第三十九話 Sランク冒険者カーライル戦⑧
「カーライルゥゥゥゥゥ!!!!!」
私はメイスを握りしめ、カーライルに突撃する。
勝算などない。ムラサキを助けなければという激情が私を突き動かす。
「なに!?」
カーライルが驚いた表情をする。
私の行動は予想外だったのだろう。
カーライルにとっても、私は戦えない男だった。
その戦えない男が突撃してきた。驚かざるを得ない。
動きが止まり、すきが生まれる。
だが、私ではそのすきを生かすことができない。
突撃の速度が遅すぎる。ムラサキの加速スキルと比べると天と地の差がある。
さらに魔力を消費しつくして、体が重い。
防壁作成スキルさえまともに使えない。
それでも止まれない。止まるくらいなら死んだ方がましだ。
カーライルの顔から感情が消える。冷静さを取り戻している。
今までの敵のように、カーライルは私を甘くみない。全力で迎え撃つ構え。
手に持ったムラサキを投げ捨てる。
地面に倒れたムラサキはピクリとも動かない。完全に意識を失っている。
もはや完全に勝ち目はない。だが、知るか!!
カーライルが私に向き合う。右手を天にかかげる。
真槍スキルを発動しようとしている。
それを防ぐ手段は私には残っていない。
スキル発動を止める手段も。
終わりか? やはり私たちはここで死ぬのか?
その時。
カーライルがぐらりと傾いた。地面に膝をつく。
口から大量の血を吐き出す。起き上がろうとするが、うまくいかない。
カーライルは化け物だ。そういっていいほどに強い。
だが、化け物にも限界があった。
私たちのこれまでの戦いは無駄ではなかったのだ。
ムラサキの抜刀スキル。
致命傷。その傷が今、カーライルに効いていた。
私は理解した。
ムラサキはもう戦えない。私も攻撃を防げない。
ならば。
今しかない!
このまま押し切るしかない!!
カーライルはなんとか立ち上がる。
まだ目には力が残っている。それでも戦う気だ。
意識が続き限り、戦い続けるだろう。
もうカーライルには帰る場所は存在しない。
「回復スキル発…」
最後までは言わせない!
すでに私はカーライルの前まで達していた。
全力を込めて、メイスを振り下ろす。
狙いは頭。
体を狙っても、カーライルは戦うのを止めないだろう。
ならば、意識を刈り取るしかない!
ゴキャ。
メイスがカーライルの頭に直撃する。
しかしそれでも、カーライルは倒れない。
スキルのない私の攻撃が弱すぎるのか。カーライルの耐久力が異常なのか。
それともその両方か。
カーライルの拳が握られる。
剛腕が私に向かって振るわれる。
私の左腕の骨が折れる。
それでも私は動かない。踏みとどまれる。
スキルのない私でも踏みとどまれるほど、カーライルは弱っている。
まだだ! まだ戦える!
ふたたびメイスを振り下ろす。
直撃する。もはやカーライルには、私のメイスでさえかわせない。
もう一度、カーライルの剛腕が振るわれる。
私の体に当たり、肋骨が砕かれる。
折れた肋骨が肺に刺さり、口の中に血の味が広がる。
だが、まだだ!!!
メイスを振り下ろす。
カーライルの頭に直撃する。
お互いにお互いの攻撃はよけられない。
魔力も策も体力も何もかも出しつくした。ここにあるのは純粋な殺し合いのみ。
三度、カーライルの剛腕が振るわれる。
あごと頬の骨が折れる。
視界が半分消える。右目がつぶれたのだろう。
だが!!
まだだぁぁぁ!!!!!!!!
メイスを振り下ろす。
腕の感覚が消えている。全力を込められているのかさえ、わからない。
だが止まる気はない!
生きている限りは、戦ってやる!!
次の攻撃はカーライルと同時だった。
内臓が破壊される。
だがそれでも、心臓はまだ動いている。まだ生きてるのだから。
立っていることさえ、たまらなく苦しい。両足が崩れそうになる。
体の限界をはるかに超えている。意識を失えば楽になれる。
だが。
まだだ。
私は震える手でメイスを持ち上げた。
そして、振り下ろす。
力は込められていない。
これではカーライルに大したダメージは与えられないだろう。
それでもかまわない。やれることはこれしか残っていないのだから。
振り下ろされたメイスが空を切った。
その直後。
ズシンと地面がゆれた。
カーライルが倒れていた。
頭から血を流し、動かない。
しばらくして、その光景が意味するところ理解した。
信じられない。
勝った……のか?
今さらになって、激痛が私を襲う。
立ってられず手とひざを地面につく。
この痛み。回復スキルを使わなければ、遠からず死ぬ。
左目だけの視界がゆがんでいる。
自分の体がどうなっているのか、考えたくもない。
それでも私には、まだやることがある。
カーライルに止めを。
完全に沈黙する一撃を与えなければならない。
カーライルは倒れてはいる。動く気配はない。
それでも再び立ち上がる可能性は残っているのだ。
意思はある。だが、体がついていかない。この姿勢を保っているだけで精一杯。
立ち上がることがどうしてもできない。いかなる力も私には残ってはいなかった。
頼む。もう少しなんだ。
私の体よ。答えてくれ。
「自爆スキル発動」
カーライルの声が小さく響いた。
私は凍り付いた。
ここまでしてなお、カーライルには意識が残っているとは。
いや、それよりも自爆スキル!?
そのスキルは。
「自爆スキル発動。自爆スキル発動。自爆スキル発動。自爆スキル発動」
自分の命を犠牲にして、大爆発を起こすスキル。
それを五重発動……だと。
スキルを二つ以上、発動すると神の報いを受ける。
だが本人がこれから死ぬのなら、それは意味を持たなくなる。
顔を上げ、カーライルは笑う。
悪意そのものようなカーライルの笑み。
「どうせ俺は死ぬ。道ずれにしてやるよ。ありがたく思えよ」
ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。
どうかよろしくお願いします。




