第三十二話 Sランク冒険者カーライル戦①
ギルド長であるシャブリエは言った。
この街をSランク冒険者が攻撃していると。
そんな話、とても信じられるものではない。
もしそれが本当なら、今起きているのは虐殺だ。
これまでのギルド内での権力争いとはわけが違う。犯罪どころではない。Sランク冒険者の力なら、この街を滅ぼすことすらできるだろう。
だが、しかし、それでもあり得ないと思ってしまう。
街を滅ぼす力はあるにしろ、それを実行したらどうなるか。
莫大な懸賞金がかけられるだろう。最終的には他のSランク冒険者たちや国の軍隊に狩られてしまう。
そんな馬鹿なことをする人間は存在しない。
存在しないははず……だった。
周囲の冒険者たちもあまりの衝撃に言葉が出ない。
あのムラサキでさえ黙り込んでいる。
「シャブリエ!! どういうことだ! 何を知っている!」
私はシャブリエを問い詰める。何がなんでも情報を吐き出せなければならない。
もはやギルド内での権力争いをしている場合ではない。
「3日前にギルドに情報が届いたのだ。ギルドに反逆したSランク冒険者について……」
シャブリエは追いつめられた表情で告白した。
暑くもないのに汗びっしょりである。
そんな情報があったとは。私たちにはまったく知らされていなかった。
「まさかその情報が本当だとは。く、詳しくは知らん! 知りたければギルドで確認しろ!」
シャブリエは情報を知らされながら、それを無視したのだ。与えられた情報をくわしく読み込んすらいない。
権力争いに夢中で、関心を持てなかった。
ギルド長としての義務をはたそうとしなかったのだ。
そのせいで虐殺が起こっている。
ギルドの支配どころか、この街の明日すら危険にさらしてしまっている。
「わ、わ、儂は悪くないぞ! お前らが儂に逆らったのが悪いんだ!!」
シャブリエが私たちを指さす。
この期におよんで、自分の責任を認めようとしない。
「この男を斬り捨てましょう。その方がこの世界のためです」
ムラサキがカタナに手をかける。
グラウコや他の冒険者たちもそれを止めようとしない。特にグラウコはムラサキに手を貸しかねない勢いだ。グラウコもギルド長だっただけに、怒りの感情も大きい。
だが、今は同士討ちをしている場合ではない。
「やめろ。ムラサキ。まずは情報を集めるのが最優先だ」
いかにシャブリエが無能であろうとも、この場で殺すことに意味などない。
私たちがするべきことは決まっている。
本当にSランク冒険者がこの街を攻撃しているのかの確認。
本当だとすれば、Sランク冒険者と戦わなければならない。
今はそれに集中するべきだ。
シャブリエに責任を取らせるのは、この危機を乗り越えた後でもいい。
「よし。まずはギルドに行って、情報を確認しよう。シャブリエ、お前も協力してくれ。この街が滅びてしまったらギルドの支配もないだろう?」
だがシャブリエは私の提案を受け入れない。
顔を真っ赤にして怒り、大声で叫ぶ。
「ふ、ふざけるな! どうして儂がCランク冒険者ごときの命令を聞かないとならん! 儂は逃げるぞ! こんな田舎で死んでたまるか!!」
シャブリエは起き上がると、私たちに背を向け走り出す。
その太った体は逃げ惑う住人たちにまぎれて、すぐにみえなくなる。
「なんて奴だ。人間のくずだな」
グラウコが憎しみを込めてつぶやく。
この場にいる全員が無言のままそれに同意する。
Sランク冒険者と戦うならば、勝機は少ない。
普通の住民なら、逃げるのが正しい行動だ。
だがシャブリエは普通の住人ではない。ギルド長だ。
この街で戦えるのは冒険者しかいない。そしてギルド長はそのまとめ役。
本来なら冒険者に指示を出し、最前線で戦うべきなのだ。
その時、再び地面が揺れる。
Sランク冒険者による虐殺が続いているのだ。
こうしている間にもこの街の住民が死んでいる。
これ以上シャブリエに関わっている時間はない。なんとしてもSランク冒険者を止めなければ。
「グラスコ。あなたはここに残って、この街の住人が安全に避難できるように指示を出してくれ。このまま大勢の住民が適当に逃げ惑うと、それだけで死人が出ることなる」
「Sランク冒険者はどうするのだ?」
「私とムラサキで相手をする」
最初から他の選択肢などなかった。
低ランク冒険者では何人いようが戦力にはならない。エンマたちはAクラス冒険者だが、私たちに協力しようとはしないだろう。
「…っ! ギネス、本当にそれでいいのか?」
グラスコも勝ち目が薄いのを理解している。
Sランク冒険者は格が違う。
ある一定の強さ以上の冒険者は自動的にSランクになる。その強さに上限は存在しない。
「ああ。私とムラサキなら勝てないにしろ、時間稼ぎぐらいはできる」
グラスコはわずかな時間考え込み、言う。
「わかった。情けないが、そうするしかなさそうだ。頼む。この街を救ってくれ」
周囲の冒険者たちも悔しそうに顔をゆがめる。
その気持ちはわかる。力を持っていない人間の悔しさは誰よりも理解できる。
「住人を安全に避難させるもの立派な仕事だ。こちらこそお願いする」
そして、ムラサキに問いかける。
「ムラサキ。共に戦ってくれるか?」
「当然です。わたしはあるじ様の家来。どこまでも隣で戦わせていただきます」
ムラサキが胸をはって答える。
ああ、お前ならそう言ってくれると思っていたよ。
「ではいくぞ! それぞれが役目をはたせば、この危機を乗り越えられるはずだ!!」
私の声と共に、ここにいる全ての人間が動きだす。
街の住民のことはグラスコたちにまかせるしかない。
私とムラサキは冒険者ギルドに向かって走り出す。
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