第十二話 宴の後
アーヴィンたちとの戦闘から、一か月がたった。
体の傷が治るのに、それくらいの時間が必要だったのだ。
スキルのルールを破ってついた傷に回復スキルは効かない、自然に治るのを待つしかなかった。
おそらく寿命もかなり削れただろう。これからの生活に後遺症がでてくるかもしれない。
それでも私は後悔だけはしていない。
今日はムラサキと共に冒険者ギルドに呼び出されていた。ようやく私の体が治り、詳しい戦闘の報告をするためだ。
もっとも以前の建物は完全に壊れてしまった。だから今は違う建物に仮の冒険者ギルドを開いている。
ギルドの職員に案内され、ギルド長と面会する。
「やぁ、よく来てくれた。そこの椅子に座ってくれ」
ギルド長は初老の男で、がっちりとした体格と白髪が特徴的だった。
その特徴から元冒険者なのかもしれない。引退した冒険者がギルド職員になるのはよくあることだ。
私はアーヴィンたちとの戦闘について報告した。
その報告が終わった後、ギルド長は小さく息を吐いた。
「なるほど、よくわかった。ギルドとしては君たちに罰を与えるつもりはない。すでに全てはアーヴィンの悪行だと認定されている」
ムラサキが勢い込んで言う。
「当然です! あるじ様には悪いところなどただの一点もありません! 外道に天誅を下しただけ! ニホンだったらショウグンから領地を与えられてもおかしくありません!それに…」
「やめてくれ」
私はムラサキを止める。
話が進まないし、ニホンのことを持ち出されても誰にも理解できない。
「ギネス君。その外道のアーヴィンだが、生きている。一か月たった今も、生死の間をさまよってはいるが」
そうか。アーヴィンは生きているのか。
私は自分の手をみる。
あの時、間違いなく殺すつもりでメイスを振り下ろした。
だが結果的にアーヴィンを殺せなかった。
負傷したおかげで、体に力が入らなかったのか。
それとも元パーティーとしての情が手元を狂わせたのか。
ギルド長が私の肩に手を置いた。
「気持ちはわかる。だが安心してくれ。過去のアーヴィンの悪行も次々に明らかになっている。普通なら死刑、よくて終身刑だ。それはもう死んだと同じことだ」
「そうですか。ならば私にも同じ刑罰を与えてください」
ムラサキとギルド長が驚く。
「アーヴィンとは同じパーティーでした。悪行が確かならば、私とパーティーを組んでいた時のものもあるでしょう。知らなかったとはいえ、私も同罪です」
「あるじ様!? なにを言ってるんですか! あるじ様が罪を受ける必要など、どこにもありません!」
それは違う。外国人であるムラサキにはわからないだろう。
冒険者のパーティーとは運命を共にするもの。
パーティーの功績は、個人の功績。そしてパーティーの罪は、個人の罪。
そうでなければ、命を預け合う関係になれはしない。
ギルド長は私の顔をじっくりと見た後、ため息をついた。
「それは確かに理想ではある。しかし今はそれを守ろうする冒険者はほとんどいない。儂が現役であったころでさえいなかったのだ。君がそれを守らなくてならない道理はない」
「しかし」
「それに…だ」
ギルド長が私の言葉をさえぎる。
「君はこの街の英雄だ。神龍とアーヴィンの件、多くの人間の命を救ってくれた。君自身が罰を望んでいたとしても、君以外の誰一人納得しないだろう。ならばそれは君の自己満足にすぎないのではないだろうか。」
わからない。
私は罪悪感から逃げようとしているのだろうか。
「さて、話を変えよう。アーヴィンの件の報酬についてだ。正式なクエストではないので、本来は金は出せない。だが特別な報奨金として、ある程度の金をなんとかしよう」
元の冒険者ギルドの修理に費用がかかるはずなのに、ありがたい話であった。
理想は追いたい。しかしその一方で、金がなければ今日の食事さえままらない。
冒険者どころか、この世界に住む全ての人間がその間で生きている。
「他にギルドとしては、ギネス君の冒険者としてランクを上げてやりたいところだ。だが君は戦えない。それは不可能だ」
冒険者としてのランクには二種類ある。
個人としてのランクと、パーティーとしてのランクである。
そのうち個人としてのランクは、主に戦闘能力がランクづけされる。
つまり戦えない私では個人の最低ランクにすら値しないのだ。
「だからどうだろう? 君たち二人でパーティーを組んでみては? それならばこの場でCランクはあげられる」
私はムラサキと顔を見合わせる。
その黒い瞳には迷いというものが存在しなかった。
「わたしとあるじ様がパーティーとやらを組むのは当然のことです! 死ぬまであるじ様に仕えると決めていますので!」
ムラサキが胸をはって答える。
私は以前ムラサキを拒もうとした。
正直、今でさえムラサキと一緒に組むのは不安なことが多いと思っている。
だがムラサキはアーヴィンたちと命をかけて戦ってくれた。
私の一生のお願いを聞いてくれたのだ。
自分のために命をかけてくれた人間を拒めるものなど、この世界にいない。
今度は私がムラサキに恩を返す番だった。
どこかのパーティーに入れて貰おうとは考えていた。
それがまさか自分で一からパーティーを作ることになるとは。
「私も異存はありません。ムラサキとパーティーを組みます」
「あるじ様!」
ムラサキが感極まったような声を上げた。
ギルド長は嬉しそうに腕組みをする。
「それは良かった。なぁに、君たちならすぐにランクが上がるさ。Sクラスにだってなれると儂は思っておるよ」
パーティーとしてのランクは冒険者ギルドへの貢献度で決まる。
つまり難しいクエストをこなすとランクが上がるのだ。
それならば戦えない男が混じっていても、Sランクを目指すことができる。
ギルド長が話を続ける。
「それで早速だが、君たちにクエストを頼みたい」
笑顔が消え、深刻な表情になる。
「実はね。ギネス君が神龍と戦った、あの緊急クエスト。あれはそもそもAランク冒険者が行方不明になったのが原因だ。今、それに対して色々と疑わしい点が出てきている。もしかしたらAクラス冒険者は誰かにハメられたのではないかと。君たちにはそれを調べる手伝いを…」
突然ムラサキが立ち上がり、私に向かって土下座した。
「あるじ様! あるじ様のハギョウの途中なれど、そのAクラス冒険者の中にはわたしの妹もおりました! 妹がハメられたとあっては、姉であるわたしも黙ってはいられません! どうかその依頼、受けてもらえませんでしょうか!!」
ギルド長がぼうぜんとムラサキを見下ろしている。
初めて土下座をみた人間はそうなるだろう。無理もない。
慌ててムラサキを起こす。
その土下座する癖は早くなんとかしてくれ。
それと…ハギョウとはどういう意味なんだ?
冒険者ギルドから出ると、まばゆい日の光が周囲を照らしていた。
私は思い出す。神龍が日の光に輝いてた、あの光景を。その光景を私は死ぬまで忘れないだろう。
もう一度神龍に会うためには今よりもはるかに強くならなければならない。
それこそ伝説の勇者のように、最強と呼ばれるくらいには。
試しに隣にいるムラサキに聞いてみた。
「なぁ。ムラサキ。私は最強になれるかな?」
「なれます」
ムラサキは断言した。その姿は自信に満ちている。
「根拠は?」
「特にありません。しかしわたしの主君なのですから、最強くらいにはなってもらわないと」
思わず笑ってしまった。
そこまでいくと、いっそ爽快ですらある。
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