第四話 おとぎ話の中で
おとぎ話の住人。神にさえ匹敵するといわれるモンスター。
神龍。
その神龍の巨体を前にして、私たち冒険者は時が止まったかのように凍り付いていた。
どれくらい時間が経っただろうか。
私はようやく気がついた。
神龍の周辺の岩場に人間が倒れている。
あれは行方不明になったはずのAランク冒険者だろうか。
どうする?
私たちに神龍を倒せるか?
勝てるわけがない。
では逃げるか?
Aランクの冒険者を見殺しにして?
許されるのか?
それ以外に生き延びる手段はない。
いや、それでも生き延びるのは不可能?
緊急クエストのリーダーの判断はどうなのか?
それ以上、考えている暇すらなかった。
心の中に声が響く。
<気まぐれに下界にきてみたが、やはり人間は弱い。殺さぬように遊んでいたが、もう飽きた。皆殺しにしてやろう>
神龍の巨大な口が白く輝く。頭部の形がぼやけているように見える。
まさかあれは莫大な魔力の集中によって、空間自体がゆがんでいるのか。
その直後、神龍の口から大量の純白の炎が放たれた。
一直線に私たちの方へ向かってくる。
その様子はあまりにも美しく、世界の終末さえ連想させる。
「防壁作成スキル発動!!!!」
私は最大強度の防壁を神龍と仲間たちの間に張った。
最大強度の防壁と白い炎が衝突して、魔力の火花が盛大に舞い散る。
防壁から神龍の攻撃の性質が伝わってくる。
この攻撃は、今まで戦ったモンスターの攻撃とは次元が違う。
仮に人間が触れれば、燃えるどころか即座に消え去ってしまうだろう。
それでも私の最大強度の防壁は破壊されることはない。
だが、1秒ごとに信じられないほどの魔力が消費されていく。
私の魔力はどれくらい持つ?
後、2分。
わずか2分だと!?
普通の冒険者よりもはるかに多い魔力量を生まれ持ち、たった一つのスキルを磨いてきた。
冒険者になって10年。あらゆるモンスターの攻撃を防いだ。
数十匹のドラゴンのブレスを受け切ったこともある。
ゾンビから街を守るために、夜が明けるまで防壁をはり続けたこともある。
それなのにわずか2分か。
私は叫んだ。
「この防壁はもう持たない!!! 早くAクラス冒険者を連れて逃げろ!!!」
この叫びで他の冒険者たちが凍結から解け、あわただしく動き出す。
即座に逃げ出すもの。Aランク冒険者を助けだそうとするもの。動けない仲間を引きずって退避しようとするもの。
「あんたはどうするんだ?」
中年の冒険者が私に聞いた。
「私は最後に逃げる! だから先に行ってくれ!!」
嘘だった。
防壁を出している間は動くことができない。
そして防壁を消した瞬間、白い炎で消し飛ぶだろう。
もう私に打てる手などない。
2分後。私は絶対に死ぬ。
だがそれでも私は冒険者を辞めようとしていたのだ。
悪くない死に方だった。
誰かを助けるために死ぬ。
それは確かに、悪くない死に方だった。
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