第二十六話 対決前夜
エンマたち、Aクラス冒険者との戦いは避けられないものとなった。
私自身は今も、冒険者同士で戦いたくはないと思ってはいる。
しかし、もはやそんなことを言える状況ではなくなっていた。
仮に戦いを避ける提案をしても、誰もそれを受け入れないだろう。
シャブリエたちはギルドを支配しようとするを決して止めない。
この街の冒険者たちはそれに抵抗するのを決して止めない。
下手をすれば、血を血で洗う全面戦争になりかねない。
ならば、私とエンマの戦いで決着をつけた方がましだ。
現時点では話し合いは不可能。
戦いに勝ってはじめて、話し合いに持ち込むことができるのだった。
私は思い出す。
シャブリエに決断を伝えた時のことを。
ニヤニヤ笑いながら、シャブリエはこの戦いがパーティー同士の戦いであることを宣言した。
エンマたちのパーティーは10人。つまり10対2。
最初からそうするつもりだったのだろう。権力を使って不利な条件をこちらに押し付けるつもりだったのだ。
普通の人間なら受けない。圧倒的に不利な条件である。
Aランク冒険者が10人が相手。それにスキルの内容も不明。
だが、それでも私は受け入れた。
いくつかの条件をつけて。
その条件はシャブリエにとっても、都合のよいものである。だがらあっさりと受け入れられた。
それからシャブリエは新しいギルドについて上機嫌で語った。もちろんそのギルドに私たちは存在しない。
戦いに負けるなどとは、これっぽっちも思っていない様子であった。
Aランク冒険者と低ランク冒険者。そして人数の違い。
確かに普通なら負けるはずかない。それほどの戦力差だ。
だがしかし、勝ち目のない戦いなどするつもりはない。
私たちは普通の冒険者ではない。そしてこの街で戦ってきた経験がある。
「儂はもともとギルド長として責任を取るつもりであった。ギルド長をやめされたこと自体に文句はない。しかし、いくらなんでもシャブリエたちは乱暴にすぎる!」
元ギルド長のグラウコはそう言って、テーブルを叩いた。
落ち込んでいると思っていたが、それなりに元気そうではあった。今は怒りの感情が彼を支えてるようだ。
「事前に何の連絡もなかったんだぞ! 突然この街にきてクビを言い渡すなど、ありえん!」
それは暴挙そのものだ。ギルド長をクビにするなら、それなりの手続きが必要なはず。
それを一方的にクビを告げるなど、反感を買うに決まっている。
「シャブリエたちはこの街のことなど、まったく考えてはいないようです。とにかく早くギルドを支配して、中央に帰りたいのが本音かと」
「無能にすぎる!! あんな奴がこの街のギルドを支配したら終わりだ!」
グラウコがほえる。
無能なのは確かだ。だがそれ以上に、ギルドの中央部がどうなっているのか気がかりだ。
そもそもシャブリエのような人間が出世しているのがおかしい。明らかに冒険者を管理する側としては失格である。
エンヤも低ランク冒険者をただの雑魚としか認識していない。大都市のギルドにも低ランク冒険者はいるだろうに。
この街の外ではギルドにそんな空気が流れているのだろうか。そうだとしたら、悪夢だ。
「簡単じゃないですか。ようは明日の戦いに勝てばいいのでしょう? あの女を斬れるのは、本当に楽しみですね」
ムラサキだけはいつもと変わらない。どこまでも好戦的である。
戦いに負けることなど、欠片も考えてない。
その姿に、ほんの少しだけ救われるような気分になる。
「ムラサキ。お前はもう寝てくれ。このパーティーの前衛はお前しかしない。寝不足だと困る」
「あるじ様が寝ないのなら、私も寝ません!」
こんな時だが、笑いだしたくなるのを我慢する。
しかしここは寝てもらわないと。
「しょうがないな。では主君としての命令だ。さっさと寝ろ」
それを聞いたムラサキがしぶしぶ部屋を出ていく。
私はめったにムラサキに命令しない。仲間だと思っているからだ。
しかしこんな時くらいは使ってもいいだろう。
ムラサキが不調だと、私たちは明日死ぬことになる。
「本当に……この策で勝てるのだろうか?」
急にグラウコは弱気な声を出した。
不安になるのは理解できる。戦いとは恐ろしいものだ。
それでも、もはや後戻りはできない。勝つしかないのだ。
「準備に何か問題が?」
「いや、それはない。完璧に整えたさ。ただ負けたらどうなるとかと考えるとな」
「どんな戦いも事前に勝敗がわかることはありません。それほど戦いというものは不確定要素が多い。だから冒険者の誰もが不安になります」
私はグラウコをはげますために笑いかける。
「しかし相手は無能です。事前に策を練ったぶん、私たちに有利なはずです」
「そうか。そうだったな。儂も戦いから離れて長い。戦いに絶対がないことを忘れておった。いつの間にか老いぼれておったようだ」
グラウコは盛大にため息をついた。
そして私の手を握った。
「情けないが、今や君たちだけが頼りだ。どうかこのギルドを救って欲しい」
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