7話 転生者の刺客 ~ライブバトル~
何者かの気配について、ヘレネに相談したところ、やはり彼女も気付いていた様子だ。
「どうするのさ?」
「対処するにも悪意ある者かどうか…………只者じゃないことはわかるのですが」
念のためヘレネには今日は一日村にいてもらい、僕は一人で狩りにでかけることにしたのだが、どうやらやっと動きが見えた。
何者かは僕たちというよりはどうも、僕を観察しているようだ。
山の奥までたどり着いた辺りで僕は黒い霧で神聖剣を形成する。
「出てきたまえ! 神が許す!」
僕がそう呼びかけるが、観察者は知らんぷり。そうか。では、こちらから行かせてもらおう。
「ジョブチェンジ。宮廷魔術師」
右手に魔力をためて、爆炎の龍を形成する。火属性の魔法の中でも更に最高位の魔法。真龍を象るこの魔法は、触れるものは塵も残さずに焼き尽くす。
「魔砲・煉獄龍」
龍を象った炎は大地を焦がし、木々を炭化させながら観察者に向かって放たれる。
僕が放った火炎の龍は、あっさりと打ち消された。
「あなたが女神ですか?」
現れたのは、この世界風ではない衣装。アイドルチックな衣装を着た若い女性。薄紫色の髪は地毛だろうか?
「…………いかにも。僕を神と知る者よ。汝の正体を示せ」
黒い霧で形成された神聖剣の剣先を、声がした方向に向ける。
「イトカ。神428号から神殺しの称号をもらい、世界の王になる為にこの世界に転生した新たな魔王候補よ」
「あー? 待て待て待て。あいつ何やっているの?????????」
何? 魔王のいる世界に、勇者を転生させて世界を救わせる仕事につかせた新人が、神を殺して魔王を産むとこから始めてやがるぞ。
そもそも殺す神って間違いなく僕のことだよね?
つまり、彼女は魔王候補として転生させられた人格破綻者だ。
神の世界はガバガバだ。神の判断ですべてが決まる。428号が転生させるべきだと判断すれば犯罪者でも転生できる。
つまりこの女は、428号が魔王になるだろうと判断した人格の持主。そして転生チートを持って僕を殺しにきたってことか。
「いいだろう! これは僕427号対428号のラグナロク! 天使からきたようだが、神は強いよ」
剣先から先ほどの魔法とはくらべものにならないほどの破壊力の衝撃波を放つが、それすらも吸収される。
なるほど、魔法のときは僕本来の力じゃなかったから消えた時に何が原因か把握しきれなかったが、これはどうやら僕の力は遠くに飛ばされて霧散しているようだね。
「君のチートは座標変更。いや、違うな。ワープホールかな? 空間操作系なのは確かなんだけどな。まさか空間操作そのものか?」
空間操作か。しかし、操作系能力者は基本とある弱点がある。認知外からの攻撃だ。
…………空間操作から即座に攻撃を入れてもどの瞬間で認知されるか試すのもいいか。
「ジョブチェンジ。女神」
まだ日中だが、この空の先にも星がある。ならばのこの女神魔法を使わせてもらおう。
「星降」
昼間の空から星々のエネルギーが彼女に向かって発射される。しかし、イトカとやらはそれらの光をすべて見ないで回避。
「うーむ、ここまで空間認識ができていると攻撃が当てづらいなぁ」
剣で束縛できないのは空間操作チートのせいだとすると厄介だ。
「だが、君が僕に攻撃する手段はない! 違うかな?」
僕がそう言いながらどや顔を決めると、彼女はにやりと笑った。え? あるのかい?
嘘だろ嘘嘘。攻撃をあてられない上に、僕に対して有効な技をお持ち?
