番外編 シャブリエの末路
ギルド長シャブリエは逃げ続けていた。
すでに街からは離れ、森の中にいる。
周りには大勢の街の住人も同じように逃げている。それぞれの財産を積んだ馬車でごった返している。
Sランク冒険者がこの街にせめてきたらしい。虐殺をしている。
しかし、なぜ? どうしてSランク冒険者が人殺しをしてるんだ?
住民たちは大声で話し合う。が、答えは出ない。
シャブリエだけはその答えを知っていた。
しかしシャブリエはそれを教える気などまったくなかった。こんな辺境の街の住人など、どうなろうと知ったことではないからだ。
それよりも、どうすれば自分が責任から逃げられるかばかりを考えている。
くそっ! くそっ! くそっ! こんなはずではなかった!
全てはあのギネスとかいう結界師のせいだ。
あの低ランク冒険者がエンマに勝ったから、Sランク冒険者がせめてきたんだ。
だから儂は悪くない。あいつが全部悪いのだ。
とはいえ、さすがのシャブリエも自覚している。
今の現状は非常にまずい。
ギルド長がまっ先に街を逃げ出したのだ。
これがギルド中央部に伝われば、この街のギルド長を解任される。
中央部には出世のライバルたちがたくさんいる。どいつもこいつも儂以上に腐った奴らばかりだ。
そいつらにとって今回の儂の失敗は絶好の餌。間違いなく降格される。そして死ぬまでギルド内で出世できないだろう。
太った体から、冷や汗が流れる。
嫌だ! 嫌だ! 嫌だ!!
こんなところで終わってたまるか!
上に行けばもっともっと甘い汁がすすえる。Sランク冒険者ですら、指先一つで使えるようになる。そうなれば金はいくらでも稼げるし、貴族の地位を買い取ることもできる。やりたい放題できるのだ。
どうすれば。どうすればこの責任を逃れられるか。
そうだ。
儂以外の誰かに責任を取らせればいい。
勝負に負けたエンマか。ギルド長だったグラウコか。
いやいや、やはり一番憎たらしいギネスにするべきだ。
Sランク冒険者とギネスが仲間だったことにしよう。
証拠なんて、適当にでっち上げればいい。何度も繰り返した手だ。やり方はよく知っている。
政治力なら儂の方がはるかに上だ。
みてろ。必ず今日勝ったことを後悔させてやる。
その時、地面が激しくゆれた。
今までとは比較にならないゆれだ。住民の間から悲鳴が上がる。
Sランク冒険者の攻撃に違いない。
シャブリエは恐怖の感情に支配される。すぐにでもSランク冒険者が現れるかもしれない。
逃げなくては。死んでたまるか。
辺境の住民なんていくらでも死んでもいい。知ったことか。
だが、儂だけはだめだ。儂は特別な人間なのだ。
シャブリエは走り出す。
こいつらをおとりにすれば、逃げられる。
しばらく走っているうちに、地震はおさまった。
シャブリエは一人きりになっていた。
ここはどこだ? みおぼえのない場所にきてしまった。
シャブリエにはこの街の土地勘はない。
急に心細くなる。
この地位について以来、常に護衛がついていた。森の中で一人きりになったことなどない。
ガサリッと森の奥で音がした。
なんだ人間がいたか。
ほっとする。よし、こいつに道を聞こう。
現れたのは、小鬼だった。
人間の半分くらいの大きさで、手に木の棒を持っている。
意味のわからない叫び声を上げている。
シャブリエはこのモンスターを知っている。
最弱のモンスター。ゴブリン。
冒険者なら誰でも倒せるほどに弱い。
だが、シャブリエは冒険者ではなかった。
モンスターと戦った経験など存在しない。
そして今はたった一人で、ろくな武器も持っていなかった。
「待て待て待て。待ってくれ! だれか助けてくれぇ!!」
大声で叫ぶが誰もこない。
それだけ住民とは遠く離れてしまっていた。
シャブリエが後さずりする。
あまりの恐怖でカチカチを歯が鳴る。
ゴブリンが次々と森の奥から現れる。
このモンスターには集団で行動する性質があるのだ。
ま、まさか。
この儂ともあろうものが、ゴブリンにやられる?
「わ、儂はシャブリエだぞ! 儂が冒険者に命令するだけで、ゴブリンなど皆殺しにできるんだぞ!!」
ゴブリンがその言葉を聞く様子はない。
じりじりとシャブリエを取り囲む。
逃げ場はもうない。
「や、やめてくれ! 頼む! なんでもする!」
ゴブリンがシャブリエに襲いかかる。
その本能のままに。
シャブリエ自身も知っていたはずだ。
普通のモンスターは知能が低い。
人間の言葉など元より通じない。
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