第四十三話 武器の心
剣に心。
まったく意味がわからん。
剣とは使いやすさと切れ味が全てだ。戦いに勝つにはそれで十分。
それがこの国の常識。サムライの流儀など通じるはずかない。
と思っていたのだが、鍛冶屋の親方には理解できたらしい。
何なんだろうか? 頑固者同士、響き合うものがあったのか。
それに加え、現在さらに意味のわからないことになっている。
「もっとしっかり剣をおさえろ!」
親方が大きな声で注文する。
私は真っ赤に焼かれている鉄の塊をさらに強い力でおさえる。長い棒のような専用の道具。力の入れ方がなんとも難しい。
親方がそこにハンマーを打つ。
ガチンという音とともに、火花が散る。少しずつ鉄の塊が剣の形に整えられていく。
私はなぜ鍛冶屋の手伝いをしているのだろうか?
百歩譲って、ムラサキが鍛冶屋を手伝うのならわかる。サムライの流儀に従って、剣を打ち直しているのだから。武器に心も込められるだろう。
もう一度言うが、なぜ私なんだ?
そのムラサキは部屋の隅で落ち込んでいる。悲しみの表情だ。
初めはムラサキが手伝いをしていた。だがあまりの不器用さに戦力外にされてしまったのだ。
あれだけ偉そうにサムライの流儀を説教していたのに。
理想と現実は違うということか。無情である。
親方にはそこであきらめて欲しかった。
だが、次は私の番であった。理解できない。
親方がハンマーを私の方へ突き出す。
「よし。次はお前が打ってみろ」
「お言葉ですが、私は鍛冶をしたことがありません。素人です。うまく剣が打てるとは思えません。」
周囲には親方の弟子が数人いる。その人たちにやらせればいい。なにもわざわざ素人である私に剣を打たせることはない。
親方は腕を組み、私を見上げる。
「そんなことはわかっておる。だが儂は忘れておった。鍛冶の仕事をはじめたころの気持ちを。いつからか剣の切れ味と使いやすさだけを追求しておった。それをお嬢さんに見抜かれたのだ」
えっと、まるで会話がかみ合ってないような。
確かに親方が初心を思い出すのは大切ではあるだろう。しかしこの状況とはまったく関係ない。
「今の儂ではお嬢さんを満足させる剣は打てない。だからこそ、お主に力を借りなければならないのだ」
いやいや、あらゆる意味で私にも無理だ。貸すだけの力などあるわけない。
私は冒険者だ。サムライでも鍛冶屋でもない。
そう思うのだが、その正論が親方に通じそうにない。
親方はどこまでも真剣である。やめると言ってやめさせてくれそうにない。
しぶしぶハンマーを受け取る。
こうなったら、やってしまったほうが早い。
うまくいくはずがない。さっさと親方にはあきらめてもらおう。
鉄の塊にハンマーを打つ。
火花は散るが、はたしてこれでいいのか?
「よし、いいぞ! もっとだ!」
いいのか。
続けてハンマーを打つ。
一回打ち下ろすごとにある思いが心に浮かんでしまう。
私は何をやっているんだろう?
もっと他にやることがある気がする。
これでは心など込められるはずがない。
ムラサキも親方も本当にこれでいいのか?
3時間後、ようやく鉄の塊は剣の形になった。
後は研磨などの細かい作業が残るのみだ。
もう私たちは必要ない。ようやく鍛冶の仕事から解放された。
「これで剣に心が入った。この剣はお主たちを守ってくれるだろう。」
親方はとても満足そうだ。
それに比べ、私は疲れていた。体以上に、精神的にくるものがある。
絶対に心など入ってないだろ。と言いたいが、口には出さない。
「あるじ様が自ら打ってくださった剣です。どんな名剣にも負けません」
ムラサキも満足そうだ。
お前は何もしていないだろ。宿屋に帰ったら説教してやる。
でもまあ、ムラサキを元気にするという目的は果たせたのかもしれない。
それでよしとするか。
私自身はあいかわらずサムライの流儀は理解できないままだが。
窓の外は夕日で赤く染まってる。
美しい街の姿であった。
この街にいられる時間はあと少し。この光景を目に焼き付けておこう。
鍛冶屋を去る際に、親方は私に言った。
「それにしても、君は筋がいいな。鍛冶屋として、儂よりも高みに登れるかもしれない。どうだ。儂の娘と結婚して、この鍛冶屋を継いでみないか?」
もう口を開く気力さえ、残ってはいなかった。
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