第二十七話 Aランク冒険者エンマ戦①
この街で一番大きな建物。
大都市にあるという闘技場を思わせるような場所。
ここでAランク冒険者エンマとの戦いが、始まろうとしていた。
周囲は街の住民が取り囲んでいる。すごい人数だ。
食べ物を売っている商人もいる。家族連れで見物にきた住人もいる。早くも酔っ払った住人が陽気に歌っている。
まるでお祭りが開かれているかのよう。
それもそのはず。彼らにとってこの戦いは、素晴らしい見世物に他ならない。
なぜなら冒険者同士の権力争いなど、一般の住人には関係ないことだから。他人の権力争いほど面白いものはない。
この街の有力者たちも特等席に座っている。
有力者たちにとって、この戦いは一般の住人とは意味が異なる。
モンスターを退治する冒険者ギルドの役割は、どこの街でも重いものだ。軍隊のいない小さな街では、数少ない暴力装置である。常に監視しなければならない対象。
下手に暴走されると、虐殺すらまねく。
だからこの街の有力者とってこの戦いはとてつもなく重要なものだ。冒険者ギルドの未来がこの戦いで決まるのだから。
楽しんでいる住民たちとは異なり、緊張した表情で私たちを見下ろしている。
それに比べ、新ギルド長シャブリエは上機嫌。
太った体を揺らしながら、隣の有力者の質問に陽気に答えている。
エンマが負ける可能性など、考えもしていないだろう。
この場所。そして街の住人に戦いを公開すること。
それが私が戦いを受ける時、シャブリエに出した条件だ。
シャブリエはそれをいとも簡単に受けた。
自分たちの勝ちをこの街の住人に知らしめるには、絶好の機会だとでも思ったのだろう。
ただし、それは私たちに勝てればの話だ。
シャブリエはギルドの高官ではあるが、戦いの経験はない。得意なのは権力闘争だけだ。
だから戦いは冒険者のランクと人数だけで決まると考えているだろう。
その認識はおおむね正しい。
だが戦いとはそれだけではない。
それだけではないことを、今日の戦いで教えてやる。
少し離れた先に、すでにエンマのパーティーが戦闘態勢にはいっている。
パーティーが前衛、後衛に分かれている。基本的な陣形だ。
その陣形の一番前に、エンマは立っている。その長い剣を持つイメージ通り、エンマは前衛のようだ。
エンマが刺すような視線を向ける。
さすがにエンマはシャブリエとは違う。
この場所で戦うことを警戒している。冒険者なら当たり前のこと。
「あんた、何を狙ってるんだい?」
エンマに笑みを返してやる。
私の策がうまくいくのかはわからない。それほど戦いとは不確定要素が多いものだ。
命をかけた戦い。恐怖しないわけがない。それでも笑い返す。
弱みをみせたら、戦う前から負けることになる。
「さあな。すぐにわかるさ」
Aランク冒険者エンマとの戦いが、ついに始まった。
「ふんっ! だったらまずはその策をひきずりだしてやるよ!!」
エンマが剣を抜く。そして叫ぶ。
「魔法スキル発動! ファイヤーボール!!」
剣の先に炎が集まっていく。エンマは前衛だけでなく、後衛のスキルも使えるようだ。万能タイプか。
それと同時に後衛の冒険者も同じスキルを発動する。
合計100個ほどの火の玉が私たちの方へ飛んでくる。
まずは遠距離から安全に攻撃して、私の策の正体を確かめるつもりだ。
隣でムラサキがカタナを握りしめる。ファイヤーボールを迎撃する構え。
だが、まだだ。ムラサキの出番はもう少し先だ。
「ムラサキ! ここは私に任せろ! 防壁作成スキル発動!!」
私はエンマの間に防壁をはる。
防壁がファイヤーボールを防ぐ。この程度なら完璧に防ぐことができる。
遠距離からの攻撃を防ぐだけなら、どんな攻撃も防ぐ自信がある。
エンマはその様子をじっくりと観察してる。
接近戦にするつもりはないらしい。
この次にエンマが打つ手は予想できる。
遠距離からのあらゆるスキルを使って、私の策をみきわめるつもりだ。
勝負を急ぐ必要ない。人数では勝っているのだから。
私はエンマにそれをさせるつもりはない。
私は防壁に魔力を込める。私の魔力量そのものは膨大だ。
普通の人間が防壁作成スキルを使っても、込められる魔力は少ない。少なければ防壁の強度がでない。防壁の大きさも小さくなる。それにこのスキルは攻撃を防ぐことしかできない。
だからこそ防壁作成スキルを使う冒険者は少ない。スキル自体は簡単におぼえられるにもかかわらず。
私は違う。一面の防壁に100人分の魔力を込めることができる。
それに使えるスキルはこれしかない。全てをこのスキルに捧げるしかないのだ。
膨大な魔力を込められた防壁が巨大化する。
横へ縦へ防壁が伸びていく。
そしてついに防壁は闘技場の壁から壁の空間を全て埋める。高さも建物の天井を超える。
私の防壁は闘技場を二つに分割した。
エンマたちがいる場所と、私たちがいる場所。
観客から大声援が巻き起こる。
「すげえ! こんなのみたことないぜ!!」
「あれ、防壁作成スキルか!? 基本スキルだぞ! 信じられん!!」
「いいぞぉ! もっとやってくれぇ!!」
これほど巨大な防壁を作成するのは、世界中で私だけだろう。
できる冒険者ならば、数多く存在するだろう。だがそれをする理由がないのだ。
同じ魔力を込めるなら、もっと役に立つスキルが山にようにある。
この巨大な防壁は完全に私とエンマを分断している。
Aランク冒険者の力ではこの防壁を破壊することなど不可能だ。
しかしエンマは余裕の表情のままだ。
そして、あきれたように言う。
「あんた馬鹿じゃないのか? 何もしなければ、あんたが勝手に自滅するだけだろ?」
その通りだった。
それこそが私の冒険者としての限界。
現状はお互い手が出せない状態。私だけではそれを作るのが精いっぱい。
そして防壁を維持するだけで魔力は消費されていく。いくら魔力量が膨大であっても、いつかはなくなる。
エンマはそれを待っていればいい。それで勝てる。
と、エンマは確信しているだろう。
だが甘い。こうなることを私はあらかじめ予想していた。
そして、このお互いに手が状態を打ち破るために、これまで準備してきたのだ。
私はエンマ、ではなく周囲の観客に向かって叫んだ。
「さあ、この街の住人の皆さま!! 私の話を聞いてください!!!」
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