第十四話 スキルと制約
「抜刀スキル発動!」
草原にムラサキの声が響いた。
私では見ることもできなほど速く、カタナが抜き放たれる。
その姿はいつものポンコツな印象とは違う。美しく、そして恐ろしい。
カタナが私が作った防壁と衝突して、火花を散らす。
ガギィィンと金属が衝突するような高い音が耳に刺さる。
しかし、それでも私の防壁は砕けない。
それでもムラサキはカタナを防壁に押し込もうとしている。
だが防壁はびくともしない。
しばらくして諦めたらしく、カタナを戻す。
そして私に向かって叫んだ。
「なぜ斬れないのですか!? なぜあるじ様の防壁はこんなにも固いのですか!」
「それを聞くのは何回目だ?」
ムラサキは朝からずっと私の防壁を斬ろうと頑張っているのだった。
お互いのスキルを知ること、それとパーティーの連携を深めるのは確かに大切ではある。
パーティーを組む以上、何よりも先に行わなければならない。
が、いい加減あきらめて欲しい。
未だかつて私の本気の防壁を壊せた人間は存在しない。
神龍の白い炎でさえ短時間ではあるが、防ぐこと自体はできたのだ。
ムラサキが私の方へ向く。そして言った。
「さすがです。あるじ様。わたしの主君だけあります。このムラサキ、感服いたしました!!」
ムラサキが膝をつき、土下座しようとする。
私はそれを慌てて抱き止めた。
「頼むからすぐに土下座しようとするは勘弁してくれ」
「それほどに感激しているのです! 止められません!」
感激するのは勝手だが、土下座は止めてくれ。こっちが恥ずかしくなる。
どうすれば止めてくれるのか。悩ましい。
「ムラサキの抜刀スキルもかなりものだぞ。カタナが届く範囲ならばSランク冒険者にも通用するかもしれないな」
ムラサキは近接として、敵に接近するスキルも持っている。
だがそれでも特筆するべきは抜刀スキルである。それは磨き抜かれたものであった。
サムライとはカタナの届く範囲でこそ、その強さを発揮する職業なのかもしれない。
それを聞いたムラサキの顔がみるみる赤くなる。
「いやぁ…たしかに幼い頃から…すっとこの抜刀スキルを磨いてきました。でも…そう褒められると…照れてしまいます…」
なんだ。その反応は。
褒められ慣れてないのだろうか?
「でもあるじ様の防壁スキルだって、最強です! わたしは今日までこのカタナで斬れぬものはないと思っておりました。しかし今日それが思い違いだと…」
ちょっと意味がわからなくなってきた。
なぜ街はずれの草原で、お互いのスキルを褒め合わねばならなくなったのか。
それよりも他にもっとすることがあるような気がしてならない。
「ムラサキ。スキルの確認はこれくらいにしよう。お互いの戦力はたいたい把握できた。ならば次にしなければならないこと、冒険者ギルドの依頼をこなさねば。まずは情報を集めようか。他の冒険者に聞き込みをしよう」
望みは薄い。
だが他に有効な策が思いつない以上、地道に一歩一歩進んで行くしかない。
私は街に向かって歩き出そうとする。
しかしムラサキは私の手を掴んだ。
「まだです。まだ決着はついていません」
「決着?」
「わたしのスキルとあるじ様のスキルどちらが強いかの決着です」
まだやる気か。どれだけ勝負に対する執念が強いのか。
いや、そうではないのかもしれない。
逆にその執念を見習うべきなのかもしれない。
最強を目指すなら、ムラサキのような強い執念が必要なのだろう。
だがそれでも。
「決着なら初めからついているさ。私の負けだ」
「な、なぜですか!?」
「私には守ることしかできない。それが私のスキルの制約であり、限界だよ」
仮に絶対に突破できない防壁を張れても、それだけでは勝負に勝てない。
相手に攻撃するスキルが私には存在しないからだ。
防ぐだけ。戦えない男。
そして近接職に接近されると、一人では対抗できない。
スキルを使用した近接職の動きは、防壁を作る速度をはるかに超えてくる。
時間を稼ぐことはできる。しかしいつかは負けることになる。
だがムラサキは少し考えた後、こう言った。
「なるほど。確かにあるじ様は最弱だったかもしれません。しかし今は私がいます!」
そしてニッコリと微笑んだ。
「あたしとあるじ様、二人ならば最強です!!」
理論性の欠片もない。
だがその言葉がなぜか私の胸を刺した。
ムラサキの黒い瞳には、迷いなど一切なかった。
心からそれを信じているのだ。
「そうかもしれないな」
思わず、その言葉が口から出た。
その瞬間。
私はギルドの依頼に対する有効な策を思いついていた。
この街には最高でもBランク冒険者しかいない。
そしてAランク冒険者を罠にはめるには、ギルドの裏切り者が必要だ。
ならばギルドの裏切り者を探すのではなく、あちらから襲ってくるようにすればよい。
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