが」
冒険者ギルド内は誰もいなかった。冒険者もギルド職員も。
床やテーブルにはほこりが積もっている。とても静かであった。
明らかにおかしい。
この街の大きさ、この時間を考えるとあり得ないことだ。本来ならば冒険者たちお活気にあふれているはずである。
建物を間違えたのか?
いや、そんなはずはない。
「どういうことでしょうか? 強いモンスターでも現れたのでしょうか?」
ムラサキが聞くが、私にも答えられない。
強いモンスター程度では、ここまで冒険者ギルドが空になることはない。
ここまで大きな街である。
Sランク冒険者もいるだろう。モンスター程度に苦戦するとは思えないが。
その時、パタパタと足音がした。
ギルドの奥から痩せた中年の男が姿をあらわす。
着ている服は高価そうだが、全体的にみすぼらしい印象。
「あ、あの、冒険者の方ですか? みかけない顔ですが」
「はい。Bランク冒険者のギネス。そしてこちらはムラサキ。実は聞きたいことがあ…」
言い終える前に、痩せた男は飛び上がって喜んだ。
「Bランク! それはすごい!! ぜひ私の話を聞いてください! あっ! 私はギルド長のピンスと申します!」
Bランクは決して低いランクではない。冒険者として、一人前の証だ。
しかしギルド長が手放しで喜ぶほど高いランクでもない。
それほどの事態が、この街で起こっているということか?
だがこの街の住民をみるかぎり、そこまで深刻なことはなさそうなのだが。
私たちはギルド長ピンスに、焼かれたエルフの村について聞いた。
ピンスは頭を抱える。
「そ、そうなんです。大問題になってしまっています。ギルド中央部からは毎日のように解決しろと命令されてます。それだけじゃなく、国や領主にまで。外交問題にまで発展しそうな勢いなんですよ」
この国の外にはエルフが建てた国がある。
特にこの辺りはその国境に近い。だからこそ、この街にはエルフが多い。
エルフが500人以上殺されれば、エルフの国も干渉せざるを得なくなるか。
しかし、それにしても。
「エルフの村が焼かれたのは、かなり前ですよね。まだ解決していないのですか?」
これほど派手な事件である。誰が犯人だろうが、完全に隠し通すことなど不可能に近いだろう。
この街にはSランク冒険者もいる。他にも調べようとする人間などいくらでもいるはずだ。
それなのに、まだ犯人の名前さえわかっていないとは。
「それが、そのぅ。この街には特殊な事情がありまして…。事件は2か月間も放置されているのです」
美しい女性が部屋に入ってくる。
そして、私たちの前に飲むものを並べていく。
「ああ、ありがとう。彼女は私の秘書です。今や私に従ってくれるギルド職員は彼女一人といっていい。私には何の力もないのです。ほとんどの冒険者はギルドに従ってくれません」
ピンスは立ち上がって、深く頭を下げた。
「だからギネスさん! どうかお願いします! この事件を解決してもらえませんか! 報酬はいくらでも払いますから!!」
ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。
どうかよろしくお願いします。




