3話 奇術師ヘレネ
ヘレネの奇術ショー当日。僕は朝ご飯を買い込み路上でパンとミルクを口に流し込む。
「食事は最高だな。ああ、神の世界では何故クリエイトできないのだろうか」
ショーの会場まで足を運び、代金を支払うと会場入り。
ステージは幕がおろされている状態で客席がどんどん埋まっていく。
僕はそこそこ前の方の席に座ることができ、客席が埋まったころ、よくわからん正装した男が横から出てきて話し始めた。
「会場に集まりし、紳士淑女の皆様! 本日は世界を魔王から救った六英雄の一人ヘレネ様の奇術ショーにお集まりいただき誠にありがとうございます!」
なるほど、司会という奴か。
その後、司会がよくわからん話を少々した所で、一息つきステージ脇をチラ見してからまたマイクを持って喋り始めた。
「それでは皆様お待たせしました! 六英雄『幻影の奇術師』ヘレネ様の入場です!」
その瞬間、ステージの幕が上がりスポットライトのあてられた場所には誰もたっていなかった。
ステージ脇から広がっていく霧。その霧が徐々に中央に集まっていき、人型を形成していく。
そしてその人型は棺桶になった。そして突如発火し始める棺桶。朽ちた棺桶が爆発した
轟音と共に客席からわーきゃーの声が響く。
客席に風のみ吹き荒れ、棺桶の破片は宙に舞ってステージ脇に消えていった。
そして燃え尽きた棺桶の中から、赤いベストに白いノースリーブのブラウス黒い膝上スカートにところどころに金色の装飾をつけた服。黒い大きめのシルクハットを被った綺麗な長い金髪をツインテールにした女性。紫紺の瞳に女性らしいプロポーション。
「はぁーい! ご会場にお集まりの皆さーん! ヘレネ・ギルフォードでございます!」
会場は彼女の登場に歓声を上げる。彼女も会場を見渡すがどうやら私には気付いていない様子。
満足そうに微笑むヘレネ。どうやら今日はかなり機嫌がいいらしい。
六英雄はみな、僕が転生させた人間だ。彼女は転生前、多くの命を救って死亡した過去を持つ。
多くの人の笑顔に囲まれるこの世界は、彼女にとっても幸せな世界になったのかもしれないね。
「では最初にこちらに注目してください!」
彼女が指をさすと、何もない場所にスポットライトがあてられる。
その場所に雷撃が放たれると、箱が登場。箱の大きさは人が入るには小さいものとなっており、間違ってもヘレネは入れないだろう。
その箱は、四つ足の台の上に乗せられ、前方を開く。
「よーく見てくださいね? 何も入っていない箱が一つ」
なんの仕掛けもないことを観客に見せつける。
そして前方を閉じると、箱の上部を開いた。開いた上部を覗き込むヘレネ。
「それではこれからこの箱の中に入ってしまおうと思います!」
縦は人の顔くらい。奥行きも小さな椅子ほど。横幅はヘレネの肩幅ギリギリていどの箱を指さし、ヘレネはそのままその箱に頭から入り、重力に任せるような、落下していくように箱に吸い込まれる。
すかさずスタッフらしき人たちが会場に上がり、箱が乗った台をぐるりと回転させる。足にキャスターがついてたようだ。
そして箱の周囲を確認しても特に不自然な所はない。
スタッフが箱の前方を開くと、そこには誰もいなかった。当然だろう。
「きっとヘレネは……」
僕がじーっと眺めていると、前方だけ開かれた何も入っていなかった箱から突然風船が膨らみ始めた。
そして風船がはじけ、中からヘレネが登場したのであった。
その後も様々な奇術を披露し、会場のボルテージは最高潮にまで達しただろう。
「それでは最後にとっておき! 観客の中から一名ご協力して頂きたいのですが、どなたかご協力して頂けますでしょうか?」
ほう? 面白そうだな。しかし、無数の手が挙がる中、果たして僕が選ばれるだろうか?
まあ、いいか。
僕はすっと手を挙げる。彼女はステージの上から会場を眺める。そして彼女の瞳が、僕の顔を見つけて停止した。
だが、一切の動揺を見せずに即座に持ち直し、彼女がシルクハットからあからさまに長いステッキを取り出すと、それを僕に向けて振る。
すると僕の手には、棘が処理されて持ちやすい薔薇が握られていた。
「それでは赤い薔薇に選ばれたお嬢さん! 前に出てきてくださりますか?」
僕はバラを握ってステージに上がる。
「それではお嬢さん。こちらの剣を握って頂けますでしょうか?」
剣を受け取る前に、バラの花を僕の服の胸部にくっつけられる。
ヘレネから受け取った剣。そこそこ重量があり、刃も本物に見える。彼女は次に突如現れたリンゴを私の持った剣の刃にあてると、リンゴは想像よりも簡単に切れた。
「見ての通りかなり切れ味の良い剣を彼女に持っていただいています。それではこれから私が顔と手足を出したまま箱に入りますので、その剣でどんどん箱の穴に突き刺していってください!」
なるほど。これで刺せば間違いなく血しぶきショー間違いなしだな。
「それではお願いします」
準備の整ったヘレネがこちらに向いてにっこりと笑う。さて、彼女は僕のことに気付いているのか。それともそっくりさんだと思っているか。まあ、神の世界であった神と地上で再会するとは思わないよな。
そして穴に向かって剣を刺していくが、当然彼女は笑顔で両手を振り、足をパタパタと動かす。
そしてすべての穴に剣を刺し終えると、箱がばらばらになった。
「ぬあんだとっ!?」
さすがに驚いた僕。会場も悲鳴が響くが、転がっているのは箱と剣。それから木でできた人型の人形にカツラだ。
そして僕が渡されたバラが少しずつ大きくなっていく。が、不思議と重さは感じない。
そして人一人の大きさになった所で花弁が散り、その真ん中にはヘレネが笑顔で立って両手を広げていた。
会場は大きな歓声が響く。この世界では奇術ショーができるのはヘレネのみの為、すごい反響だ。僕はヘレネのすぐ近くでボソッと呟くと、ヘレネの口角は少しだけあがったように見え、僕は席に戻り、ショーは無事終了した。
いきなり登場。六英雄の一人ヘレネ!
427号から授かったチート能力は「気象操作」。
またこの世界においてのステータスでは魔力が宮廷魔術師クラス。
「幻影の奇術師」の二つ名をもらった女性。年齢は24歳。
今回もありがとうございました。