第四十話 Sランク冒険者カーライル戦⑨
カーライルは自爆スキルを発動した。
さらに自爆スキルの5重発動。それはこの丘を丸ごと吹き飛ばす破壊力があるだろう。
私とムラサキを巻き込んで死ぬ気だ。
なんとかして自爆スキルを止めなければならない。
しかし、私の体は動かない。
傷が重すぎる。そのまま放置していたら死ぬほどの負傷。
激痛がおさまらない。それでも問わずにはいられない。
「…貴様……」
初めからそのつもりだったのか?
誰かを死の道連れにするために、この街にきたのか?
カーライルの体が大きくなっていく。丸くふくれ、人間の形ではなくなる。
あっという間に巨大な球体へと変化する。自爆スキルが発動する前段階。
カーライルが笑った……ようにみえた。
もはや、その表情を読み取ることさえできない。
まさに生きた爆弾だ。いつ爆発してもおかしくはない。
「いいことを教えてやろう。怪物であれ。クズどもに馬鹿にされながら生きるよりは、人殺しとして恐れられる方がましだ」
なにを勝手なことを。
お前が先に人の道を踏み外した。今の環境は自らがまねいたもの。
虐殺をしたのはお前だ。その責任はお前にしかない。
そう言いたいが、のどから血があふれでてくる。大量の血を吐き出す。
しゃべることすら、ひどく苦しい。
そもそもカーライルを精神的に苦しませたところで無意味だ。
いまさら何を言っても無駄。
カーライルは死ぬのだから。悪人は悪人のままで。
その道ずれにされて、私も死ぬ。
今度こそ、打つ手は残っていなかった。
逃げるどころか、立つことさえできない。魔力はなくなり、不完全な防壁しかはれない。これでは自爆スキルの爆発にとても耐えられないだろう。
万全の状態なら爆発はふせげた。もっと魔力を節約できる手が他にあったのだろうか。
いや、後悔してももう遅い。後悔しても現実は変えられない。
カーライルの丸い体が熱くなっていく。
そばにいる私ですら、それを感じられるほどに。
終わりだ。
「加速スキル発動」
小さな声が響いた。
その直後、誰かが私の体を抱える。
顔を上げると、ムラサキの顔がみえる。
ムラサキも血にまみれている。しかしそれでもなお、その姿は美しい。
意識を取り戻したのか。体は大丈夫なのか。
ムラサキは私の体を背負う。そして走り出す。
自爆スキルの範囲から逃れるつもりだ。
だがその走る速度は速くはない。
ムラサキもひどく傷ついている。なによりも、私を背負っていては速度はでるはずがない。
私を捨てて行け、と言おうとした。
そうすれば走る速度は速くなる。爆発の範囲外に逃れられる確率は高まる。
それこそがもっとも合理的は判断。二人で死ぬよりは、一人でも生き残った方がいい。
しかし、やめた。
ムラサキはそんな提案を受け入れるような人間ではない。
下手をしたら自分がここに残りかねない。そんなこと、何の意味もないのに。
サムライか。
どこまでも変な生き方だ。
命をあずけるなら、こんな人間こそがふさわしいと思わせるほどに。
私は背後を振り返る。
カーライルの体が赤く輝く。爆破する寸前だ。
カーライルの表情は、もうみえなかった。
「防壁…スキ…ル発動…」
私は小さく不完全な防壁を背後にはる。
これでは爆発はふせげない。
だが爆発の範囲から遠ざかるなら、効果があるかもしれない。
本当のところはわからない。ただの気休めにしかならない可能性もある。
それでもやれることはこれしかない。
残った全ての魔力を防壁に込める。
直後、大爆発がおきた。
目がくらむほどの光。そして爆風。
空気を、地面を爆風がふきばしていく。
私の防壁にひびが入る。ひびが広がり亀裂となっていく。
やはり不完全な防壁では持たない。破壊される。
そんな結末でいいのか?
認められるはずがない。
私の防壁スキルは誰かを守るためにある。
ここでムラサキを守れずして、何のために生きてきたのか。
この爆発からムラサキを守るために、私はこれまでの人生を生きてきたはずだ。
私の防壁は未だかつて、ただの一度も敵に破壊されたことがないんだ。
防壁に魔力を込め続ける。
頭が割れるほど痛い。魔力の限界をすでに超えている。
だがまだだ。まだ意識は残っている。まだ防壁に魔力を込めることができる。
周囲が爆発の光で満ちる。
もう何も聞こえない。
何も感じない。痛みさえも。
その一瞬には、永遠があった。
気がつくと、私の目の前には青い空があった。
抜けるような青い空である。
今日は晴れだった。私は初めてそれに気がついた。
指一本動かせない。
いや、指自体が存在しているのかもよくわからない。
頭も動かせない。
だから私は声を上げる。
「ムラサキ。生きているか?」
「なんとか生きています」
小さな声で返答があった。
よかった。ムラサキも生きている。
もう少し時間がたてば、ギルドの冒険者たちがきてくれるだろう。
そうすれば回復スキルをかけてもらえるはずだ。
つまり。
私たちは生き残ったのだ。
「しかし、カタナを戦場に置いてきてしまいました。カタナはサムライの魂。どうしましょうか」
あの爆発である。
金属だろうが、跡形もなく消え去っているだろう。
命が助かったのに。ムラサキも死にそうなのに。
まっ先にカタナを気にするとは。
「なに、生きていればいいことあるさ」
そうだ。なんとかなる。
なぜならば。
空はこんなにも青いのだから。
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