番外編 冒険者ギルドの憂鬱
二人の英雄が出て行った後、ギルド長グラウコは椅子に座ったまま動かなかった。
そして、しばしの間考え込んだ。
グラウコの秘書が飲み物を下げに部屋に入ってくる。
「ギルド長、いかがいたしました?」
「いやね、先ほどギネス君がアーヴィンたちの罪を自分も受けると言ったのだ。それに関して、冒険者ギルドも反省しなければならないことがあると思ってね」
グラウコは盛大にため息をついた。
「現在の冒険者ギルドの姿勢は、多少の罪があっても、それを上回る功績があれば許されるというものだ。そのおかげで一部の冒険者がやりたい放題をしている面がある。特にSランク冒険者が」
それを聞いて、秘書が首を傾げる。
「しかしそれはある程度は仕方がないのでは? 彼らは命がけでモンスター戦ってくれています」
「君たち若者には信じられないだろう。だが儂のじいちゃんの頃には、モンスターが人間を絶滅させるという現実の脅威があった。しかし今は違う。人間が強くなり、モンスターの危険性は減った」
グラウコは立ち上がり、部屋を歩き回る。
「今もその時代の名残を冒険者ギルドは引きずっておる。そのせいで年がたつごとに冒険者ギルドの力が弱まり、Sランク冒険者の力が強くなっておる。このままではどうなるか…」
「考えすぎではありませんか?」
秘書にはいま一つ実感がないようだった。無理もない。この街は王国の辺境にある。
だからモンスターは弱く、大抵のことは低ランク冒険者で何とかなる。そもそもSランク冒険者をみかけることも少ない。
アーヴィンたちは他にSランク冒険者がいないからこそ、あれほどのやりたい放題ができたのだ。
「そうだといいが。儂はどうにも嫌な予感がしてな」
「仮にそういう危機があったとしても、あの二人なら何とかしてくれるのでは? 特にギネスさんはあの神龍と戦って生き残ったのですから」
グラウコは苦笑しながら、その言葉を聞いた。
自分とてギネス君を信じたいとは思っている。だがあのモンスターが神龍であったとは誰も証明できないのだ。
証明されているのは、あの場に超強力なモンスターがいたということだけ。
おとぎ話の存在である。生きている人間の中で神龍をみたものは存在しない。
いずれにしろ信じようが信じまいが大差ない。ギルド長であるグラウコができるのは、報告書を上に送ることだけだ。後は上が判断するだろう。
そもそもどれほど強かろうとも、たった二人でSランクの冒険者全員を止められるはずがない。
一人一人が冒険者として最高の実力を持っているのだ。
二人の将来には期待はするが、それは期待しすぎというものであろう。
突然、秘書が笑い出す。
「でも、あれですね。ププッ。ムラサキさんが土下座したのは驚きましたね。アハハッ」
どうやら秘書は部屋の外で、会話を盗み聞きしていたらしい。
褒められた行為ではない。
だがグラウコ自身も笑いが止めらなくなっていた。
「あれは驚いたな! この年になってまだ驚くことが残っていようとは! ニホンという国の流儀らしいぞ! まったく世界は広いわい」
「ギネスさんは結婚したら奥さんの尻にしかれそうですね! ああでもムラサキさんはすっごい美人ですから、そっちの方が幸せかも!」
グラウコは手振って否定する。
「いやいやいや、それは違う! 君は結婚してないからわからないだろうが、ギネス君は結婚しても主導権を握るタイプだぞ!」
「えー! そうなんすか!? 私はギネスさんは大人しいタイプだと感じましたけど?」
憂鬱な雰囲気が消え去り、日が暮れるまでその話題で盛り上がり続けた。
他人の恋愛をあれこれと推測するのは、いつだって楽しいものだ。
それが冒険者ギルド中に広まるのも時間の問題であった。
ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。
どうかよろしくお願いします。




