番外編 ギルド中央部の失敗
ギルドの幹部レスコットはいつになく興奮していた。
これは絶好の出世のチャンスだ。
この仕事ををうまくこなせば、さらに高い地位に食い込むことができる。
今でもレスコットの権力はそれなりにはある。
レスコットの仕事は犯罪をおこした冒険者を裁くことである。最終的にはそれらの冒険者たちは国に引き渡されるが、それはギルド内での裁きが終わってからだ。
いわばギルド内での裁判官である。レスコットに逆らったら、普通の冒険者はギルドを追い出される。
だから当然、冒険者たちには恨まれている。その自覚は一応ある。
だがそんなことは知ったことじゃない。
あいつらは野蛮人だ。モンスターと変わりはしない。
私たちが冒険者を支配してやねば、いつ犯罪をするかわからないのだ。
冒険者どもはクズだ。私はそのことをよく知っている。
低い金属音と共に扉が開く。
大勢の冒険者たちが入ってくる。その中心には両手を縛られた大柄な男がいる。
周囲の冒険者たちよりも横も縦も大きい。まるで熊のよう。
こいつだ。
Sランク冒険者カーライル。
こいつが私の出世の道具だ。
カーライルは周囲の冒険者に引っ張られ、レスコットの前にひざまずいた。
部下や冒険者たちはカーライルに対しておびえを隠せない。
ふんっ。この臆病ものどもが。
だからお前らはいつまでも出世できないんだ。
「Sランク冒険者カーライル。お前こそが冒険者の暗殺を企てた。間違いないな?」
カーライルは答えない。感情の読めない目でレスコットをみている。
それでもレスコットの自信はゆらがない。
すでに全ての証拠はそろっているのだ。
以前より冒険者が暗殺されているという噂はあった。
だがあくまで噂は噂でしかない。証拠がなければギルドは手が出せない。
しかし、それがここ一か月で急変した。
とある辺境の街で、初めて暗殺の証拠が出たのだ。
捕まったのは取るに足りない小物ではあった。
それでも拷問の結果、それなりの情報を吐き出させることができた。
そこからレスコットはありとあらゆる手段を使って、暗殺の黒幕を追った。
脅迫に拷問。時には金での解決。飴と鞭。
そしてついに今日、Sランク冒険者カーライルにまでたどり着いたというわけだ。
もっともレスコットはカーライルが真の黒幕だとは思っていない。
Sランク冒険者一人だけで、これほどの陰謀を実行できるはずかない。
もっと上位の人間がかかわっているはず。この国トップの冒険者、あるいはギルドの指導者の誰か。さらなる大物がひかえているはずだ。
そいつを捕えれば、最高の手柄である。
レスコットの地位も今よりもはるかに上がるだろう。ギルドの指導部入りも夢ではない。
そう思うと、やる気があふれてくる。
絶対にこの裁判は成功させなければならない。
「お前が暗殺を主導したことはすでにわかっている。その罪、この国の法律に照らすと死刑だ」
カーライルは黙ったままだ。
衝撃を受けているのだろう。Sランク冒険者だろうが、死刑は恐ろしいらしい。
「だが、お前をそそのかした人間がいだろう? その人間を白状すれば、罪は軽くなる。どうだ? 話してみないか?」
できるだけ優しく聞こえるように、レスコットは言う。
本当は罪が軽くなるなど嘘。何をしようがこの男の死刑だ。
情報を引き出せるならどんな卑劣な手段もとる。こいつらは犯罪者だ。
何をしたって怒るものは、誰もいない。
カーライルは答えない。
レスコットは舌打ちをする。
ここで白状すれば楽だったのに。
まあ、しかしこの男を拷問する楽しみができたと思えばいいか。
「答える気はないようだな。ならば無理やりにでも聞き出すだけだ。おい! 冒険者ども! この男を拷問室まで運べ!」
「その必要はない」
カーライルがぼそりとつぶやいた。
そして両手を縛られたまま、立ち上がる。
周囲の冒険者たちがひざまずかせようとする。しかし動かない。
「俺はもう終わりだ。これからどうあがいても、結局は死ぬことになるだろうな。ならば」
自殺する気か? とっさにレスコットはそう思った。
それはまずい。ここで自殺されたら手がかりが消えてしまう。
そうなったら出世の夢も消えてしまう。
「待て。落ち着け。まだ死刑になると決まったわけじゃない。黒幕さえ告白すれば、再び冒険者に戻ることも…」
カーライルが笑う。それはモンスターを思わせる恐ろしい笑みだった。
「だれが自殺すると言った? どうせ終わりなら、暴れるだけ暴れてから死ぬつもりなだけさ。手始めにお前らを殺すぞ。真槍スキル発動!」
カーライルの頭の上に巨大な槍が作られていく。
見上げるほどに大きくなっても、さらに成長は止まらない。槍が天井を突き破っていく。
真槍スキル。
情報はあった。この男がもっとも得意とするスキルだ
しかし、これほどとは。
「冒険者ども! こいつを攻撃しろ!!」
死の危機を感じて、レスコットが叫ぶ。
冒険者たちがそれぞれのスキルを使って、カーライルに突撃する。
「ククッ。弱いなぁ」
カーライルの巨大な槍がくるりと回転する。
それだけだった。
それだけでこの部屋に戦える人間はいなくなっていた。
血が飛び散り、部屋が悲鳴に満たされる。
たった一撃で、10人以上の冒険者が戦闘不能にされていた。
「弱すぎだろ。もっと鍛えろよ。これだからギルドの犬は」
両手をを縛られたまま、カーライルはあきれたように言う。
そしてレスコットの方へ巨大な槍を向ける。
「まあ、俺は終わりだ。だがお前の終わりの方が先だったな」
その瞬間、いまさらながら気がついた。
自分が致命的は失敗をしていたことに。
もはや全てが遅かった。
「ま、ま、待て! 私を殺したらお前の家族も殺されるぞ!! それに仲間も! 後悔するぞ!!」
「残念だが、俺に家族はいない。仲間は俺以上の悪党だから、自分自身で何とかするだろ。つまりお前が心配する必要はないってことだ。じゃあな、ギルドのお偉いさん」
容赦なく巨大な槍が飛ばされる。
レスコットにはそれを避けることはできない。
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