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第四十二話 鍛冶屋へ

 宿屋に帰るなり、私はムラサキに聞いた。

 

 「ギルド中央部が私たちを呼んでいるという話。お前はどう思う?」


 「当然、行くべきです。事件の本当の黒幕はそこにいるのでしょう? さっさと行って斬り捨てましょう」


 ムラサキなら、そう言うと思っていた。

 どんなことがあろうとムラサキは迷わない。一直線に目標へ向かおうとする。 

 それは明らかにムラサキの欠点である。しかし同時に、少しだけそれがうらやましくもある。



 本当はギルド中央部に行く以外の選択肢は存在しない。

 迷う自由さえ、私たちには与えられていないのだ。


 ギルドが出す命令には種類がある。今回中央部が出してきたのはその一番重いもの。

 断れば冒険者を追放される。事実上、拒否できない仕組みだ。それこそがギルド中央部の力そのものである。


 表向きは今回の事件についての聞き取りのため。だがそれを素直に信じるものはこの街にいない。それほどにギルド中央部の信頼が落ちているのだ。

 少なくともこの街に関しては、中央部のやることは失敗続きである。


 これでは信頼しろというほうが無理な話だ。



 その一方で、こうも思う。


 中央部に何が起こっているか。それをこの目でみるにはよい機会だと。

 

 私が冒険者の駆け出しだったころには、これほどまでに無能ではなかった。有能とは言えないにしてもそれなりには機能していた。

 中央部がおかしくなったのはここ最近のことである。



 想像ならばいくらでもできる。しかしこの辺境の街では得られる情報など、たかが知れている。想像はあくまでも想像にすぎない。

 

 

 「そうだな。行こうか。この国の中心、王都へ。」


 「さすがはわたしのあるじ様です。素晴らしい。腐った冒険者を狩りつくしましょう」


 「命がいくつあっても足りんぞ」


 ギルド中央部がある王都は、この国で最もさかえている都市でもある。Sランク冒険者も大勢いる。さらにはこの国で最強と名高い冒険者たちも。

 

 私たちも決して弱くはない。しかしカーライル一人と戦って、死にかけているのも事実。今の強さのままでSランク冒険者に戦いを挑みまくるのは無謀にすぎる。

 

 「わたしとあるじ様なら、どんな相手でも倒せますよ」


 ムラサキが胸をはって言う。


 思わず、私は苦笑する。

 ムラサキは外国人である。この国のことをよく知らないはず。それなのにどこからその言葉が出てくるのか。



 「倒す倒さないの話は中央部の情報を集めてからだな。今はやれることやろう。さしあたっては…」


 私はムラサキの腰のあたりをみる。

 カタナのかわりに、この国特有の真っすぐな剣をさしている。さすがに丸腰はまずいので仮の武器である。

 


 まずは、これだな。



 「鍛冶屋へ向かおう。頼んでいた剣ができた連絡があった」




 

 まだ日は高い。

 街には立て直しのための資材が大量に運ばれている。


 大勢の住民の中、私たちは鍛冶屋に向かう。

 人ごみに紛れてしまえば、街の英雄だと気づかれずにすむ。

 


 「残念だが、この辺境の街ではカタナは手に入らない。作れるのはカタナのような剣でしかない」


 カタナそのものがこの国では作れないのだ。カタナを作るには独自の技術がいるらしい。

 ムラサキ自身もそれにあまり詳しくはない。あくまでサムライはカタナを振るう職業。カタナの鍛冶屋ではないのだ。


 だからこの国にあるカタナは全てニホンという国から流れてきたもの。数も非常に少ない。


 

 「そうですか」


 ムラサキが肩を落とす。

 元気な時はあっても、すぐに落ち込んだ表情になる。

 カタナを失ってしまったことが苦しいのだ。


 この国の剣でも抜刀スキルは発動できる。もちろん速度はわずかに落ちる。それでもムラサキの抜刀スキルは一級品だ。

 そういうことではないのだろう。サムライにはカタナが必要なのだ。

 

  

 「これから行くのは、この街一番の鍛冶屋。きっとムラサキが気に入る剣ができてると思うぞ」


 「そうだといいのですか」 


 


 

 鍛冶屋の親方は頑固だと評判の人物であった。

 もう30年も剣を作っているらしい。近くの街からも注文がくるほどの腕前。

 その親方が自ら私たちの相手をしてくれた。

 

 「これだ」


 目の前に剣がおかれる。わずかに剣が曲がっている。

 見た目はムラサキのカタナにそっくりだ。


 さすがは街一番の鍛冶屋。この短時間で素晴らしいできだった。


 「どうだ? 確かめてみろ」


 鍛冶屋の親方は普通の態度で接してくれる。これはとても珍しいこと。剣を頼みに行って、門前払いにされた冒険者は数知れない。

 私たちが街の英雄になったのが原因だろう。嬉しくはないが、こんな時ばかりは助かる。



 ムラサキはその剣を手に取り、じっとみている。

 恐ろしく真剣な表情だ。  


 

 「代金を払おう。いくらだ?」


 「いらん」


 これほどの剣をただで貰うわけにはいかない。だがこちらが無理に払おうとして、親方の機嫌を損ねても困る。さて、どうしたものか。

 


 その時、ムラサキがポツリと言った。


 「ダメですね。この剣は使えません」



 親方の表情が固まり、みるみるうちに赤くなっていく。


 「おい、ムラサキやめろ」


 ムラサキの口をふさごうとする。親方を怒らしてどうする気だ。私たちに何の得もないだろ。

 私も冒険者のはしくれだ。この剣が使いやすくて、切れ味も素晴らしいことはみただけでわかる。

 それなのに、何が気に入らないんだ。


 その私を押しのけて、親方がムラサキにせまる。


 「なぜ使えない? 理由を言え。ふざけた理由ならここから叩き出すぞ」


 


 「この剣には、心がありませんから」



 

 あきれる。またサムライの流儀か。

 剣に心などあるわけない。切れ味、重さ、使いやすさが全てだ。

 自分の武器を大事にする気持ちはわかる。しかし心など意味不明としか言いようがない。


 

 

 しばしの間、親方が考え込んだ。

 ムラサキと同じくらい真剣に自分の作った剣をみている。



 そしてムラサキから剣をひったくった。

 大股で工房の奥の方へ歩いていく。



 完全に怒らせてしまったようだ。あの剣はあきらめるしかない。

 ムラサキには、もうしばらく仮の武器で我慢してもらうほかないだろう。



 だが、親方は背を向けたまま言った。



 「この剣はもう一度打ち直す。お前らも手伝え」



 は? 


 どうしてそうなる?


ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。

どうかよろしくお願いします。

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