第十一話 アーヴィン戦④
冒険者ギルドの内部は血と瓦礫にまみれ、以前の姿とは変わり果てていた。
少し前には冒険者たちが明るく宴会をしていたなど、誰も信じられないだろう。
アーヴィンが両手を広げる。
歪んだ笑みのまま、飽きれたような口調で言う。
「おいおい、そんなに俺たちが怖いのか? そりゃお前の防壁に囲まれてたら、いくら俺でも攻撃は通らない。だが何もしなくとも勝手にお前はボロボロになっていく。恐怖で頭がイカれたのか?」
私はアーヴィンに笑い返す。
1秒ごとに体が壊れていく。それでも防壁作成スキルを止めるわけにはいかない。
「ただの時間稼ぎだよ。それだけでお前に勝てるのさ」
無理矢理、笑みを深くする。
もはや立っているのさえ苦しくてたまらないが、我慢する。
弱みをみせたら負けることになる。
「知ってるか? 最近この街にお前以外のSランク冒険者がきた。戦い始めてから、かなりの時間がたっただろう?もうそろそろ冒険者ギルドに到着するころだ」
「なんだと」
アーヴィンの歪んだ笑みが消える。
嘘だった。
この街にアーヴィン以外のSランク冒険者など初めから存在しない。この街に正面からアーヴィンたちと戦える冒険者など一人もいないのだ。
こんな嘘、少しでも冒険者ギルドで情報を調べていれば、だまされるわけがない。
だか、アーヴィンはそれをあらかじめ確認するような男ではない。
自分が世界で一番強いと思い込み、冒険者ギルド自体を軽くみている。
そもそもそういった雑用は私の仕事だった。
ゆえに今のアーヴィンたちには私の嘘が本当かどうか確かめるすべはない。
アーヴィンは私のことをよく知ってる。
そして同時に私もアーヴィンという人間をよく知っているのだ。
そぜなら長い時間を同じパーティーとして過ごしてきたから。
「ねぇ。アーヴィン、ヤバいよ! 他のSランク冒険者がきたら負けるかも」
「どうしよう? アーヴィン」
リナとアリアが不安そうにアーヴィンをみる。
この街にいる冒険者ではアーヴィンたちに勝てない。
だが、他のSランク冒険者ならアーヴィンたちに勝つ可能性がある。
たとえそれが幻影でも。
「ふんっ! ギネス。お前はやはり馬鹿だな。これで俺たちを閉じ込めたつもりか?」
アーヴィンは四方の防壁を見渡す。
そして天井を指さす。
「上が空いてるじゃないか! 俺には四方を防壁で囲まれても、それを超えるスキルがある!」
アーヴィン。お前には決して理解できないだろう。
あえて上部に防壁をはらなかったことを。
あえて建物の天井との間に隙間をあけたことを。
あえて防壁の高さを冒険者なら素手で登れるほどに低くしたことに。
アーヴィンが宣言する。
「飛行スキル発動!」
そのスキルを使うのを私は待っていた。
お前なら防壁を超えるのに、わざわざそのスキルを使うと思っていたよ。
アーヴィンの背中に光の翼が生える。
そして剣を握ったまま、垂直に飛び上がる。
「ギネス! もう戦う必要もないな! さっさと捕まえて拷問してや…」
防壁を超えようとした瞬間、アーヴィンの顔が驚愕に歪んむ。
ムラサキが防壁の上に立っていた。
手足に突き刺さった矢はそのまま。服は焼け焦げ、体中に火傷を負っている。
しかしその闘志はいささかも衰えてはいない。
腰を深く落とし、足を広げている。手はカタナにかけられている。
すでに万全の態勢。
「抜刀スキル発動」
その声はこの戦場に場違いなほど、静かに響いた。
キンッと、カタナを納刀する音がしたのみだった。
カタナを抜く様子も、アーヴィンを斬りつける姿も私には見えなかった。
とっさに防御しようとした両腕ごと、アーヴィンの体が切り裂かれる。
背中の光の翼が消え、驚愕の表情のまま落下していく。
アーヴィンの血が周囲にまき散らされる。
同時に、私のはった4つの防御壁も砕けていく。
私の体もすでに限界を超えていた。
いくらアーヴィンが強いといっても、意表を突けばその実力を発揮することはできない。
さらに飛行スキルを使っている最中で、態勢が崩れている。
他のパーティーとの連携もできない。そして意識が完全に私に向けられている。
これだけ悪条件が揃ってしまえば、ムラサキのカタナの抜刀を回避するのは不可能だ。
そしてその条件に追い込むのが、私の策だった。
正直ムラサキが私の意図を読んでくれるかだけが、不安だった。
なにしろ会ったばかりなのだから。
だが、私に勝つ手段はこれしかなかった。
私はどこまでも戦えない男なのだ。
それは賭けだった。
私は賭けに勝ったのだ。
アーヴィン。お前は強い。
だが強いがゆえに弱者の戦法を理解できない。
だからこそ、お前は負けるのだ。
「ぐぁ。いてぇ、いてぇよ! くそがあああああ」
両腕を切断され、胸を一文字に切り裂かれたアーヴィンが床を転げまわる。
「アーヴィン!!」
「か、回復スキルを!」
リナとアリアがアーヴィンに駆け寄ろうとする。
しかし、その進路上にムラサキが着地する。
即座にカタナに手をかける。
「ちょ、待って!」
「止めてええ!!」
容赦なくムラサキのカタナが振るわれ、二人が切り捨てられる。
無言のまま二人は床に倒れる。その体から血の染みがゆっくりと広がっていく。
ムラサキは転げまわるアーヴィンにカタナを突きつける。
「あるじ様。わたしがとどめを刺しましょうか?」
「いや、私がやる」
私は今もまだ激痛が走る体を無理矢理動かし、メイスを手に持つ。
そして足を引きずりながら、アーヴィンの元へ向かう。
私が何をするつもりなのか理解したのだろう。アーヴィンが逃げようする。
だが致命的な負傷がそれを許さず、わずかに後さずりするのが精一杯。
「や、やめろ! 俺はSクラスの冒険者だぞ! 俺が死んだら、誰がモンスターと戦うんだ!?」
さらに私はアーヴィンに近づいていく。
「お、俺が悪かった! もうお前をパーティーに入れようとは言わない! お互いに冒険者として上手くやっていこう! な? な?」
もはや目がかすんで、前がよくみえない。
しかしそれでも私はアーヴィンの元へとたどり着いた。
後さずりするアーヴィンを見下ろす形になる。
「い、いや違う! ギネス! お前がパーティーのリーダーでいい! 俺たちはお前の下につく! だから今回は見逃してくれ!! 命だけは助けてくれぇぇぇ!!」
「もう、何もかもが遅い」
私はメイスを振り上げた。
「ク、クソがああ!! この戦えない男め!! お前は死ぬまで臆病者だ!!」
そしてメイスを振り下ろした。
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