第四十四話 旅立ち
その夜、冒険者ギルドでは小さな送別会が開かれていた。
明日には私とムラサキは王都へ旅立つ。
そのためギルド長グラウコや冒険者たちが、特別に送別会を開いてくれたのだ。
だが、私たちが主役だったのは最初だけであった。
今はもう全員が酔っ払ってどんちゃん騒ぎになってしまっている。とても楽しそうである。最近は宴会どころではなかったから、欲求不満だったのだろう。
それでいい、私も思う。
しめっぽい別れなど冒険者には似合わない。
手に持った酒を飲む。
安い酒である。しぶいような雑味がある。
しかしこれこそが冒険者にとって故郷のような味。高い酒など、こちらからお断りだ。
ムラサキは私によりかかって、すでに寝てしまっている。顔が真っ赤だ。わずかに寝息がが聞こえる。
宴会が始まると同時に安い酒を飲みまくり、誰よりも早く酔いつぶれてしまった。酒の飲み方を知らなかったようだ。
肩をたたくが目を覚ます気配はない。
この様子では、ムラサキを背負って宿屋に帰るしかない。
まあいいか。
カーライル戦でのお礼だと思えば。
このような宴会はどちらかといえば苦手だ。
だが今日はなぜだか悪くない気分であった。
冒険者たちが笑い合う光景。
私はこの光景を忘れないであろう。
この先どんな苦しいことがあろうとも。
「ギネス君。いろいろとすまんな」
グラウコが私に声をかけた。
そして私のグラスに酒をそそぐ。
「いえ、冒険者らしい別れ方ですよ。もう二度と会えないといわけでもないですし」
この宴会の中で、グラウコだけが暗い顔をしている。
ため息をつく。
「本来ならば、君たちをギルド中央部などに行かせたくはない。最近は悪い噂ばかり聞くからな。だが儂には断るだけの力がないのだ」
「大丈夫ですよ。まだ悪いことが起こると決まったわけではないです。逆に冒険者としてプラスになる可能性もあるわけですし」
自分自身でも信じていないことを口に出す。
グラウコに心配させても何が変わるわけでもない。
「それよりもこの街のことをお願いします。私たちの帰ってくる場所がなくなると困りますから」
「ああ、まかせておけ。この街は儂の命そのものだ」
冒険者たちの歓声が大きくなる。
誰かが余興の芸を始めたらしい。
「儂が現役の冒険者だったころは単純でよかった。モンスターがいて、それを狩るだけ。今はもう、儂のような老人にはついていけんよ」
この50年で人間は強くなった。モンスターが脅威ではなくなるほどに。
その原因はスキルの技術が爆発的に発達したから。今ではスキルなしの戦いなど考えられない。
「これから先どうなるのか。もう儂にはわからん。悪くなる一方にしか思えんが」
「良いことも悪いこともあるでしょう。でも私たちにも小さいですが、できることもあるはずです。それが時代というものを作っていくのでしょう」
グラウコが酒を飲む。グラスの中の酒を一気に飲み干すと、言う。
「儂は君に期待しておる。君こそがこの時代を良い方に導いてくれると」
どうやらグラウコもかなり酔っ払っているらしい。
完全に買いかぶりである。苦笑せざるを得ない。
「私一人ではどうにもなりませんよ」
この国には私よりも強い冒険者が山のように存在する。
それだけではなく国王や貴族も。それらの人間たちがこの国を導いているのだ。
Bランク冒険者の影響力など、ないに等しい。
それでも。
私はグラウコに右手を差し出す。
「グラウコさんに教えてもらったことは忘れません。私なりにできることを探してみます」
グラウコは私の右手をつかむ。
別れだった。
グラウコとの。この街との。
もう一度、帰ってこれる日がくるのだろうか。
その日が来ることを祈らずにはいられない。
ようやくグラウコの表情から暗さが消える。
残った手で目をこする。そして言う。
「いかんな。年を取ると涙もろくなってしまう、昔は仲間から鬼と呼ばれていたんだがなぁ」
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