第二十五話 対決へ
Aクラス冒険者エンマは挑発を続ける。
「あんたも男だ。まさか女の誘いから逃げたりはしないだろう? どちらがこのギルドの王にふさわしいか、さっさと決着をつけようじゃないか」
あまりにも露骨な挑発だ。
後ろにいる新ギルド長シャブリエをみると、ニヤニヤと笑っている。
どうやらエンマと戦わせること、最初からそれを狙っていたようだ。
この新ギルド長は狂っているのか?
この街のギルドを支配したいのはまだ理解できる。
だがやり方はあまりにも乱暴だ。それがギルド中央部のやり方なのか。
「冒険者同士の戦いは禁じられているはずだ。それを自らギルド長が破るというのか?」
「ふんっ! Cランク冒険者ごときがこの私に意見をいうか。確かに戦いは禁じられておる。だが、訓練なら問題はない」
シャブリエの目が細められる。
その残酷な本性がにじみ出ている。
「訓練の結果、死人が出たとしてもそれは事故だ。どうしようもない。なあ、エンマ?」
「ええ。スキルの訓練中に冒険者が死ぬのは、よくあることですわ」
シャブリエは法の抜け穴をついてきた。
訓練なのか戦いなのか、その境目はあいまいである。ましてや相手が死んだら、後付けでどうとでも言いわけできる。
そこまでするのか。
大都市のギルドでは、よくあることなのだろうか。
それほどにギルドの中央部は腐敗しているのか。
これでは冒険者を暗殺しようとしたマルコと何も変わりはしない。
ムラサキが隣でささやく。
「あるじ様、勝負を受けましょう。こいつらは切り捨てても問題ありません」
「頼むから黙っててくれ」
それでも、私は冒険者同士で戦うのは嫌だった。
たかだかギルドの権力争いで、命をかけるなど馬鹿らしいとは思わないのか。
冒険者はあくまでモンスターと戦う職業で、人間と戦うべきものではない。
冒険者は仲間だ。
戦うよりも助け合うべきなのだ。
私はエンマに向って言う。
「本当に戦う以外に方法はないのか? 私たちは敵ではないはずだ。協力してギルドを運営していくべきだろう」
「甘いねぇ。この田舎者が」
エンマは剣を抜いたまま、私に近づいてくる。
周囲の冒険者が自然に道を開ける。
ムラサキがカタナに手をかける。完全に迎え撃つ構えだ。
私は手を上げ、ムラサキを押さえる。
「あのさぁ、こんな辺境に長くいられるとでも思っているの? こんな貧乏くじを引かされちゃってさ。さっさと終わらせて、都市に帰りたいのよ」
ああ、そうか。わかった。
こいつらはこの街にもギルドにも興味がないのだ。ギルド中央部のことしか考えていない。
だから乱暴な方法を取れる。
短期間でこの街を離れるつもりだ。
ギルドを荒らした後がどうなろうと、知ったことではないのだ。
「だから……ね!!」
エンマが剣を振りかぶる。
そして振り下ろす。Aランク冒険者の名にふさわしい鋭い一撃だ。
だが、私は防壁スキルを使わなかった。
剣が私の首をはねようとするを、ながめていた。
エンマの剣が私の首の皮一枚で止まる。
最初からただの脅しであることはわかっていた。
ここで実際に私の首をはねたら、エンマは完全に犯罪者だ。そうなったらギルドの支配などできるはずもない。
ギリギリでもあくまでも法の範囲内で動く。その強さを知っているのだ。
それが暗殺者であるマルクとの決定的な違いだ。
エンマは驚いたような表情になる。
だが、次の瞬間には再び笑みが戻る。
剣を抜き放ったまま言う。
「あなた気に入ったわ」
そして顔を私の耳に近づけてささやく。
「ねぇ。あたしと殺し合いをしましょうよ?」
ギルドの集会が終わり、私とムラサキは建物を出ようとしていた。
隣のムラサキが文句を言う。
「なぜですか! なぜあるじ様は勝負の返事をしなかったのですか? あの女の勝負を受けて、さっさと斬り捨ててしまいましょう!」
「まだ戦うと決まったわけではない」
Aランク冒険者と戦うことを恐れているわけではない。
私のスキルは守るだけなら、Sランク冒険者にも通用する。
相手の手に乗せられるのは避けたい思いもある。
だがそれよりも、戦う以外の道がまだあるのではないか。
その思いが消えないのだ。決断ならいつでもできる。
まずはグラウコに相談するべきだ。
それを聞いて、ムラサキが怒る。
「あれほどの屈辱をあるじ様は放置するのですか!!」
「私への屈辱など、問題ではない」
これまで多くの屈辱を味わってきた。
いまさら一つそれに加わったところで、どうということはない。
その時、背後から声がかかった。
「ギネスさん!!」
振り向くと、この街に残った冒険者たちが集まっている。
その姿は熱気に包まれている。
冒険者たちはそれぞれ叫ぶ。
「ギネスさん! 俺たちは応援してますぜ!!」
「あんな奴に冒険者ギルドを任せたら、この街はめちゃくちゃになってしまう!」
「この街の英雄が負けるはずねーよ!!」
全員が心からそれを信じているのが伝わってくる。
私が負けるはずがないと。その熱狂。その期待。
ギルドとは生き物ようなものだ。
一人一人の冒険者の意思が流れとなって、全体の決断をする。
その冒険者たちの様子から、私は思い知らされた。
もはやシャブリエが作った亀裂は修復などできない。
エンマと戦う以外に道はない…と。
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