番外編 ある低ランク冒険者の人生
ディックはかつてはBランク冒険者であった。
しかし今のランクはCである。
別に何か失敗や犯罪を犯したわけではない、自ら降格を申し出たのだ。
それは冒険者の最前線から降りることを意味していた。
だってさぁ。命をかけた戦いなんぞ、いつまでもやってられないだろ?
自分の限界もみえちまったし、後はほどほどにやってこうぜ。
確かに昔より人間は強くなったが、それでも強いモンスター戦うと死ぬかもしれない。ランクを上げようとしても、上にいる奴らは化け物ぞろい。
これでは真面目に冒険者をやるほうが、馬鹿だ。夢を追いかけて死ぬくらいなら、今ある現実で満足するべきだ。
ディックのパーティーも同じような奴らしかいない。結婚して臆病になった奴や病気の兄弟を抱えている奴。どいつもこいつ冒険者としては二流以下。
しかしそれで十分なのである。普通に生活するぶんには、何の問題もない。
あまり金はない、しかし安定がある。
細く長く生きる。それがディックたちのパーティーの信条なのである。
今、ディックたちは森の中にいる。
ギルドからの依頼で、行方不明のAランク冒険者を探しているのだ。
金になる仕事ではない、だが安全な仕事ではある。こういう仕事こそ、ディックたちのパーティーが受けるべき仕事なのである。
ここ数日、森の中をくまなく探している。
だが成果はなかった。ときどきゴブリンに出くわすくらいだ。
この依頼に関して、色々と変な噂も聞こえてくる。しかしディックには興味がない。
Sランク冒険者やギルドが腐っていようが、ディックには関係ない。大事なのは安定した生活だ。余計なものはいらない。
俺の知らないところで、勝手にやっててくれ。
「嗅覚強化スキル発動」
ディックがもっとも得意とするスキルである。
戦いではまるで役に立たない。しかし戦い以外の場所では素晴らしく役に立つ。
この前は肉を売る店にスカウトされた。
肉が腐ってないか判別するのに、スキルが非常に役に立つらしい。
冒険者を引退したら、その店に雇ってもらうとしよう。
「本当にこの辺にいるのかな。もうどっか行っちまったんじゃねーの」
仲間の一人が愚痴を言う。
「さあな。冒険者が本当にいるかは、俺たちの知ったことじゃないさ。俺たちは冒険者を探して、金をもらう。それだけの話さ」
「それもそうだな」
その時、スキルに反応があった。
間違いなく人間の、それも腐った臭いだ。
ディックは仲間に指示を出し、戦闘の用意をさせる。
腐った死体がある。しかし目的の冒険者という保証はない。哀れな一般人かもしれないし、モンスターになった死体が森に迷い込んだのかもしれない。
それに死体を食うモンスターもいる。油断したらやられるかもしれない。
警戒しながら、腐った臭いがもっとも強い場所まできた。
しかし目的の死体は見当たらない。
「ないな。モンスターが死体を持って行っちまったのか?」
「いや、違う。地面の下だ」
スキルには地下にもぐるものもある。それを使って戦う冒険者もいると聞く。それだろうか。
いや、どっかの犯罪者が死体を埋めたのかもしれない。
いずれにしろ、掘ってみなければわからん。
ディックはため息をついた。
「地面を掘る道具なんて持ってきてねーよ。お前ら今からスキルを憶えないか?」
「お前が勉強しろよ。女の尻を追いかけてる暇があるならな」
ひとしきり笑い合った後、ディックたちは木の棒で地面を掘り始めた。
まったくもって、非効率の極みである。
一時間ほど掘り続けて、ようやく死体がみえた。
スキルを使わなくてもわかるほどに、腐った臭いが強くなっている。
「ああ、こいつは間違いなく探していたAランク冒険者だ」
パーティーの一人が死体から剣を取り上げた。
遠くからみてもわかるほど、豪華な剣だった。たぶんディックの給料の一年分でも買えはしないだろう。
しかし、ディックはそれをうらやましいとは思わなかった。
腐った死体になり果ててしまっては、いくら金を持っていても使い道がない。
死体は右肩が大きくえぐり取られ、右腕がなかった。
モンスターに詳しい仲間が言う。
「この傷はドラゴンに食われたな」
「となると、この辺りにはドラゴンはいない。ドラゴンが住む洞窟からこの場所まで逃げてきて、力尽きたってところか」
ディックは少しだけ、悲しい気持ちになる。
噂を信じるならば、こいつが死んだのは自業自得だ。でも、一応は同じ冒険者ではある。
そして死体になってしまえば、冒険者のランクなぞ意味を持たない。
それに冒険者を続けているかぎり、いつ自分達が同じ姿になってもおかしくはないのだ。
たとえCランクといえども、死の危険がまったくないわけではない。
ディックは言う。
「あーあ。こいつも身の程をわきまえれば、こんな死に方をしなかったのに」
仲間たちも無言のまま同意する。
Aランク冒険者になるほどの実力があれば、たった一人だろうとドラゴン相手にはまず負けない。
よほど油断していたか、それとも普通に戦えないほどの事情があったのか。
ディックは言葉を続ける。
「誰か聖水を持ってないか? せめてこいつがモンスターになるのを防いでやろう。俺たちにできるのはそれくらいさ」
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