第十八話 暗殺者マルク戦②
廊下の前と後ろで二十人ほどの敵に挟まれている。
私とムラサキは背中を合わせ、それぞれの敵と向かい合う。
ムラサキが目の前にある扉をみる。
「あるじ様、ギルド長の部屋に入った方がいいのでは? 挟み撃ちされるよりも戦いやすいです」
「この部屋に入ったら、死ぬぞ」
背後で、ムラサキの驚いた気配する。
「なぜですか?」
「これまでの敵の行動。私たちをこの部屋に追い込むためと考えるべきだ」
わざわざ冒険者ギルドの建物を選んだのも、罠のある部屋に追い込むため。
マルクが扉の前で暗殺をしかけたのも、自分がその罠に巻き込まれないため。
すぐに連中が襲ってこないのも、私たちにこの部屋に逃げ込む時間を与えるため。
ということは、この部屋にある罠は大規模かつ致命的な罠であると推測される。
マルコはギルド職員である。
嘘をついてギルド長を部屋から追い出し、罠をしかける時間はたっぷりあったはずだ。
マルコ自身は強くはない。
だが暗殺者として、人間の殺し方をよくわかっている。
敵の背後から、小さな舌打ちが聞こえる。
「あーあ。これもダメかぁ。やっぱりギネスさんは他の冒険者とは違うな」
「この程度の策に、私たちが引っかかるとでも?」
「ひどいなぁ。これでも一生懸命に考えたんですけどね。はー。しかたがないですね。直接殺すしかないようだ」
パチンッと指を鳴らす。
「皆さん、お願いします」
マルコを取り囲む冒険者が、一斉にナイフを取り出す。
敵は遠距離から、私たちを攻撃してくるつもりだ。
どこまでも自分たちは安全のまま私たちを殺したいらしい。
実に暗殺者らしい思考だ。
「ギネスさん。僕は知ってますよ? あなたは一面しか防壁をはれない。前と後ろから同時に攻撃すれば、防げないでしょう?」
だが所詮はギルド職員。経験不足だ。
一面しか守れないのは事実だが、それは相手が強敵だった場合の話。
マルコたちの一人一人の実力は大したことはない。ならば打てる手はいくらである。
私はマルコに笑いかけてやる。
「お前はお前自身が思っているほど、強くはないぞ? 暗殺者の末路などすでに決まっている。ここで死んだ方がましだと思う日が必ず来るだろう」
「戦えない男のくせに、よくもまあ人のことを言えますね。あなたこそ最弱でしょう?」
マルコの声に苛立ちが混じる。
なぜ私が冷静でいられるのか、理解できないのだろう。
「戦えない男でも、仲間を暗殺するクズよりはずっとましだ」
「ふざけるな。お前達、やれ!!」
マルクの手が振り下ろされる。
「投擲スキル発動!!」
「投擲スキル発動!!」
「投擲スキル発動!!」
前後の敵から、数十本のナイフが放たれる。
スキルを使ったナイフの勢いは、普通に投げる速度とは比べものにならない。
だが、甘い。
「防壁作成スキル発動!!」
私は防壁をはる。
ただしナイフが飛んでくる正面ではなく、側面の壁に……だ。
私たちを狙っていたナイフの大きく軌道が逸れていく。
そして、私たちに当たらずに通り過ぎていった。
「な、何をした!?」
マルコがとまどうような声を上げた。
「防壁に土属性を付与した。この防壁は強い磁力をおびている。だから金属であるナイフは引き寄せられ軌道が変わった」
「ぐっ…」
「どうやらこの能力については、調べていなかったようだな」
もっともこれらの属性付与は大した能力ではない。
強い磁力はおびているが、ナイフの軌道を変えるのが精一杯。
本来の磁力を操作するスキルなら、そのままナイフをはじき返すこともできるだろう。
さらに敵がもっと強いスキルを使った場合は軌道を変えることすらできない。
それでも、この場面では非常に有効。
低級冒険者が使うような、遠距離スキルには直接防壁で防く必要すらない。
属性付与で十分対応できる。
「こんな手があったとは、素晴らしいです。あるじ様」
ムラサキが背中越しに賞賛する。
ムラサキには事前に私の能力を説明したはずだが。
敵である冒険者たちに動揺が走る。もちろんマルコにも。
私はメイスをマルコに突きつける。
「さあ、どうする? マルコよ。このまま時間たてば、私たちの勝ちだぞ?」
次にやることはすでに決まっている。
罠が避けられ、遠距離攻撃が通じない。
ならば残る選択肢は一つだけ。
接近戦だ。
この殺し合い、それで決着がつくだろう。
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