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第三十一話 街の炎上

 闘技場に観客の大歓声が降り注ぐ。その全てが私たちをたたえる声援。

 それと同時に色々なものが投げ込まれる。それを売るだけでひと財産が作れそうな量だ。


 私はムラサキの元へ歩き出す。


 ムラサキはこれほどの声援にも表情を変えない。勝利を誇る様子もない。

 ただ、じっと私を待っている。



 これ以上ないほどの大勝利であった。

 地元の冒険者が勝った。それだけでなく最後は美女同士の派手な一騎打ち。

 見世物としては完璧すぎる筋書きとなった。観客は熱狂せざるを得ないだろう。

 


 意識を失ったエンマが運ばれていく。

 エンマを運ぶ冒険者たちに迷いはない。敵であろうとも冒険者同士、助け合うという意思が感じられる。

 それは優しさか、それとも甘さか。


 

 ムラサキの前まで到着し、私は聞く。

 

 「ムラサキ。怪我はないか?」


  あれほどの紙一重の勝負だ。ムラサキも怪我をしてても不思議はない。

 

 「大丈夫です。あの女は強敵でしたが、剣が届く前に斬り捨てました」


 

 しかしよくよく観察すると、ムラサキの服が破れている。

 腹のあたりが切り裂かれ、白い肌が露出している。

 みたところ血は出ていないが。


 「服が破れてるぞ。みせてみろ、怪我の具合をみてやる」


 ムラサキは私に言われて初めて気がついたらしい。

 凄まじい速度で服の破れ目を手で押さえた。


 「や! これは! みないでくださいあるじ様!」

 

 顔を真っ赤にして慌てている。

 このままどこかへ逃げ出しそうな勢いだ。


 

 ムラサキはわからない。


 私は一か月ほど、私はムラサキと共に暮らしてきた。

 しかし未だにわからないところばかりである。


 戦場での勇ましさ。少し肌をみられただけでこの慌てぶり。

 私のことを主君としている。先ほどの命令無視の様子。

 深遠な哲学を語る。子供のように意地ははる。


 矛盾ばかりの、理解不能な変な奴としか言いようがない。


 こんな人間とパーティーを組めるのは、この国でも私だけかもしれない。

 一緒にいて退屈だけはしない。その分、いらない苦労もするのだが。


 

 私は服を脱いで、ムラサキに投げた。


 「怪我がないなら、この服を巻いておくといい。とりあえずは破れを隠せるだろう」


 「あ、ありがとうございます!!」


 ムラサキは服を受け取り、体に巻き付ける。

 涙目になりながら、私に感謝している。別にそこまで感謝されるようなことしていないはずだが。


 

 観客の大歓声はまだ収まらない。

 永遠に続くとさえ思える。

 

 

 「ムラサキ。街の住人がお前をたたえているぞ。それに答えたらどうだ?」


 「いいえ。わたしはあるじ様の家来です。わたしの功績は、全てあるじ様の功績。たたえられるべきはあるじ様だけです」


 ムラサキが胸をはる。

 相変わらずめんどくさい性格である。

 

 

 まあ、そういうことにしておいてやるか。



 「よし、では次の仕事に取りかかろう。私に付いてこい」


 「戦いはもう終わったのでは? エンマはすでに戦闘不能です」


 「エンマとの戦いは勝った。しかしシャブリエとの戦いはこれからだ」



 エンマとの戦いに勝っても、それだけでは何が得られるわけでもない。

 次は新ギルド長のシャブリエを追い込まねばならない。シャブリエとの駆け引きから、都合のよい条件を引き出しさなければならない。

 それが終わって初めて、私たちの本当の勝ちになる。



 シャブリエは正式な新ギルド長だ。斬って捨てるというわけにはいかない。

 こちらが犯罪者になってしまう。



 これまでは純粋な力のぶつかり合い。これからは政治的な駆け引きの戦いだ。


 



 私たちがシャブリエの特等席に到着した時、ギルド長だったグラウコもそこにいた。

 グラウコだけではない。多くの低ランク冒険者たちも。


 ここにいる全員がわかっているのだ。ここでシャブリエを逃がしてはならない。



 シャブリエは真っ青な顔で、ぶつぶつとひとり言をつぶやている。

 太った体が今は小さくみえる。


 「は、馬鹿な。馬鹿な。な、なんで負けるんだ? こちらはAランク冒険者10人だぞ。あの役立たずどもめ…」


 もはやシャブリエの周囲には誰もいない。

 味方していた有力者たちも去ってしまっている。

 しょせんは損得だけの浅い付き合い。旗色が悪くなれば、見捨てらる。


 

 冒険者たちを代表して、私が言う。


 「シャブリエ。もう終わりだ。お前が突きつけた条件を引っ込めろ」


 真っ青だったシャブリエの顔が怒りに染まる。


 「この無礼ものめ! 誰に向かってそんな口を叩いているんだ!!」


 「残念だが、今のお前に味方はいない。守ってくれるAクラス冒険者も。お前の権力には誰も従わない。あきらめろ」


 言葉を続ける。


 「私たちはエンマとの模擬戦に勝った。だからお前はギルド長をやめるべきだ」


 

 シャブリエがあまりの悔しさで歯ぎしりする。

 ここで引けば、ギルド内でのこれ以上の出世は絶望的になる。

 

 何かを思いつたように、顔を上げる。


 「そ、そうだ! これはたかが冒険者同士の模擬戦にすぎない! 負けたとしても、ギルド長の地位など関係ない!!」


 太った顔にゆがんだ笑みが張り付けられる。

 

 「今回のは街の住人に向けた茶番にすぎない! だから全部無効だ!!」


 

 そうきたか。

 本来は模擬戦にギルドの未来を決める権利などない。

 シャブリエ自身が持ち出してきた条件だ。


 シャブリエは自分が持ち出したはずの勝負をなかったことにしようとしている。

 何がなんでも権力にしがみつく気だ。



 ならば。

 

 

 こちらも次の手は用意してある。

 どうあがこうとも、シャブリエの負けはすでに決まっている。

 


 


 その時。




 闘技場が大きく揺れた。



 

 地震か?

 私も含め、全員が必死に地震に耐える。



 しばらくして、地震はおさまった。

 私は被害の状況を確認する。



 幸いにも闘技場の観客には大きな被害は出ていないようだ。

 観客が闘技場から逃げようとしている。

 

 


 「あるじ様。街の一部が燃えています」


 ムラサキが街の方を指さした。

 

 

 ここからは遠い。しかし確かに街から煙が上がっている。

 どれほどの被害が出ているのか。遠すぎてわからない。




 なんだ?



 なにが起こっているの?

 明らかにただの地震ではない。



 モンスターが攻めてきたのか?

 いやこの街の周辺のモンスターは弱い。とてもそんな力があるとは思えない。


 

 となると、どういうことだ?

 まったく心当たりが存在しない。



 グラウコも低ランク冒険者たちも同じだった。ムラサキも。



 しかしシャブリエだけは違った。


 「ま、ま、ま、まさか。本当にきた? 嘘だ。嘘に決まっている」



 私はメイスと取り出す。

 そしてシャブリエにメイスを突きつける。


 「何を知ってる? 全て吐け!」


 

 シャブリエは尻もちをついた。ガタガタと震えている。

 私の方をみてもいない。メイスを突きつけられたことさえ、気がついていないようだ。

 

 小さな声でつぶやく。



 「ありえない。ありえるはずがない。まさかあの情報が本当だったなんて」


 

 そして、叫んだ。


 

 「Sクラス冒険者がこの街を攻めてくるなど、ありえない!!」


ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。

どうかよろしくお願いします。

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