25話 不死鳥攻略
私、ヘレネは現在イレーンと二人で指示された通りの場所に向かいます。
二人で向かったのは城の南東にある塔。そのてっぺんにいる上級魔神を倒すこと。エドワルドとラヴィ様のリードにより、私達は敵の配置を把握済みです。
城は結界に護らわれていて、ラヴィ様でもそれを破壊することはできませんでした。おそらくラヴィ様と同等以上の悪魔の力が介入していると思われます。
城の仕掛けは三つの塔にあるレバーをおろすことで結界を解除できる。そこまではリードで読みましたが、三つのレバーを護るように三人の上級魔神が配置されています。
なるべく城主である上級魔神と戦うことになる三人の消耗を避けるために、私達は戦力を三分割して塔の攻略に入りました。
塔を登る最中、いくつかの魔王や魔神クラスの敵が現れましたが、天使形態になれる私達の敵ではありませんでした。しかし、ここでの戦いも消耗に繋がります。
相手の動きさえ、縛ることができれば魔神クラスなら一撃で殴り殺せるイレーンにお任せしたいところですが、直接触れるのが難しい相手もいます。私自身雷や嵐も起こせますし、まだまだ見せていない秘術もありますから、勝率がないわけでもありませんが、アーダルベルトと戦う時までは消耗しないようにしないと。
「ヘレネ様、最上階のようです」
「ええ、行きますよイレーン」
何とか天使形態になることなく、ここまで登ることができました。どうやら天使形態の力を手に入れてから、形態変化前でもここまで強くなっていたようです。
「イレーン、勝ちましょう?」
「当然です。私がラヴィ様に求めたのは救済の女神であることですから。彼女にそれを求める私も、また誰かに手を差し伸べたいのです」
「それが貴女の救恤ということですか」
イレーンが渾身の一撃を扉にぶつけ、最上階の入り口は開かれた。
塔の頂上。空は鉛色に染まり、一羽の燃え盛る不死鳥が私たちに気付き、首をこちらにむける。アーダルベルトは既に悪魔形態になっていた。あの姿であれば私達から不意打ちを受けても死なない。完全に油断しきっている。
いくら彼が怠惰の悪魔だとしても、彼は最低限の自分の仕事は全うします。つまり、私達はあの不死の鳥を倒すためにここにいる。
私とイレーンは顔を見合わせる。お互いがゆっくり頷いてそれぞれ唱えた。
「天使形態。勤勉天使」「天使形態。救恤天使」
私の髪の色は紫色に、イレーンの髪の色は青に染まり、私達はラヴィ様が来ているような白いワンピース姿になります。アーダルベルトは天使化した私たちはさすがに無視できないと判断したのでしょう。
ゆっくりと体を起こし、その炎で塔の頂上を焼き尽くします。
「天候操作! 豪雨!」
私の天候操作の力を使い、豪雨を降らせましたが、それでも炎は消えません。
「神の力の宿った雨か。だがダメダ。俺の炎も不死だ」
炎が私達の足元まで到達しそうになりましたが、私達はラヴィ様同様に翼を生やし、飛翔して回避しました。しかし、その飛翔も読まれていたのでしょう。アーダルベルトも追う様に飛び上がります。
「空中戦で不死鳥に勝てるとでも?」
「ナマケモノには勝てましてよ?」
私が煽るも、アーダルベルトは乗ってこない。安い挑発は通用しなさそうですね。今度こそこの不死の悪魔を倒さなければいけない。
「ヘレネ様、私が時間を稼ぎます」
「大丈夫ですか?」
「英雄ですよ。これでも…………これからも」
そう言ったイレーンは救恤の鐘を握りしめてアーダルベルトの方に近寄っていきます。
「しばらく私がお相手しましょう」
「クレハを浄化した女か。いいだろう」
救恤の鐘は鳴らすことで魔族にだけダメージを与える音が鳴り響きます。しかし、当然上級魔神であり、不死鳥でもあるアーダルベルトには傷にもなりません。
「ちくちくちくちく! 針治療じゃねーんだぞ!!」
アーダルベルトが勢いよく羽ばたくと、炎の塊がイレーンに襲いかかります。
「時空結界!」
イレーンの時空結界に入ったことで、炎の球は停止したかのように見えた。しかし、すぐに時空結界は弾かれてしまい、炎は再びイレーン目掛けて直進する。
「救恤の千変万華」
イレーンの周囲には無数の華が咲いた。その華はそれぞれ別の種類をしていた。そして彼女の手元に一輪の花がやってくる。
「救恤の防壁」
ヒマワリの形をした花は巨大な防壁となり、炎の塊からイレーンを護ります。アーダルベルトの地獄のような炎ですら、イレーンの防壁を焦がすことはできなかったようで、これにはアーダルベルトも声を上げて驚いていました。
「まあ、いいか。俺自身がてめえを丸焦げにしてやるよ」
「近づくのであれば、私もお相手しましょう」
そう言ったイレーンは拳を握りしめる。イレーンほどの拳の威力があれば間違いなくアーダルベルトを倒せるでしょう。ただし、アーダルベルトはそれでも再生する。
イレーンは自分が進む道に時間の流れを早めた時空結界を生成。超高速で前進し、アーダルベルトに接近する。時間を早めているだけなので彼女自身にかかっているGは通常の時の流れと何も変わりませんが、外側から見ている私とアーダルベルトには、まるで雷が走るような速さに見えた。
「メイド送り」
アーダルベルトはイレーンの渾身の一撃を真正面から受け、肉体は爆散してしまう。しかし、爆散した肉体は燃え上がり一瞬で元の不死鳥の姿を形成してしまいました。
「どんなに強い一撃だろうと、俺が死ぬ道理にはならねえんだよ!!!!」
アーダルベルトが自身を中心にしたオレンジ色の炎に包まれ、その火柱が天を貫いた。遠く離れた私ですら、暑さでどうにかなりそうだと感じ、今目の前にいるイレーンは無事なのだろうか。
ですが、今は親友を…………仲間を信じましょう。
獄炎のような火柱を前にしても、イレーンは涼しい表情。暑さを耐えているというよりは暑さがまだイレーンに届いていない。イレーンと炎のはざまにはものすごく時間の流れが遅い結界が張られていた。
「ステータスも異能も天使の力もすべて出し切ってしましましたね。確かに私では貴女を倒せない。そしてヘレネ様だけでも貴方を倒せない。ですが、私とヘレネ様なら、貴方を消して見せましょう!」
「やってみろ!!!!」
「やらせて頂きます! 天候操作! 最終奥義!!!!!」
私は全魔力を注ぎ込みながら勤勉の書を光らせます。
「クリエイト。ミニ太陽」
私はアーダルベルトの背後に小さな太陽をクリエイトしました。小さいとは言えそれは太陽。熱も重力も存在し、アーダルベルトは太陽に引き込まれながら、徐々に肉体を燃やし続けられました。
アーダルベルトの肉体は再生を続けますが、炎は中々アーダルベルトを離しません。
「それでは最後の時空結界です」
イレーンは太陽に対し完全停止をかけます。再生も破壊も止まったアーダルベルトは、そのままイレーンに太陽ごと踏み砕かれました。
「任務完了です」「さて、レバーもおろしてしまいましょうか」
イレーンと私はレバーをおろします。さてさて、他の二か所はご無事でしょうか。
アーダルベルトを実質浄化。
残る上級魔神は三人。
今回もありがとうございました。