「待て待て待て。やめておけ。ないんだろ? 僕は神だぞ?」
「私は神を殺すために転生しましたので」
「前世、何をしたらそういう発想になるっていうんだい?」
「前世ですか…………」
イトカの話はこうだ。彼女はとあるアイドルグループのセンターだった。歌もダンスも上手。ファンからも愛されていた彼女に突如浮上したスキャンダル。
しかし、それは捏造ではなく真実だった。一気に失脚した彼女は通りを歩くだけで後ろ指をさされ、引きこもるようになった。
引きこもり生活数日目、インターネットの書き込みが彼女の逆鱗にふれた。
『イトカとかいう性格ブスがいなくなった途端売れたアイドルグループついに世界進出!』
イトカは家を飛び出し、事務所の窓を割って回った。その日は誰もばれずに逃げ切ったが、彼女の怒りはむしろ膨れあがった。
アイドルイトカのメイクと衣装を着、ロングコートで隠し人通りの少ない場所。一人で歩く人を見つけてはコートを脱いで自分を馬鹿にしてきたものを金属バットで滅多打ちにして殺しまわったのだ。
そして最後、彼女が殺そうとした相手に返り討ちにあい、命を落としてしまった。
うわぁ…………本当に性格ブスじゃんか。
「くらいな!」
イトカが両手を広げると、その広げた両手から放射状に空間がゆがむ。僕はクリエイト・ゴッドウィングで飛翔。
イトカがゆがませた空間はすべて裂けた。空間ごと引き裂いてしまったのだ。
「うおやっべ。こいつはクールじゃいられないね」
さて、空間で攻撃をガードして、空間を裂いて攻撃をしてくる相手ね。
「…………ま、君にはこれが一番だよね」
僕は片手に力を収束させた。
それじゃあ始めようか。僕と君のステージを!!
「クリエイト! ライブ会場!!」
「何!?」
そして僕と彼女はライブ会場のステージの上に立つ。とつじょ召喚された観客たちは村人とヘレネ。
きょとんとしているね。
「勝負だよイトカ!」
せっかくなのでイトカと色違いのアイドル衣装に袖を通して僕も登場。
「私にステージで勝負? 舐めている! ナンバーワンアイドルなめんじゃねえ!」
クリエイトしたマイクを彼女に投げわたし。彼女はそれを受け取ると、村人たちにアイドルのライブというものをリードさせて知識を与える。
「勝負は簡単だ。最終投票で勝った方が生きる。負けた方が死ぬ」
「だからよぉ! 私は元トップアイドルだぞ! ま、アンタが死ぬならそれでいいや」
さあ勝負だ!
僕と彼女はステージの上で歌って踊った。村人たちやヘレネの反応はお互い好感触。
「やるじゃない」
「当然さ。女神だぞ?」
「そうね」
そして会場のボルテージが高まり、最終投票にまでたどり着いた。
この投票ですべてが決まる。僕らはお互い向かい合う。イトカは最初とは違い清々しい表情を浮かべていた。
「さあ最終投票の時間だ」
「不要よ。私の負け。だって女神に勝てる訳ないじゃない。それにみんなあなたの知り合いだし、愛されている方がアイドルなのよ」
イトカは最後に笑っていた。
「そうかい」
僕は白いドレスに羽根の生えた姿に代わり、指先に神の力を収束させた。
「神427号。ラブ・イズ・フォーエバーが命ずる。浄化されずに転生してしまった哀れな魂よ、再び輪廻に戻る為に427」
指先から出た光に振れたイトカはゆっくりと微笑み、青白い光となって霧散した。
すべてが終わり、村人たちから記憶を抜き取り、イノシシを大量に持ち込み肉祭り。
そしてついに井戸が完成した。
「水だ!」「水脈があったぞ!」「うおおおおおお」
村人たちが感動している間に、僕とヘレネは村を後にした。
「良いのですかラヴィ様」
「ああ、見返りを受け取ったら女神っぽくないだろう?」
「なるほど、あなたという方は本当にイッツソークールなお方です」
「当然さ」
次の目的地はどうする? ヘレネに相談しながらとりあえず来た道とは反対方向に歩いていくのだった。
最初の敵はあっけなく終わってしまいましたね。
ラヴィの目的は魂の浄化なのですが、当然みんな物分かりが良い訳じゃありません。
彼女はこれからどんな強敵を相手にするのだろうか。
今回もありがとうございました。