第三十六話 Sランク冒険者カーライル戦⑤
カーライルに未来はない。
多くの人間を殺し、最後には殺される運命にある。
無表情のまま私たちをながめている。感情というものが抜け落ちたような姿。
地獄から抜け出た亡者。
もはや人間にはみえない。モンスターそのものだった。
「ギネス。お前のせいだぞ」
カーライルは暗い目を、自らが破壊した街に向ける。
「お前がよけいなことをしたおかげで、俺は破滅した。そして人間がたくさん死ぬことになった。この街の人間もな。お前の責任だ」
その時。私が感じたものは後悔でも恐怖でもなかった。
怒り。
激しい怒りであった。
「冒険者を暗殺をしておいて、それがばれたら責任転嫁か。Sランクの冒険者の名が泣くぞ。カーライル」
「てめぇ。ぶっ殺してやる。」
カーライルの無表情が崩れる。
亡者のようだったカーライルにも感情は残されていた。
私と同じ、怒り。
激しい怒りの表情が浮かぶ。
その怒りの感情だけで、カーライルはこの街まできたのだ。
事件を追っていた人間を逆恨みをして。
「それだけの力を持ちながら、人殺しとは! 恥を知れ!!」
本来ならば、戦いに怒りなど不要だ。
怒りは思考をにぶらせる。冷静さこそ勝利へ近づく鍵だ。
わかっている。
わかってる……が。
カーライルは小さい街とはいえ、冒険者のリーダーだった。冒険者たちから信頼られていたはずだ。
それが、このありさまとは。
「誰のせいでもない、お前自身の責任だ!! お前が自ら全てを捨て去ったのだ!!」
「真槍スキル発動」
カーライル右手を天にかかげられる。
巨大な槍が作られていく。魔力をそそぎ続けているため、消えることもない。
「俺が殺した奴らも同じようなことを言っていたな。もっとも途中からは命乞いに変わったが…な」
ぐるりと巨大な槍を回す。
それだけで風圧が私の顔をたたく。
「ああ、そうさ。俺は死ぬ。だがそれはお前らを殺してからだ」
私はメイスを握りしめる。
戦いが始まろうとしていた。
カーライルは策など使わない。
自分の能力に対する絶対的な自信を持っているのだ。向かい合っているけでそれが伝わってくる。
それに対し、こちらも策らしい策はない。
あまりにも時間と情報が足りなかった。この場所もカーライルが指定した場所。
つまり、直接ぶつかり合うしなかない。
実力では負けている。ぶつかり合うだけでは、いずれ負ける。
ぶつかり合いながら勝てる手段をみつけるしかない。
「ムラサキ。私が前に出るぞ」
ムラサキが驚いたような表情をする。
「わたしはあるじ様のカタナ。わたしこそ前に出なければならないのでは?」
「私が防壁でカーライルの攻撃を防ぐ。防ぐうちにカーライルにすきが生まれるだろう。お前はそこを突いて、カーライルを斬れ」
「しかし…」
ムラサキの言いたいことはわかる。
私の防壁スキルでは接近戦になった場合、前衛職の速度についていけない。一面しか防壁をはれないからだ。
当然カーライルも接近戦用のスキルを持っているだろう。
接近戦になったら、勝ち目はない。
「もし接近戦になったら、私ごとカーライルを斬れ」
「……っ!」
接近戦になれば、私はカーライルに殺される。だがそこに数秒のすきが生まれるだろう。
ムラサキが突撃し、カーライルを斬るには十分な時間だ。
無傷でカーライルに勝つなど不可能。
それくらいの覚悟なければこの実力差を埋めることなどできない。
ムラサキの黒い目が私の目をのぞき込む。
ほんのわずかな時間、私たちの視線が交わされる。
「わかりました」
静かにムラサキが言った。
ムラサキは私を主君としている。本当に私ごとカーライルを斬るのかはわからない。
私はムラサキを信頼している。しかしその行動は予測できない。
おそらく今回の戦いでは、ムラサキに指示をだす余裕などないだろう。攻撃の判断はムラサキの感性にまかせるしかない。
しかしそれでも、この会話をカーライルに聞かせることには意味がある。
カーライルが接近戦をためらうかもしれないからだ。むろん無視される可能性も大いにある。
だがやらないよりはましだろう。打てる手は全て打たなければならない。
私はカーライルの方へ歩いていく。
カーライルも私の方へ近づいてくる。
「防壁スキル発動」
私は小さな防壁を作る。腕を守れるぐらいの小さなものだ。
冒険者が使う小さな盾の形にしている。
大きな防壁では作り直すには、数秒かかる。
それでは真槍スキルの攻撃速度には対抗できない。
しかしこれなら腕を動かすことによって、あらゆる面の攻撃に対応できる。
もちろんよいことばかりではない。
その分、腕以外の体を攻撃にさらすことになる。全体の防御力は落ちる。
そして腕を動かすのも、あくまで私でしかない。運動能力は人並みだ。
結局は普通の冒険者が盾を持っているのとかわらない。他のスキルが使えない分、不利でさえある。
それでも防ぎきってやる。
こんなモンスターに殺されてたまるか。
ここまでにかなりの魔力を消費した。残りはあまりない。
だがそれはカーライルも同じ。
耐えきれば何かが起こるはずだ。
怒りが心を焼く。
この街で虐殺をした人間を許すわけにはいかない。
ぶっ殺したのはこちらの方だ。
カーライルが立ち止まる。
私とはまだ距離がある。
しかしそこは真槍スキルの攻撃の範囲内。巨大な槍は普通の武器よりも射程がはるかに長い。
そしてカーライルは真槍スキルは絶対の自信を持っている。
まずはそう来るだろうと読んでいた。
「死ねよ。死んで俺にあやまれ」
カーライルの腕が振られ、同時に巨大な槍も高速で振られる。
すさまじい迫力だった。一撃でもくらったら、即座に死ぬ。
私はそれを防壁で受け止める。小さくとも私の防壁スキルである。
壊れることなく槍を停止させる。槍の重さを感じることもない。
目に前にある槍がきしむ音が聞こえる。
それだけの力が込められているのだ。
カーライルが槍を引き戻す。
次の攻撃がくる。どこから攻撃してくる?
私は必死に考える。相手の攻撃を先読みしなければ。
私の防壁スキルは遠距離では無敵。接近戦ではほぼ無力。
これから始まるのはその中間。
中距離での戦いだ。
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