第十七話 暗殺者マルク戦①
この状況、私たちがマルクを罠にかけたというべきか。
それとも逆か。
裏切り者を引きずり出したという意味では、私たちの勝ちである。
だがこの状況にかぎると、私たちはマルコのしかけた罠の中にいる。
向こうも必死だ。後ろからの奇襲だけで終わるはずもない。
さあ、次はどんな手でくる?
マルコは私たちに距離を取りながら、言う。
「ああ、さっきので死んでくれていたら楽だったんですけどねぇ。実は僕ってスキルが下手なんですよ。だから冒険者になれなくて、ギルド職員なんかやってるんです。悲しいですよね」
時間かせぎか。何を狙っている?
だが時間そのものは私たちに有利に働く。下の階には他の冒険者たちがいる。その内の一人でも私たちに気が付いたら、マルコの暗殺は失敗する。
「なぜAランク冒険者を暗殺しようとした? ギルド職員には何の得もないだろう」
「金ですよ。冒険者を殺すだけで、ギルドで働く一生分の金が貰える。真面目にやるなんて馬鹿らしくなりませんか?」
金…か。ならば他に暗殺を依頼した人間がいるということ。
冒険者の暗殺を依頼する人間。そして気軽にそれを受ける人間。
ギルドが腐っているといわれても仕方がない。
「依頼人はだれだ?」
「さあ? 興味がありませんね。どうでもいいじゃないですか。金さえ貰えれば」
マルコは後ろに下がりながら、両手を広げる。
その顔には下卑た笑みが浮かんでいる。
「それにしても、最近は色々と上手くいきませんね。失敗ばかりだ。でも前向きにいきましょう。あなた達を殺せば、運も上向くでしょうから」
直感する。
こいつの暗殺は今回の件ばかりではない。
過去同じようなことを何度も繰り返している。
正真正銘、人間のクズだ。
心に湧く怒りを必死に抑えようとする。
戦闘中に冷静さを失ったら負けだ。相手もそれを狙っている。
「お前程度が、あるじ様とわたしに勝てるとでも思っているのか?」
ムラサキが言う。その声は冷たい。
戦いの時に発する、感情を全て消し去った声だ。
すでに深く腰を落として、いつでもマルコに斬りかかれる態勢。
ムラサキの言うことは正しい。
マルコはあくまでもただのギルド職員にすぎない。
暗殺という手段を取ったことからも、実力は大したことがないと推測される。
2対1のままなら、必ず私たちが勝つ。
それでもマルコは余裕の態度を崩さない。
すでに私たちとマルコの距離はかなり離れている。
「まあ、そうですよね。僕一人ではあなた方に勝てるはずもありません。なんたってこの街の英雄ですから。でも、まあ、僕もあなた方を殺さないと破滅しますからね。必死にならざるを得ませんよ」
パチンッとマルコが指を鳴らす。
廊下の角から十人ほどの人間が現れた。
前と後ろ、合計二十人ほど。
挟み撃ちされる格好なる。
その二十人の中には見知った冒険者もいた。
私と共にAランク冒険者の探索に加わった人間も。
その辺のゴロツキならば、金に転ぶこともあるだろう。
しかし、冒険者とは。
思わず、私は大声を上げた。
「なぜだ! 私たちは同じ冒険者だろう!! 同じクエストを受け、助け合っていたはずだ! なぜ金のために仲間を殺そうとする!!」
しかし、誰も私の問いに答えようとしない。
暗い目で剣やこん棒を握りしめるのみ。私たちへの殺意に満ちている。
もはや私がどう思おうと、相手は私を獲物としてみていないのだ。
何が冒険者たちを変えてしまったのか。
金か。仲間を殺してまで金が欲しいのか。
それとも仲間だと思っていたのは、初めから私だけだったのか。
「あるじ様、冷静に」
ムラサキがささやく。
「ああ、わかっている」
覚悟を決めた。決めるしかなった。
もはや私たちは冒険者同士で殺し合うしかない。
冒険者たちの後ろに隠れたマルクが、へらへらと笑う。
「もうそんな古臭い時代じゃないんですよ。一生安い給料を貰って命をかけるなんで、馬鹿らしい。これからの新しい時代には自分自身の幸福を追求しなきゃ」
「黙れ。お前らのやっていることは、死に値する」
「そうかもしれませんねぇ。でもそれが何か?」
言葉を交わす時間は終わり、殺し合いの時間が始まろうとしていた。
敵は低級冒険者といえども、二十人以上。
はさみ撃ちの形。
さらにマルコにはまだ奥の手がありそうだ。
「絶体絶命…でしょうか?」
ムラサキが言う。その言葉とは裏腹にむしろ楽しそうにしている。
私はムラサキに笑い返す。
「いや、そうでもない。この程度なら問題ないだろう」
そして言う。
「こいつらの望む新しい時代など、私が否定してやる」
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