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第二十八話 Aランク冒険者エンマ戦②

 私の防壁をはっているかぎり、お互いに手は出せない。

 そして永遠に防壁をはり続けることはできない。

 防壁をはる魔力が切れた時、私たちは負ける。



 なら、どうする?


 簡単だ。相手が手を出さざるを得ない状況を作ればいい。



 私とムラサキだけではそれは不可能。

 ならば他の人間に圧力をかけてもらえばよい。

 



 そう、例えば、周囲を取り囲むこの街の住人に。

 



 私はこの街の住人に向かって叫ぶ。

 

 「この街の住民の皆様!! 現在、冒険者ギルドは悪質な人間に乗っ取られかけております!!」


 


 特等席にいるシャブリエが立ち上がる。顔色が真っ青だ。

 慌てて隣に座っている有力者に必死に言いわけをしようするが、もう何もかもが遅い。


 確かにシャブリエには権力がある。

 しかしそれはあくまで冒険者ギルド内のものでしかない。

 一般の街の住人には関係のないことだ。

 どちらのことを信じるか、損得のない感情が決める。



 「しかし私たちは屈しません!! 必ず冒険者ギルドを守ってみせます! 応援をよろしくお願いします!!!」





 直後、街の住人の大歓声が闘技場をゆらした。



 「ギネス!! 俺たちはお前を応援すぞ!!」


 「よそものに荒らされてたまるかよ!!」


 「この街を守ってくれぇ!」



 街の住人たちが私を応援する条件は、すでにそろっていた。


 エンマたちは街の外からきた人間。こちらはずっとこの街を守ってきた人間だ。

 そしてこの戦いは10対2。戦いを知らぬ一般人がみても、私たちの方が圧倒的に不利。

 向こうが卑怯な手を使っているように感じられるだろう。人間とは強いものに立ち向かうものを応援したくなるものだ。


 それに加え街の住人を集めたのは、ギルド長だったグラウコだ。グラウコは顔が広い。もともとグラウコの味方だった住人も多い。


 街の住人が私たちの味方になるのは必然だった。


 この戦いは殺し合いではあるが、同時に政治ショーでもある。

 そうなるように、私は動いた。



  

 エンマがうめく。


 「やってくれるじゃ……ないか」


 エンマもそのパーティーも動揺は隠せない。

 なにせ数千人の観客に囲まれ、その全てが敵と化したのだ。

 冒険者はモンスターと戦う職業だ。たとえAクラス冒険者といえども、こんな経験は一度もないはずだ。


 「この戦いは権力争いだ。ならばこちらも政治を使っても文句はいえまい。さあ、どうする? モンスター退治の依頼を出す側が敵に回っては、冒険者ギルドはやっていけないだろう」


 「低ランク冒険者ごときが!」


 「その低ランク冒険者にお前らは負ける」


 エンマたちを挑発する。

 さあ、手を出してこい。決着をつけよう。



  

 特等席でシャブリエがわめき散らす。

 これ以上こちらに好き勝手やられるのは、そのプライドが許さないのだろう。


 「エンマ!! 何をやっている! さっさとそいつらを殺せ!!!」


 これからの冒険者ギルドの支配がうまくいくか心配なのだろう。

 しかしその言葉は、目の前の戦いに悪い影響しかもたらさない。

 

 やはりシャブリエは無能そのものだ。

 もはや敵というより、私たちの味方に等しい。




 エンマたちは何もしなければ私たちに勝てる。

 しかし長引けば住人の支持を失い続ける。そうなれば今は支持している有力者も離れていくだろう。

 それを避けるためには、圧倒的な力で私たちに勝つしかない。

 

 その圧力に負けて、エンマは攻撃を決断する。


 「魔法スキル発動! フレイムインパクト!!」


 それと同時に、パーティー全員も同じスキルを発動する。

 エンマの剣の先に、巨大なの火の玉が現れる。先ほどのファイヤーボールとは比べものにならない大きさだ。


 スキルの中には最初から、集団で使うために開発されたものもある。これもその一つ。 

 もちろん全員が同じスキルを使えば、パーティーに隙が生まれる。それを犠牲にしてでも、攻撃の威力を上げることに特化したスキルだ。


 おそらくエンマたちが持っているスキルの中では、最高の攻撃力を持つスキル。

 正面から防壁を破壊するつもりだ。

 

 「さっさと死ね! こざかしい手ばかり使いやがってぇ!!」


 エンマが剣を振り下ろす。

 

 巨大なの火の玉が私たちに放たれる。あれをまともに食らえば、骨も残らず焼き尽くされるだろう。それほどの威力を秘めている。




 だが私の防壁はそれを許さない。



 火の玉は防壁に当たって大きく炎上する。

 しかし、それだけだった。

 私の防壁はまったくの無傷。こちら側にはその熱すら伝わってこない。




 「お前たちは、私たちを軽くみすぎた。だから負ける」


 

 実際に少しでも調べれば、私がこの程度のことはできることがわかっただろう。

 だがエンマたちは私たちのことを低ランク冒険者だと馬鹿にしていた。ギルドの中央部ばかりを意識していた。


 もし相手も私たちのことを調べていたのなら。そしてその対策を立てていたのなら、私たちの方が負けていただろう。


 いくら実力があっても、それを発揮できなければ負ける。

 相手に実力を出させずに勝つ。それは戦いの基本である。



 「黙れ! まだ負けたわけじゃない! この壁を越えるスキルなどいくらでもある!!」



 エンマは必死に次の策を考えている。そうせざるを得ない。




 その瞬間。



 エンマの意識が私たちから外れた。

 私たちではなく、防壁を越えることに意識が集中される。




 この隙をずっと待っていた。


 確かに私の防壁があるがぎり、お互いに手が出せない。

 



 そっともそれは。

 防壁があるかぎり…だ。




 私は隣にいるムラサキに言う。


 「ムラサキ。お前の出番だ」


 「了解しました! 加速スキル発動!!」 



 ムラサキが防壁に向かって走る。そして加速していく。


ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。

どうかよろしくお願いします。

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