8話 山の主
山奥の古城を探し回る僕たち。三つ目の古城はもぬけの殻。ニコラス探しを初めてしばらく経過する間も幾人も刺客が訪れた。
ヘレネやエドワルド二人で一方的に勝てる相手が増えてきたのは、完全にエドワルドの幸運値が影響しているに他ならないだろう。
「しっかし、君の幸運があっても中々ニコラスと出会えないね」
「俺の幸運はあくまで可能な範囲にしか作用しませんので。それに俺自身がそこまでニコラスと再会したい訳じゃありませんし」
いや、絶対そこ作用しているだろ。まあ、いいか。すべて探せばさすがに見つかるだろう。
そんな会話をしながらけもの道を歩いていると、大きな地震。とりあえず宙に浮いて収まるまで待機していたが、これは地震じゃないな。
「ラヴィ様」
ヘレネが山々の方を指さす。そこには山と同じくらいの大きさの岩石でできた巨兵が移動していたのだ。
岩石の巨兵が雷電を纏いながら辺りの山を砕いている。
「あれはニコラスの眷属です」
「ああ、間違いないな」
ヘレネとエドワルドが巨兵を見てそう反応する。なるほど、つまり近くにニコラスがいる可能性が高いということだな。
「あの眷属は意思疎通ができるのかい」
「できないな」「できませんね」
なるほど、まあいいか。ゴーレムなら再生くらいするだろう。
「あいつボコボコにしてニコラスを呼びだそう」
「乱暴すぎませんか?」
「意思疎通もできないゴーレムだし、別にいいだろう?」
僕は何かおかしな発言をしているのだろうか? まあ、いいか。先手必勝だろう。
僕は神聖剣をクリエイトし、早速ゴーレムの腕を切り落とす。ゴーレムは攻撃を受けたことに気付きこちらに視線を向けた。
切断されたはずの腕は断面と断面から植物が生え再接続される。気持ち悪い再生の仕方だね。
「土属性。再生。ついでに周囲の雷からそっち系統の属性もある上に巨体。攻撃や防御の高さもあるだろう」
ニコラスに与えたチートは眷属を利用するものではない。そう、ニコラスは産まれた時からの吸血鬼。いわゆる真祖だ。
ニコラスは吸血鬼のいる世界から転生させた英雄。与えたチートは「弱点再生」。ニコラスの場合は日光、流水、ニンニク。十字架を視界に入れる。銀の弾丸を受けると、本来のダメージ分だけ再生するチートだ。
ステータスチートは速度。その速さは陸上において追いつける者はいないと言える。
だからこの眷属は、本来のニコラスの能力のはずだ。どうやらこの世界の山の主でも眷属にしたのだろう。
「この眷属自体は、ニコラスほど速く動けないだろう」
さてと、ならばこれはどうだろうか。
「クリエイト。削岩機」
僕の右腕に巨大なドリルをクリエイトする。更にここにもう一つ加えよう。
「エンチャント。太陽」
太陽の炎をエンチャントさせることに成功。この世界に太陽属性を産んでしまったが、まあこの程度なら問題あるまい。
僕がゴーレムの心臓部にあたる核の位置と断定した頭部に向かって、一直線にドリルで突進したが、ゴーレムは僕のドリルを危険と判断したようだ。
突然、ゴーレムの全身から煙が発生。僕の突進に合わせてゴーレムは飛翔したのだ。突進は方向転換が難しく、そのまま胴体を貫く。
「やるじゃないか」
僕の太陽ドリルによって削られた部分は高熱により植物が生えてこない。よって再生不可能な状態になっていた。どろどろになった体は溶岩となりゴーレムの足元に広がっていく。
念のためヘレネとエドワルドの方を確認すると、案の定溶岩に囲まれていたが、エドワルドの幸運値により、周囲が囲まれただけで二人は無事みたいだ。
浮遊していたゴーレムは更に浮遊し上空に移動する。何をする気だ?
しばらくしてゴーレムが僕と同じ高さに戻ってきた。その体は上空で完全に冷やされていた。
「天才か?」
こいつ、上空のマイナスまで下がった気温まで行って、体を一気に冷やしてきたぞ。飛行する際に熱エネルギーを産まないのか?
いや、飛翔するのもこいつのスキルなのかもしれない。
「さて、反撃が中々来ないが、それ以上にこいつの耐久と再生能力だな」
急激に冷えた体はひび割れを始め自ら砕け始めたが、砕けたところからまた再生を始め元の体が再構成される。
ここら一帯は、僕の太陽ドリルとマグマにより気温が上昇している。冷え切った体もすぐに常温並みに戻ったから再生能力も復活したのだろう。
面白くなってきたじゃないかニコラス。君の眷属と僕。どれほど差があるか教えてあげるよ。
眷属の名前はテポポポソタンです。
今回もありがとうございました。