第十六話 扉の前
ギルト長と面会から数日がたった。
まだギルドの裏切り者は襲ってきていない。
私とムラサキは宿屋にて待機している。
いつ裏切り者の襲撃があってもおかしくない。 そのため他の客や宿の主人などは避難してもらっている。
常に活気に溢れている宿屋がここ数日はとても静かだ。
部屋のど真ん中にムラサキが座っている。
本来なら同じパーティーといえど、若い男女は部屋を別々にするべきである。しかし例によってムラサキに押し切られてしまった。
何度部屋を追い出しても帰ってくるのだから、どうしようもない。
まるで忠義心にあふれた犬のようだ。
ムラサキは怖がる様子など欠片もみせずに、カタナの手入れをしている。
その手つきは非常に丁寧だ。ポンコツなところも多いムラサキだが、見習うべきところもある。
ふむ。
カタナはサムライの命という言葉は本当かもしれない。
そう思わせる真剣さだ。
カタナの手入れが終わったようだ。
ムラサキは私の方をみる。
「この国の冒険者もギルドも腐っているようです。あるじ様、なぜでしょうか?」
突然、答えにくい質問をする。
なんともムラサキらしい。
「今はお前も一応は冒険者なんだぞ。 わかってるのか?」
「わたしはあるじ様に仕えているだけ。冒険者ではありません」
この国の仕組みなど、ムラサキには関係ないらしい。
あきれると同時に、少しうらやましい。
私は窓の外を指さす。
そこには並び立つ家や商店、そして道行く多くの人々がいる。
「この街は賑わっているだろう? だがこの場所は30年前はただの草原だった。たった30年で無人の野原からここまでの都市になったんだ。モンスターの脅威が減り、この国の人間は豊かになりつつある証拠だ」
「確かにそれは素晴らしいことだと思います。しかしそれが冒険者が腐ってることに、どう関係するのですか?」
「生きるのに精一杯なら、人間は団結しなければならない。しかし今は違う。豊かになれば余裕が生まれる。余裕が生まれれば他人を出し抜こうとする人間が増える」
ムラサキは少し考えて言った。
「つまり冒険者やギルドではなく、人の心そのものが腐り始めてると?」
「さあな。私は学者じゃない。本当のところはわからんさ」
私はベットから立ち上がる。
「私に言えることはただ一つ。仲間である冒険者を殺そうとする裏切り者は、絶対に許さないことだけだ。たとえどんな理由があろうとも」
ムラサキは笑顔になる。
「それでこそ、わたしのあるじ様でございます」
「お世辞はいい。それよりカタナの手入れが終わったのだろう。宿屋に罠をはるのを手伝ってくれ」
ムラサキがあきれたように首を振る。
「まだ罠をはるのですか? もう十分では?」
「命がかかってるんだ。準備が十分ということはあり得ない。さあ、行くぞ」
私は部屋の出口へ歩き出す。
ムラサキも後ろをついていてくれる。
「わたしは襲撃を楽しみにしてますけけど」
「死ぬかもしれないんだぞ?」
「その境地を楽しめてこそのサムライです」
私にはとてもサムライになれそうにない。
冒険者とは臆病な人間の方が生き残る確率が高い。
冒険者の教えとは、真逆の世界でムラサキは生きているらしい。
その時、宿屋の外の扉が乱暴に叩かれる音がした。
そして男の声が響いた。
「ギネスさん! ムラサキさん! ギルド長がお呼びです!!」
その声には聞き覚えがある。
何度か会ったことある、ギルドの職員の声だ。
ギルド長に呼び出されるとは、何か進展があったのだろうか?
「よしムラサキ、行くぞ。罠を踏まないようについてこい」
「あるじ様、外に出るのにも苦労する罠の数。やはりわたしは多すぎると思いますが」
一緒に暮らしていても、ムラサキとは分かり合えない点が多い。
それがまた一つ、みつかったらしい。
ギルドの建物に入ってからも職員の男は、盛んに私に話しかけた。
「ギネスさん。ギルドが探しているAランク冒険者を捕えているって本当ですか?」
「ああ、本当だ」
裏切り者を誘い出すためには、味方も同時に騙さなければならない。
だからギルド長以外、この秘密を知らない。
「でもギルドに身柄を引き渡していないんですよね? それって僕はどうかと思いますが」
「ギルドの懸賞金では少なすぎる。不正を暴くための決定的な証拠だ。その十倍は欲しい」
職員の男はさわやかに笑う。
「わかります。やっぱり世の中は金ですよねぇ。これからは個人の力じゃない、金が世の中を回すんです。古臭い冒険者はギネスさんを非難するでしょうが、僕は支持しますよ」
「それはどうも」
私自身はそれほど金に執着はない。
だが確かに最近は金の影響力は増している。これも世の中が平和になったからだろうか。
ギルド長の部屋の前まで到着した。
「僕はここまでです。では後はよろしくお願いします」
職員の男が頭を下げる。
私はドアに手をかけ、部屋に入ろうとする。
ドアノブを回そうとした
その瞬間。
ガキンッと私の背後で金属が衝突する音が響いた。
振り向くと職員の男がナイフを持ち、私の心臓に突き刺そうとしていた。
全力の力を込めたナイフ震えている。
「なぜだ!?」
職員の男が信じられないものをみたような声を出す。
「私のスキルを知っているだろう? すでに背後に防壁をはっていた」
私の防壁はナイフ程度では貫通などできようなずがない。
「まいったなぁ。なんでバレたんですか? 疑われるはずがはいんですが」
「疑っていたわけじゃない。ただ会う人間の全てを警戒していただけだ。お前が裏切り者だったなら、あのタイミングで襲ってくるだと思っていた。無駄になったのなら、それはそれでかまわない」
普通の人間なら、不可能な策だろう。
しかし私には膨大な魔力量がある。常に防壁スキルと使いつづけることが可能なのだ。
スキルの発動ではないから、スキルを叫ぶ必要もない。
完璧なタイミングではあった。しかし完璧ゆえに読まれやすいのだ。
私は言う。
「お前がギルドの裏切り者か」
「これで死んでくれれば楽だったのになぁ。」
男はナイフを突き刺すのを諦め、私たちと距離を取る。
私はメイスを職員の男に突きつける。
「確か、お前の名前はマルコと言ったな」
「ギネスさんに名前をおぼえて貰っているとは、光栄です」
マルコのさわやかな笑みが崩れる。
その代わりに卑しい笑みが貼り付けられる。
仮面が外れ、その本性が現れている。
マルコは当たり前のことのように言った。
「でも、ここで死んでいただきますよ」
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