第十三話 食事
私はアーヴィン戦での負傷により、一か月程度ベットから動けなかった。
その時に誓ったことが一つだけある。
怪我が治ったら、肉を食いたい。
動けなかった間、ずっとムラサキが看病してくれていた。
当然、それには感謝をしている。
しかしムラサキは食事として、麦を煮たものしか出してくれなかったのだ。他のおかずは存在しない。それだけである。
本人が言うには、ニホンのオカユとかいう料理らしい。それが怪我を治すには一番と言い張っていた。
そんなわけないだろと思うのだが、ニホンの風習を持ち出されるとどうしようもない。
もちろん私も経験的には怪我をした時は肉を食べるといいと主張はした。しかしムラサキはまったく聞き入れない。看病してもらっているという負い目もあり、結局押し切られてしまった。
まったくもって、よくわからん。
そもそもムラサキは、本当に私のことを主君だと思っているのか謎である。
妙に頑固というか、譲らないものは絶対に譲らない。
まあ、私としてもムラサキを家来としてあつかうつもりはないのだが。
ニホン人が変なのか、ムラサキが変人なのか。
どちらかといえばムラサキが変人な気がするが。
ともかく大事なのはこの一か月が拷問に等しかったこと。
そして今日ついに解放されたことだ。
私はムラサキを街の食堂へと引っぱっていった。
色々な料理の匂い混じり合い、食欲を刺激する。これをずっと待っていたのだ。
店の隅のテーブルが空いていたので、二人で座る。
テーブルといい内装といい、古びてはいるがよく手入れされている。
白いエプロンをした店員が料理の注文を聞きにくる。
「肉を焼いた料理を頼む。それと」
私はムラサキの方をみる。そっちも注文をしてくれ。
しかしムラサキは私の方に身を乗り出し言った。
「あるじ様。このようなことをしている場合ではありません! 早く妹のかたきを討たねば! 今すぐ妹のパーティーだったAランク冒険者を探しに行きましょう!」
「腹が空っぽでは何もできないぞ? 腹を満たすことは冒険者の基本中の基本だ」
「わたしは冒険者ではありません! サムライです! サムライは毎日一杯のオカユで十分なのです!」
それを踏まえて、私は店員に注文する。
「こちらのサムライには麦を煮たものを一杯頼む。ああ、麦だけだ。その他のものは一切いらない」
ムラサキがショックを受けた顔になる。
なぜだ?自分が望んだものだろう?
遠ざかっていく店員の足音を聞きながら、私はムラサキに言う。
「残念だが、現状私たちにできることはないに等しい。策を考えねば、依頼を達成するのは不可能だろう」
ギルド長から依頼された、ムラサキの妹の関する疑惑はこうだ。
私が神龍と戦った後、ギルドの職員がその周辺を調査したらしい。
その際にモンスターをおびきよせるための装置がいくつも見つかった。
さらに物陰には暗殺用の武器も。
つまりAランク冒険者があの洞窟に行ったこと、そのものが罠であった。何者かがムラサキの妹たちを暗殺しようとしたのだ。
だが神龍が登場したことで、その全てがご破算になり暗殺の証拠を残さざるを得なかった。
それと同時に、Aランク冒険者パーティーの何人かが今も行方不明になってる。神龍や他のモンスターに殺されたのか、あるいは暗殺メンバーの一員だったのか。
冒険者ギルドはその行方不明のメンバーを必死に探している。メンバーを発見できれば、暗殺の手がかりが得られるだろう。そうでなければ首謀者を特定することができない。
その手伝いをすることがギルドの依頼であった。
だがその冒険者を探すことは私たちにとっては難しい。難しいというかスキルの構成的に不向きである。
「私たちには探査スキルも身体強化スキルもない。やみくもに広大な森や洞窟を歩き回るだけでは、一生かかっても目的の冒険者たちは見つけられないだろう。どうするべきか。ムラサキは何か考えがあるか?」
だがムラサキは私の話を聞いていなかった。キョロキョロと周囲を見ている。落ち着かない様子だ。
右手がかすかに震えている。
「聞いているのか? ムラサキ。 今重大な話をしているのだが…」
「おまたせしました」
店員がきて、テーブルに料理が並べられる。
私には特大の肉を焼いた料理。ムラサキには小さな木のお椀が置かれる。
とりあえず何の肉なのかわからないが、一切れ口に入れる。
美味い。
低級の肉を焼いただけの料理である。おそらく普段ならば、硬くて筋張った肉だと感じるあろう。しかし一か月ぶりである。どんな肉だって美味く感じる。
体に力が戻ってくる。生きてる実感を味わう。
ムラサキはオカユを手を付けず、じっと私の手元にある肉をみている。
「どうした? 食べないのか?」
「あるじ様。確かにサムライは一杯のオカユで十分です。それ以上は望みません。しかし主君の命令があれば別です。サムライの掟を破ることもしかたがないことです。だから…ですね……その」
ムラサキは少しだけ涙目になりながら、早口でそう言った。
えっと、いまさら肉が食べたいと?
前衛職は体が資本である。肉を食わねば戦えないのも理解できる。
しかし肉が食べたいなら最初から言って欲しいのだが。
サムライの誇りはどこへいったのだろうか。
私は手を上げ、店員を呼んだ。そして私と同じ料理を注文する。
ムラサキの誇りを追求しても、意味があるとは思えないし。
ムラサキの顔がパッと輝く。すごく嬉しそうだ。
誰もが振りかえりたくなるような美しい表情。
でも、本当にそれでいいのか? サムライよ。
「わたしはあるじ様のカタナ。あるじ様の敵を斬るのが役目です。その他のことは全てあるじさまにお任せいたします」
まったく、その全幅の信頼はどこからくるのか。
でもそれが嬉しくないといえば嘘になる。
無垢な子供に頼られているような、不思議な気分になってしまう。
先ほどの執念はどこへ行ったのか。
勢いよく肉に食らいつくムラサキをみて、私は思った。
どうやら策を考えるのは私しかいないようだ。
さて、どうしたものか。
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