4話 最初の仲間
ヘレネの奇術ショーが無事終了し、僕たちは近くのレストランに足を運ぶことになった。
「あれ? 他の客は?」
「こちらのレストランは個室ですし、この部屋に他の客が座るスペースないですよね? となっています」
「待ってくれ。人間の常識はちょっと疎いんだ」
「やはり女神様でしたか」
やはりヘレネは僕の存在に気付き、ステージにあげたそうだ。最初は半信半疑だったみたいだが、声と顔から間違いないと判断したそうだ。
「あの女神様のお名前は何でしょうか? 今後街中でお会いするたびに女神様とお呼びする訳にもいきませんでしょう?」
来たか。僕自慢の名前を彼女にも教えてあげるとき。
「僕は神427号。この世界における名前はラブ・イズ・フォーエバーだ! イッツソークールな名前だろう?」
僕がそう名乗ると、先ほどまでにこやかだったヘレネの顔は驚愕の表情。眼は見開き口は顎が外れたかのように開いている。
「そうかそうかそんなに相応しい名前か」
「いえ、神のセンスは逸脱しているなと思いました。そのラブ様……あー今後は親しみを込めてラヴィ様とお呼びしても宜しいでしょうか?」
「ラヴィ?」
なるほど、僕の可愛さをよく表した響きな気がする。何より、ヘレネのセンスはきっと抜群だろう。ならばそう呼ばれるのも悪くないものだ。
「よかろう。ヘレネ、君の好きなように呼ぶといい」
「ありがとうございます女神様!」
そして僕とヘレネの前に食事が次々と並べられる。最初は前菜というものらしい。
「前菜? 野菜のことか?」
「……あのラヴィ様は何か常識を得る手段はおありでしょうか?」
「……そうか。リードで食事の記述をもう一度読み直そう」
「リード?」
「女神の力さ。リード」
衣食住の中でも特に食文化を重点的に脳に読み込む。どうやら前菜というのはコース料理の最初に出されるものらしい。
「なるほど。食欲をそそらせることが目的の少量の料理のことか」
早速一口。少量ながらしっかりとした酸味が口の中で広がり僕が今朝食べた食事がどれだけ雑な選びだったかよくわかった。
その後運び込まれる料理も知識にしかないものばかりで新鮮で美味しく僕はすべてたいらげる。
そんな僕を見てヘレネはずっとにこやかな笑顔を続けていた。
「ヘレネは普段からこういうものを食べているのかい?」
「この世界では英雄ですので。以前の世界ではあと一歩のところでしたから」
転生前のヘレネ。彼女は貧困街出身の孤児だった。順調な彼女の人生は、遂には豪華客船のショーに招かれるほどになったのだが、その豪華客船での海難事故で彼女は……
「こういう食事は夢だったかい?」
「勿論ですわラヴィ様。あなた様のおかげです」
「良かったよ」
彼女を転生させて良かった。彼女はあの時、あの豪華客船で誰よりも素敵な心の持ち主だったと思う。
「ところでラヴィ様は何故この世界に?」
「ああ、実はね」
僕はこれまでの経緯を簡単にヘレネに話すと、ヘレネは怪訝な表情になった。
「あの、ラヴィ様のお代わりに神の業務をされている方は……ラヴィ様を恨まれていないでしょうか?」
「へ? そういうものなのかい? 男なら神になりたいものだと思ったし良いかなって思ったんだけどな」
ヘレネは額に手をあて眉間にしわを寄せている様子。あれれ?
「もしかして人間と僕の感性に乖離が?」
「おありでしょう。おありでしょうに」
ヘレネはやれやれと言った雰囲気で僕を見る。なるほど、彼に何かしてあげるべきだったのだろう。しかしもう手遅れだしなぁ。僕は一応異世界と異世界の移動をできるがそれはあくまで僕個人できるだけだ。
ヘレネを元の世界に戻すのはまずいにしても別の世界に連れていくことはできない。そして神の世界の出入りは基本出来ないものとされている。
神0号を除いてね。
「なるほど……まあ運が良ければ彼にもいいめぐりあわせがあるだろう。きっとね」
「あのラヴィ様はこれからどのようにされるのですか?」
「僕かい? 旅に出るよ。何にせよこの地に降りてたんだ。人類が何を感じ何を楽しみ、何に悲しみ何に怒るか。僕はそれを知りたいんだ」
僕がそういうと、ヘレネはにこりと笑った。
「でしたら私もお供します! ラヴィ様と二人で旅。最高のショーになると思います」
「ショー? それは誰が見るんだい?」
「これから私たちが出会う。愛すべき人類たちへので御座います」
愛すべき人類の為か。しかしヘレネは誰かの為にショーをやっているのだとしたら、それも面白いことなのかもしれないね。
「ま、僕だけじゃできないことも多かろう。一緒に来たいなら好きにするといい」
そして僕たちは街を出る準備を始め旅たちの日を迎えた。
荷馬車に乗せて貰い次の街を目指す。その街で僕らは、新たな神428号が僕と戦うために刺客を送り込んでいたとも知らずに。
ヘレネと二人旅を出ることになったラヴ・イズ・フォーエバーことラヴィ。
はたして二人が行く先に何が待っているのだろうか。
今回もありがとうございました。