第三十三話 Sランク冒険者カーライル戦②
冒険者ギルドに到着するなり、私は叫んだ。
「ムラサキ! お前はギルド長にある書類を全部持ってきてくれ! 私が使える情報か判断する!」
「わかりました」
ギルドの中には誰もいなかった。外とは違い、とても静かだ。
職員は闘技場にいるか、逃げ去ってしまったらしい。
ギルド職員の机を片っ端からひっくり返していく。とにかく時間がない。多少は乱暴な行為でもしかたがないだろう。
書類を読んでは床に捨てる。どうでもいい情報ばかりだ。
気持ちばかりがあせる。
だが何の情報もなしでは、Sランク冒険者と戦えるはずもない。
「あるじ様、持ってきました」
いつの間にか隣にムラサキに立っていた。両手に書類を抱えている。
「ずいぶん早いな」
「机や本棚をカタナで切り裂きながら集めました」
よくみると、角が切れている書類がいくつかある。
さすがにムラサキを問い詰めたくなるが、後回しだ。
山積みにされた書類を乱雑にめくっていく。
まだか。まだ情報はないのか。
時間ばかりが無駄に流れていく。
「これだ!!」
思わず私は大声で叫んでいた。
これこそが私たちが求めていた情報だ。
それほど時間がかからずに発見できて、本当によかった。
あらゆる意味でシャブリエは仕事は、ずさんであった。だが今回ばかりはそれに助けられた。
ギルドの機密情報ならば、もっと厳重に隠されている可能性もあったのだから。
あるいは、そもそもこれは機密情報ですらないのか。
隠し切れないほど事態が深刻になっている。そう考えるべきか。
私は書類を読み上げる。
ムラサキは文字が読めない。この国の人間ではないからだ。
いや、この国の人間でも文字を読めるのはそう多くはない。人口の半分程度。
私自身はは元のパーティーでギルドとの交渉もしていた。だから文字を勉強した。
情報を読み上げるにしたがって、敵の正体が明らかになる。
「Sランク冒険者カーライル。とある小さな都市での冒険者のリーダーをしていた。得意スキルは真槍スキル。たった一人でトーロルの軍隊を撃退したこともある」
冒険者として、立派な経歴であった。
特にモンスターの軍隊を撃退した行為は、英雄とたたえられてもいい。
ところが、ここからカーライルの人生は暗いものになる。
一週間ほど前のことだ。
「かねてより冒険者を暗殺している容疑がかけられる。その裁判の場で、関係者全員を殺害。逃亡する」
カーライルはあの暗殺未遂事件の関係者だったのか。
そして関係者全員の殺害。暗殺の容疑を認めたに等しい。
なんてことをする。いったいこいつは何人殺したんだ?
「ギルドでも追っ手を出したが、返り討ちにされた。今後、莫大な懸賞金をかける予定。カーライルは事件を追及しようとした人間を殺して回っている。理由は不明」
つまり、この街にカーライルが現れた原因は。
「そちらの街は、はじめて事件の手がかりをつかんだ場所である。カーライルが襲撃する可能性は十分にある。あらゆる備えを要請する」
これで終わりだった。
この街に備えなど、存在しない。
「あるじ様。自分を責めてはなりません」
ムラサキが私に言う。
心配しているような表情ではない。いつもの顔だ。
当たり前のことを言っているだけ、と思っているに違いない。
「ああ、わかっている。全てはカーライルを倒してからだ」
敵のことを想像する。
カーライルはもう終わりである。あまりにも罪を重ねすぎている。
近い未来、他のSランク冒険者に狩られる運命だ。
カーライル自身も生き残る気はないように思える。
裁判で関係者を皆殺しにするだけでない。それからさらに人殺しを続けるとは。
損得を計算する理性ですら残ってはいないだろう。
この怪物に話し合いをするなど不可能。
何をどう話し合おうともカーライルは死ぬしかない。
だからこそ、虐殺に手を染めることができるのか。
それに加えカーライルは一人。あるいは少人数のパーティーであることが推測できる。
こんな人間についてくる冒険者が多いはずもない。
さらに、この街に来るまでに戦いを重ねている。脱落者も多いはずだ。
得意スキルも判明した。
得意スキルがわかれば、ある程度の戦いのスタイルも推測できる。
何の情報もなしで戦うのとは天と地の違いがある。
これらの情報は大きい。
冒険者ギルドにきたのは無駄ではなかった。
ギルドの外にでると、大勢の住民が街から逃げたしているのが目に入った。
いまやこの街は恐怖の感情で満ちている。それは戦場の光景。
ほんの半日前までは、誰一人想像すらもしなかっただろう。
全ての住民がはつの方向に避難しようとしている。
私は確信する。カーライルはその反対方向いる。
私とムラサキはそこへ向かう。
もうすぐ私はカーライルと戦う。
カーライルがこの街に来た目的は私を殺すために他ならない。
暗殺がばれる原因を作ったのは私である。
ならば
私自身がその始末をつけなければならないだろう。
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