第四十一話 街の英雄
「街を救った英雄。ギネスさんとムラサキさんです!」
街の有力者が私たちを大きな声で紹介する。
大歓声がそれに答える。
街の住民たちが周囲をぐるりと取り囲んでいた。あの闘技場での戦いに匹敵する住民がここに集まっている。皆が笑っている。手を叩いたり、口笛をふく人もいる。
「わずか二人でSランク冒険者を倒すとは信じられません! なんという偉業でしょうか! 皆さま、この二人をたたえましょう!!」
住民たちが熱狂する。私たちをほめたたえる。
その尊敬や賞賛の感情は紛れもなく本物だ。
以前でも私たちは街の英雄と呼ばれていた。しかしそれはあくまでも冒険者ギルド内でのこと。
今や一般の住民にもその名前が広がっていた。
だが私はそれらの賞賛を素直に受け取れないでいた。
カーライルは言った。
自分がこの街を襲ったのは、お前の責任だと。もちろんその言葉を真に受けることなどない。カーライルという人間はどうしようもないほどの悪であった。
しかし、それでも、その言葉は事実でもあるのだ。
私は暗殺未遂事件を暴いた。それが結果的にカーライルの襲撃を引き起こした。それは紛れもない真実。
誰も私とムラサキを責めたりはしなかった。
街の住民も、冒険者たちも、グラウコも。襲撃で家族を亡くした人間でさえも。
正しいことをしたと言ってくれた。私が後悔する必要はないと。
私自身も正しいことをしたと確信している。
しかし正しいことしたとしても、人を死なせたことは事実なのであった。
それは私が死ぬまで背負っていかなければならないもの。
初めはムラサキの妹の仇討ちが目的だった。私はあくまでもその手伝いをするだけ。
それが今や、私自身の問題だ。必ず私が事件を解決させなければならない。それだけが犠牲になった人に対する償いになるだろう。
話を聞く限り、カーライルは真の黒幕ではない。さらに背後にさらなる大物がひかえている可能性が高いらしい。
それに加え、今回の事件でギルド中央部の腐敗ぶりが明らかになった。暗殺事件もその腐敗の一部でしかないようにさえ思える。
ギルド中央部で何かが起こっている。私では想像もできないような何かが。
私にできることなど少ない。
それでも、ここで引くつもりはない。
腐敗を見逃せば、いずれは全ての冒険者に害がおよぶ。
「もう一度、お二人に盛大な拍手を!」
ようやく集会が終わった。
鳴りやまない拍手の中、私とムラサキは歩き出す。
街が破壊され、住民の気持ちが落ち込んでいる。だから少しでも気分を上げるために、こういった集会が必要なのは理解できる。私もできるだけ協力はするつもりだ。
それでも大勢の人前でほめられるのは、どうも好きになれそうにない。これまでの人生で誰かにほめられることなど、ほとんどなかった。どうしても違和感が残ってしまう。
ムラサキは無言のまま私の後ろを歩いている。
その姿はどことなく元気がないようにみえる。
体の方は問題ないはずだ。今回の戦いではスキルのルールに逆らってはいない。
単純な怪我と魔力の枯渇だけだ。ならば死にかけていようと、回復スキルを使えば短時間で傷はふさがる。魔力も数日スキルを使わなければ完全に回復する。
やはりカタナをなくしたことがショックなのだろう。
カーライルが自爆した丘は、地形が変わるほど大きくえぐれていた。当然、そこに置いてきたカタナがみつかるはずもない。
「ムラサキ。大丈夫か?」
「何がですか? わたしはいつでも大丈夫です」
声にほんの少しだけ、はりがない。
やはり落ち込んでいるだ。
ムラサキは基本的に自分の気持ちを表情にださない。
だが私もムラサキとはそれなりに長い付き合いになった。最近はなんとなくだが、ムラサキの表情にでない感情が伝わってくる。
サムライにとって、カタナは魂らしい。
私にはその感覚は理解できそうもないが、何とかしなければならない問題だ。
ムラサキはたった一人の仲間である。戦いではお互いに命をあずけなければならない。
本調子ではないと、私も非常に困る。
問題ばかりである。
しかし立ち止まってなどいられない。
「ギネス君。ムラサキ君」
グラウコが私たちに声をかけた。
戦いの後、グラウコはギルド長に復帰している。シャブリエが行方不明になってしまっためだ。グラウコには人望がある。今のところ特に問題なくギルドは運営されている。
シャブリエがどうなったのか、本当のところは誰も知らない。噂ではギルド中央部に逃げ帰ったとか、他の街でギルド長をやってるとか。モンスターに殺されたなんていうものもある。
冒険者たちが一応はシャブリエを探してはいる。しかしみつかる可能性は低いと思わざるを得ない。
「君たちに話がある。良い話と悪い話だ」
グラウコは何とも言いずらそうに言葉を吐き出した。
大柄な体が小さくみえる。ここのところずっとグラウコは苦しい環境に置かれている。
また一つ、問題が積み重ねられようとしているらしい。
「まず良い話。君たちパーティーの冒険者とのランクが上がった。Bランクだ。Sランク冒険者を倒したのだから当然のことだな」
それは間違いなく良い話であった。Bランクあれば、どの街でも一人前の冒険者あつかいされる。危険も増えるが、クエストの収入もよくなる。
私とムラサキの実力ならば、十分やっていけるだろう。
「そして悪い話だが…」
そこまで言って、グラウコは大きく息は吐いた。悔しそうに表情がゆがむ。
「ギルド中央部に君たちが呼ばれている。拒否はできない。準備ができ次第、この国の王都へ向かって欲しい」
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