第三十四話 Sランク冒険者カーライル戦③
私とムラサキは街を疾走する。
目指すは、カーライルが待ち受けているであろう場所。
避難する人の群れを走り抜ける。
進むにつれ人間は減るが、そのかわり壊れた建物が増えてくる。
カーライルによって破壊されたのだろう。
カーライルにとって、街を壊すことには何の得もない。
楽しんでいるのか。人を殺し、街を破壊することを。
「あるじ様。まだ魔力は持ちますか?」
ムラサキが走りながら聞いてくる。
Aクラス冒険者エンマとの戦いから、ほとんど時間がたっていない。
魔力を回復する時間はなかった。
戦いには勝ったものの、魔力の消費は激しかった。
闘技場を横断する大きさの防壁を何度もはったのだ。
すぐに魔力を回復する手段は、この世界に存在しない。
それは神の領域。人間が干渉できることではない。
だからこそ魔力の管理は、戦いにおいてもっとも重要な要素なのであった。
今となっては、エンマとの戦いが遠い昔のように感じられる。
私たちはギルドの権力争いなどしている場合ではなかった。
「正直言うと、かなり削られている。お前はどうだ?」
ムラサキも全力のスキルを何度も使っている。
魔力を消耗していないはずがない。
「そうですね。全力での抜刀スキルはあと一回できるかどうか、でしょうか」
ムラサキの魔力量自体はそれほど多くはない。
そしてムラサキの抜刀スキルは命がけである。使う魔力の割合はムラサキの方が高い。
強敵との連戦によって、間違いなく私たちの戦闘能力は落ちている。
だか。それでも。
「この場での泣き言など無意味。今ある戦力で勝つ以外の選択肢はない。そうだろう?」
「もちろんです。さすがわたしのあるじ様。」
ムラサキは怯えや恐怖など感じていない。
ただ、前だけをみつめている。その姿はまるで一本のカタナのようでさえある。
戦いとは常に万全の状態で始まるわけではない。
その限られた条件のなかで、勝利をもぎ取らなくてならないのだ。
どうすればカーライルに勝てるのか?
必死に考える。答えが間違っていたら死ぬことになる。
「もう一つ。カーライルが使う真槍スキルとはどのようなものでしょうか?」
ムラサキは真槍スキルを知らないのだ。
無理もない。真槍スキルは一般の冒険者が使うようなものではない。使い手の少ない、非常に珍しいスキルだ。
長く冒険者をやってる私さえ、実際にこの目でみたことはない。書物からの知識としてあるだけだ。
「真槍スキルとは巨大な槍を作り出すスキル。それに加え、作り出した槍を自在に操れる。強力ではあるが、小回りはきかない。対人用ではなく、対軍隊用のスキルだ」
スキルとはただ強力なものを使えばいいというものでもない。強力なスキルはそれだけ魔力を消費する。魔力を消費しつくせば、体が動かなくなる。
戦闘スタイル。魔力量。そしてパーティーでの役割。
その全てを考慮して使用するスキルは決められる。強力なスキルを使えるからといって、その人間が強いわけでもない。
「破壊力に特化したスキルといってもいい。その破壊力は…。ああ、これ以上説明しなくもよさそうだな」
目の前に巨大な穴が現れる。普通の家がすっぽりと収まってしまいそうな大きさだ。穴の底は暗くてみえない。それほど深い穴だということ。
周囲には建物の破片が散らばっている。
どうやら巨大な槍が建物を直撃した。そしてついでのように、地面に穴を開けた。
なんという破壊力。
このスキルを連射できるとは、やはりSランク冒険者は格が違う。
あのムラサキでさえ、驚いている。
これほどの破壊力。普通の冒険者の生活ではまったく必要ない。なぜカーライルはこのスキルを使おうと考えたのか。
「これは…。このスキルをくらったら、バラバラの肉片になってしますね。どうやってスキルをかわしたものか」
「真槍スキルだけなら、私の防壁で防ぐことができるぞ」
私の防壁スキルは一面だけなら、あらゆる攻撃を防ぐことができる。防ぐだけなら、Sランク冒険者を超える力を持っている。
「問題はそこからどう戦術を組み立てるかだ。守っているだけでは勝てない。カーライルも使うのはこのスキルだけではな……」
「あるじ様!!」
突然、ムラサキが叫んだ。
ムラサキの視線をたどると、空に黒い点がみえる。
その点はみるみるうちに大きくなる。
巨大な槍だ。
正確に私たちを狙ってくる。
「防壁作成スキル発動!」
私はとっさに防壁をはる。
それほど大きなくてもいい。私とムラサキさえ守れれば。
もう周囲には人影はない。この辺りの住民はすでに避難を終えている。
耳をふさぎたくなるほど大きな衝突音が鳴り響く。
槍の先が防壁と衝突して火花を散らす。
重い。なんという重さだ。
が、防げないほどではない。
巨大な槍が少しずつ砕けていく。
いかに強力でも、あくまでスキルで作ったもの。魔力を込めずに維持し続けることは不可能だ。
私の防壁と同じ。
「あるじ様! 敵は!?」
ムラサキが周囲を警戒している。すでにカタナに手をかけ、戦闘態勢。
だが、カーライルらしき人間はみあたらない。
建物の破片ばかりで生きている人間はいない
「いや、槍を投げたことからカーライルは周囲にはいない。周囲にはいないが、槍は正確に私たちを狙ってきた。私たちの姿を直接みられている可能性が高い。」
私はメイスをかかげる。
「槍が飛んできた方向も考えると、カーライルはあの丘の上にいるはずだ」
「なるほど。私たちを誘っているというわけですか」
ムラサキが戦闘態勢を解除して、街の外にある丘をにらむ。
その通りであった。
カーライルもこの一撃で私たちが死ぬとは考えてはいまい。
罠か。それとも余裕の表れか。
どちらにしろ、私たちにはあの丘へ行くしかない。
私たちには遠距離から攻撃するスキルを持っていない。
「ムラサキ。私の側から離れるなよ。ここからは敵はさらに遠距離から攻撃してくるだろう。私が防ぐ。お前は魔力を温存してくれ」
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