第十五話 ギルド長の苦悩
「儂は反対だ」
ギルド長グラウコは私の提案を聞くと、苦渋の表情でそう言った。
「裏切り者に君自身を狙わせるなど、あまりにも危険な行為だ」
私は身を乗り出し、反論する。
「お言葉ですが、現状ではこの策はもっとも効果的なものでしょう。今回の件では、ギルド内に裏切り者がいる確率は限りなく高い。外からきた人間だけでは、洞窟に罠をしかけるのは不可能です。」
「わかっておる」
「そもそもギルドが探しているAランク冒険者が見つかる確率は低い。冒険者が街から離れてしまってはそれまでです。犯人グループに口封じをされている可能性もあります。しかしギルドの裏切り者はまだこの街にいる確率が高い」
「わかっておる!!」
ギルド長グラウコは机を拳で叩きつけた。目が血走っている。
苦悩の表情がにじんでいる。
気持ちはわかる。
ギルド長として職員や所属している冒険者を疑うことは苦しくてたまらないはずだ。
だが状況は明らかに裏切り者の存在を示している。
私が調べた限り、事件があった後にこの街を去った冒険者は少ない。
ならばまだこの街に裏切り者がいる確率は極めて高いはずだ。
「私もその可能性は考えておった。ただそれは目的の冒険者が、この街の周辺にいないと確定してからでも遅くはないと…」
「臆病者なのですね」
ムラサキが恐ろしいほどに直球の言葉を投げかけた。
ギルド長グラウコは絶句する。
ムラサキは誰に対しても思ったことだけを言う。良くも悪くも。
「やめろ、ムラサキ。少し黙っててくれないか」
「あるじ様がそう望むならそうしましょう」
私はギルド長を説得するためにさらに口を開く。
「ギルド内に噂を流しましょう。私がAランク冒険者を捕まえたいう噂を。そして、そうですね、多額の金を要求して引き渡しをしぶっていることにすればいい。そうすれば裏切り者は確実に私たちを狙ってきます」
「そこまで…しなればならないのか」
「関係者を一人一人調べる方法もあるでしょう。しかしそれには時間が必要です。その間に裏切り者は逃げてしまう。皆がAランク冒険者を探してる今こそチャンスなのです」
ギルド長グラウコの大柄な体が、縮んでしまったように感じる。
普段は若々しい見た目も、一気に年老いてしまったかのようだった。
元冒険者としても、ギルド長としても、どうしようなく苦悩してるに違いない。
「しかしそれを君がする必要はないだろう? 君はただの冒険者にすぎない」
「この街には最高でもBランク冒険者しかいません。たぶん私たちは実力では最強の冒険者でしょう」
そして言った。
「ならば力を持つものはその責務を果たさなければなりません。私はアーヴィンのようにはなりたくはない」
力に溺れ、ついには悪鬼になり果てたアーヴィン。
強さには責任が伴う。それを忘れたくはない。
私は善人ではない
だが正しい行いをしようとする意志からは、逃げたくはないのだ。
「強いな。ギネス君。儂が若い頃には、まだ冒険者やギルド職員には最低限の規律があった。しかしもうそれさえ無くなりつつあるのだな。儂はそのことにずっと目を逸らしていた」
ギルド長グラウコは悲し気に首を振った。
そして無言のまま、下を向いてしまった。
私には慰めるような言葉を思いつくことができなかった。
いや安易に慰めてしまっては、逆にギルド長を侮辱してしまうことになるだろう。
話は終わった。
私はギルド長はこの策の実行を受け入れたと判断する。
元より合理性を考えれば、この策以外あり得ない。
老いたとはいえ、それがわからぬほどギルド長は愚かではない。
私はムラサキを連れ、部屋から出ようとする。
背後でギルド長グラウコはポツリと言った。
「冒険者が冒険者を疑わなければならない時代か…」
そう。
残念だが、今はそういう時代なのである。
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