第四十五話 エルフの村
辺境の街を旅立って二週間。
これまでの旅は特に問題なく進んだ。旅には慣れている。
モンスターや盗賊などは相手にならない。私とムラサキはBランク冒険者だからだ。
ところが、思わぬところに落とし穴があった。
真の問題は味方にあったのだ。
私は曇り空に向かって、嘆くしかない。
「ああ、ムラサキを信じた私が馬鹿だった」
周囲には木が生い茂っている。私たちは森の中にいる。
いや、この国のほとんどの土地が森である。
旅をしている以上、森の中にいるのは当たり前ではある。
問題はここがどこかわからないことだ。
完全に迷ってしまっていた。
「あの、あるじ様。この道を進めば王都への近道になるはずです。辺境の街にくるときに確かに通ったのです。間違いありません」
地面をみる。道はなどない。草が生えているだけである。
周囲には誰もいないし、人が住んでいるような気配もない。
ここからどの方向へ進めばよいのかも判断できない。
「あう、そんな目でみないでください。あるじ様」
「もういい。とりあえず高い場所へ向かおう。そこから見下ろせば、道がみつかるかもしれない」
時間の無駄だが、しかたがない。
そもそも外国人であるムラサキに道を聞いたのが失敗だったのだ。つまりムラサキではなく私が悪い。勉強になった。
そう思い込まないとやってやれない。
森の斜面を登るうちに、日が暮れかけてきた。
そろそろ野営の準備をしなければならない時間だ。
いくらモンスターが弱いといっても、夜に不意打ちされたらさすがに危険がある。
幸いにも食料はそれなりにはある。だから…。
その瞬間、ある臭いが鼻をついた。
この臭いは。まさか。
「どうしたのですか? 急に立ち止まって」
「ムラサキ。お前にはこの臭いが何だかわかるか?」
「そう言われてみると、なんだか焦げ臭いような気がしますね。木が燃えた臭いでしょうか」
ムラサキが首をかしげる。ピンとこないようだ。
確かにその臭いに近い。だが決定的に違う。
「臭いの元を確かめる。ついてこい」
経験したものにしかわかないであろう。この臭い。
そして経験したら、二度と忘れられない臭い。
村が住民ごと焼かれた臭いだ。
私自身はモンスターに対しての経験があるだけだ。
ゴブリンやオークは大量発生すると村を作る習慣がある。
しかし、あるベテランの冒険者は言っていた。
人間の村が焼かれた時も、同じような臭いを発生させると。
むごたらしい光景が私たちを待ち受けていた。
村は完全に焼け落ちていた。
いくつもの燃え尽きた建物がある。村全体が黒い塊のようにみえる。
「これは。」
ムラサキが戦闘態勢を取ろうとする。
私はそれを止める。
「いや、その必要ない。この村は相当前に焼かれたようだ」
焼かれた建物が汚れている。人の手によるものではなく、雨や風で汚れたのだ。
そうなるにはかなりの時間がかかる。少なくとも一か月程度は。
「知性のないモンスターの村ではないな。ゴブリンは死んだ同胞のために墓など作らない」
村のはずれに、木の棒が立てられているのがみえる。黒ずんではいない、村が焼かれた後に建てられたものだ。死んだものための墓と考えるのが妥当。
私とムラサキはそこに向かって歩き出す。
近づくにつれて、目にはいる墓の数が増えてくる。
視界を埋め尽くすような墓の群れ。少なくとも500程度ある。
ムラサキが顔をゆがめる。
「ひどいものですね。この村に規模に、この死者の数。戦闘できないものまで殺したのでしょう」
「それでも、まだこの焼き討ちは合法の可能性もある。そうなれば私たちに口を出す権利はない」
みているだけで怒りのわく光景ではある。
しかし、もしこの村の住民が凶暴なモンスターだったのなら。冒険者の正当な行為である。誰にも非難される理由はない。
冒険者は正義の味方ではない。あくまでモンスターから人間を守るための存在だ。
ある墓にかけられた首輪が目に入った。
手にとって観察する。非常に珍しい形だ。
私に記憶によれば、このような特徴的な首輪を作るのは。
「エルフ……か」
そうなれば話は別だ。亜人であるエルフも、モンスターには含まれてはいる。だがエルフは遠い昔から人間と接してきた。
この国でも一応は人間と同じあつかいになっている。当然、冒険者の討伐対象にはない。それを村ごと焼き討ちするなど死刑に値する。
ムラサキはまだ怒っている。
「たとえ合法だろうが許せません! この焼き討ちをした人間には報いを受けさせましょう!!」
「そうだな。斬り捨てようか」
王都へ行く途中ではあるが、このような重大な犯罪を放置できない。
村に焼き討ちが行われたのは相当前の話。すでに犯人が捕まっている可能性もある。
だが少なくとも調べることぐらいはするべきだ。
並べられた墓の先から、この辺りの地形をながめることができた。
広大な森の先に街がみえる。
それは私たちのいた辺境の街と比べものにならないほど、大きな街であった。
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