第三十五話 Sランク冒険者カーライル戦④
カーライルが待ち受ける丘までもう少し。
周囲には、真槍スキルによって開けられた大穴がいたるところにある。
全ての建物は倒れ、街は破壊しつくされている。
地獄のような光景だった。
ここから先には、生きてる住民はもういないだろう。
普通の冒険者なら建物の破片に隠れながら街を進むだろう。
カーライルにみつからないために。
だが私は違う手段を取った。あえて身をさらすことにしたのだ。
カーライルの攻撃を受けるために。
巨大な槍が降ってくる。まともにくらえば即死する攻撃だ。
だが私には防壁スキルがある。遠距離の攻撃はいかに強力であろうと通さない。
「防壁スキル発動!」
すさまじい衝突音と共に、防壁が槍を防ぐ。
その合間に私とムラサキは街を疾走する。
すでにこれを数十回は繰り返している。
防壁をはるには魔力が必要。もともとエンマと戦いでかなり魔力を削られている。これ以上魔力を消費するのはよくはない。
だがスキルで魔力を消費するのは相手も同じだ。強力なスキルほど魔力の消費は激しいもの。
ましてや、これだけ街を破壊したのだ。魔力は私以上に削れているはず。
この世界に無限に魔力を持つ人間は存在しない。
Sランク冒険者といえども限界があるはずだ。
私の魔力とカーライルの魔力。
同じように削れるなら私たちの方が有利になるはずだ。私の魔力は守ることにしか使えないのだから。
本当にそうなのか。自身の願望が多分に混じっているのは否定できない。
しかし現時点で打てる手はこれしかない。やれることはやっておきたいのだ。
カーライルの情報が極端に少ない。
不確定な部分が多く、戦術の立てようがないのだ。
だから戦いは正面から激突するものになる。実際に戦いながら戦術を考えるしかない。
ムラサキは大人しくとなりを走っている。
うっすら笑みを浮かべているのがみえる。これからの戦いが楽しみなのだろう。
戦いの前にいつもする、美しくも恐ろしい表情だ。
「ムラサキ。今回は敵に全力を出させるとか、やめてくれよ?」
エンマとの戦いでムラサキはあえて手を抜いた。
サムライ以外には理解不能の行いだ。
「しません。敵は格上です。これだけの破壊をする能力があるとは、戦いが楽しみです」
ムラサキにはSランク冒険者さえも怖くはないようだった。
サムライが目指してるものは、サムライ以外の人間には理解できない。
ムラサキの黒い目が私をみる。
「あるじ様こそ、今回は相手を殺すなとか言いませんよね?」
「ああ、言わない。カーライルは死ぬしかない」
おそらく数百人は殺しただろう。
カーライルの行いは万死に値する。
カーライル自身も生き残れるとは考えていないはずだ。
どうあがいてもカーライルは死ぬしかない。死を覚悟したものに情報を吐かせることなどできはしないのだ。
そもそも生かして捕えようする余裕はない。相手は雑魚ではない。Sランク冒険者だ。
これからの戦いは相手が死ぬか、私たちが死ぬか。
そのどちらかしか、結末は存在しない。
私たちは街を抜けた。
丘の上に人間が一人立っているのがみえる。
その体型から男であるとわかる。背が高く、横幅も大きい。
あの男がカーライルだろうか。
私は周囲を観察する。罠がはられているとしたら、この場所。
ただでさえ実力では負けているのだ。慎重の行動しなければならない。
一手も間違えられない。間違えたら終わりだ。
「おいおい、早くこいよ。さっさと戦おうぜ。俺は一人だぞ」
丘の上から男の声が降ってきた。低くかすれた男の声。
直感した。
この男こそがカーライル。
声を聞くだけで威圧されるような風格がある。
だが、私は動かない。動く必要がないからだ。
そもそも敵であるカーライルのいうことなど、信じられない。
では、どうする?
どうやって罠や仲間がいないことを確かめる?
その解決方法をカーライルの方が示した。
「なんだよ。疑り深い奴らだな。だったら俺がお前らの方に行ってやるよ」
カーライルがゆっくりと丘を降りてくる。
それとともに、少しずつカーライルの姿がみえてくる。
ひどい姿であった。
全身が赤く染まっている。
カーライル自身の怪我ではなく、そのすべてが誰かの返り血だろう。
着ている鎧もほとんどが壊れている。服も破れているところが多い。
目だけが異様にギラついている。
それは地獄から抜け出た亡者を連想させる。
ギルドからの追っ手との戦いのはてに、カーライルはこの場所に立っている。
無傷のはずがなかったのだ。
カーライルは無表情のまま言う。空っぽの表情だった。
「お前がギネスか。俺を破滅させた奴にしては弱そうだな。がっかりだぜ」
今まで戦ったどの敵とも違う。
生きながらにしてすでに死んでいるような印象。
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