第十話 アーヴィン戦③
ムラサキのカタナとアーヴィンの剣、その力の均衡が少しずつ崩れていく。
カタナがアーヴィンの身に達しようとする、その瞬間。
アーヴィンは叫んだ。
「リナァ!! マリアァ!!」
その叫びを受け、リナがムラサキに向かって弓を引き絞る。
「あのね、これはうちのパーティーの問題なの。だから消えろよブス」
マリアは私の方に手に持った杖を向ける。
「ギネス。この女を守る防壁をはらせないよ。魔法スキル発動、ファイヤーボール!」
杖から炎があふれ、5個の球に集まっていく。
そしてその全てが高速で私の元へ飛んでくる。
私にはそれを避ける身体能力はない。防壁作成スキルを使うしかない。
防壁をはる。そうするとムラサキを守ることができない。
手が出せない。くそが。
やはりアーヴィンたちは私のスキルを知り尽くしている。
「くっ!」
それでもムラサキは放たれた矢をぎりぎりで避けた。
しかしそのために態勢が崩れる。
「女。確かにお前はそれなりに強いよ。だが俺たちを殺すには、まだまだ足りないなぁ! 剛力スキル発動!」
アーヴィンの右手が膨れ上がる。そしてそのまま一気に剣を振り抜く。
それでもムラサキはカタナを手放さなかった。
しかしその代償として、体ごと吹き飛ばされる。
「死んでねブス。速射スキル発動!」
リナが一気に数十本の矢を放つ。
ムラサキは飛ばされながらも、矢をカタナで弾こうとする。
だが、全ての矢を弾くことはできない。数本の矢が手足に刺さってしまう。
「これはおまけだよ! 魔法スキル発動、ファイヤーボール!」
もはや避けることもできずに、ムラサキはまともに食らう。
そして崩れた冒険者ギルドの建物、その瓦礫の向こうへと消えた。
握りしめた手から血がこぼれる。
ムラサキとは先ほど会ったばかりだ。だからお互いの能力さえよく知らない。
これでは連携を取ることなど不可能だ。
それに比べ、アーヴィンたちはパーティーとして10年の時を重ねている。
精神が化け物になろうと、連携までは狂ってはいない。
彼らは実力でSランクにまで登りつめたのだ。
「さて、邪魔者もいなくなった。そろそろ決着をつけようぜ。この茶番も飽きてきた」
アーヴィンが気楽な調子で言う。
ペロリとくちびるを舐める。
負けるわけにはいかない。元パーティーとしての責任もある。
だがそれ以上に、ここで負けたらアーヴィンたちはこれまで以上に殺人を繰り返すだろう。その行きつく先がどうなるのか。考えたくもない。
Sランクの冒険者はモンスターに対する最高の武器だ。しかしその力が人間に向かった場合、最悪の犯罪者になる。いや、犯罪者ですらない。罪を裁くものが誰も存在しないのだがら。
狂ったSランク冒険者は、地震や嵐にさえ匹敵する災害そのものであった。
「防壁作成スキル発動!!」
私とアーヴィンたちの間に最高強度の防壁をはる。
「ふんっ。またそれか。お前はそれしかできないからなぁ。ぜいぜい頑張れ。俺がそこに行くまでの話だがな」
アーヴィンは歪んだ笑みを浮かべながら、さらに私に近づいてくる。
私は大きく息をはく。
覚悟を決めろ。勝つためにはこの策しかない。
「防壁作成スキル発動!!」
私は防壁をはったまま、さらにスキルを発動させる。
アーヴィンたちの右側に防壁が作られる。
「防壁作成スキル発動!!」
これで三重展開。
アーヴィンたちの左側に防壁が作られる。
「防壁作成スキル発動!!」
四重展開。
アーヴィンたちの後ろに防壁が作られる。
アーヴィンたちは四方全てが防壁に囲まれる。
アーヴィンは笑みを消し、わけがわからないという表情をした。
「ああ!? お前なにしてるんだ? 自殺でもする気か?」
私の口の中に血の味が広がっていく。
この世界においてスキルを使うには、基本的な三つのルールを守らねばならない。
冒険者になろうとするものなら、まず一番初めに学ばねばならない。
1、スキルを発動する時には、ある程度の大きさの声で宣言しなければならない。
2、一度に使えるスキルは1つだけ。他のスキルを使う場合は、そのスキルを解除しなければならない。
3、スキルにはそれぞれ制約があり、それ以外の用途に使ってはならない。
今、私は防壁作成スキルを四重展開してる。つまりルールを破っているのだ。
さらに加え、防壁生成スキルの制約「誰かを守るためにスキルを使用せねばならない」を破っている。
アーヴィンたちを拘束するためにスキルを使ってしまっている。
そのルールを破ったらどうなる?
神の報いを受けることになる。
体中に激痛が走り、大量の血を吐き出す。体がバラバラに引き裂かれそうな痛みが走る。
足元に血だまりが広がっていく。
この痛み。冒険者になりたての頃以来だ。
低ランクであろうとも普通の冒険者なら、まず行わない。自滅に等しい行為だからだ。
愚か極まる行為だ。
だが私はやらなければならない。
勝つためだ。
私は絶対にこいつらに勝たねばならないのだ。
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