第二話 緊急クエスト
パーティーを追放されて3日が過ぎた。
街の片隅で、私は小さなため息を吐いた。
状況は悪かった。いや、悪すぎた。
なんとか冒険者を続けようとギルドに通ったのだが、成果はまったくなかった。
他のパーティーは明らかに私を避けていた。話すことすら拒否される。
どうもパーティーのリーダーだったアーヴィンが私の噂を広めたらしい。
私に戦えない人間というレッテルが貼られ、冒険者たちに避けられていた。
戦えない人間。
その言葉は私にとって、呪いそのものであった。
結界術の、しかも「防壁作成」スキルしか使えない。それは冒険者として致命的な問題としか言いようがない。
なにせ敵の攻撃を防ぐことしかできないのだ。パーティーが戦っている間、ずっと隠れていなければならない。
勝利をもぎ取ることができない冒険者が尊敬されるはずかない。
冒険者になったばかりの頃、ギルドで魔力量を計ったことがある。
100年に一度の魔法使いになれると、絶賛された。それだけ魔力量がケタ違いだったのだ。
だが私が「防壁作成」スキルしか使えないと知れ渡ると、少しずつ人は離れていった。
そして今は、完全に一人ぼっちになってしまった。
「もう冒険者を辞めて、故郷に帰るか」
そんな言葉が口から出る。
それも悪くないかもしれない。
ソロクエストで弱いモンスター、例えばゴブリンなどを狩っていれば食っていくことだけはできるだろう。
だが、その先に何がある?
何もありはしない。
幼なじみの仲間たち。そのパーティーを追放された時点で夢は終わったのだ。
その時、目の前の道を冒険者らしき二人組が通った。
「なあ、ギルドで緊急クエストが出たのを知っているか?」
「もちろん知ってるさ。なんでもドラゴン狩りに出たAランクの冒険者が行方不明になったらしいな」
緊急クエスト。
冒険者ギルドに所属する全ての冒険者が参加しなければならないクエスト。災害や強力すぎるモンスターが出た時に発動される。
当然無視すれば罰がある。最悪、冒険者を辞めさせられる可能性すらある。
「Sクラスのパーティーが近くにいただろ? あいつらに任せればいいじゃん」
「なんでも連絡しても無視されているらしいぞ。いいなぁ。Sランク様は緊急クエストをサボってもお咎めなしときてる」
アーヴィン達は参加しないのか。彼らならドラゴンなど簡単に倒せるのに。
「Aクラスなのにただのドラゴンで行方不明って。そいつらがドンくさいだけなんじゃねーの?」
「さあな。そいつら他所からきた奴らだから詳しくは知らん。まあ、適当に参加して報酬だけ貰おうぜ」
そう言って、二人組は去って行った。
私もアーヴィン達のようにクエストを無視してしまうおうか。
どうせ冒険者を辞めるならばどんな罰を与えられても怖くはない。それに仮に緊急クエストに参加しても、他のパーティーに馬鹿にされるのがオチだ。
だったら……。
本当に
それでいいのか?
誰かを助けるために冒険者になったのではないのか?
気が付くと、私は冒険者ギルドの方へ歩き出していた。
これが冒険者としての最後のクエストになるだろう。
それでも私はアーヴィン達のようにはなりたくはなかった。
あの頃、胸に抱いていた思いだけは最後まで捨てたくはない。
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