その2
午後の生ぬるい空気の中での眠くなる授業が終わったあと、再び与謝野に招集をかけられた。場所は職員室前。
「いやぁ、やはり団体としての活動場所が必要かと思いまして」
「それで先生に部活として許可もらいにいくの?」
「いや部活とまでは言わないよぉ、ただ空き教室を一つ拝借したいだけ、あと少し校内にポスターを掲示するのと」
「え、募集すんの?」
「え、しないの?」
まさかそこまで本気の団体を作ろうとしていたとは、僕はすっかり勘違いをしていたようだ。
「……変な宗教じゃないよね?」
「な訳あるかい!」
とりあえず職員室に入ることにした。
「えーと……変な宗教とかではありませんよね?」
「違います違います!」
このスーツがよく似合う女性は山下先生、この前独身のまま三十路突入だとか嘆いていた、悲しいな。
「確か、二階の第2多目的室が空いていたと思いますが」
「が?」
「あなたのことですから一応この件は学年主任の時田先生と相談してみます」
「なんでですか!今日は今日の私ですよ!今までのことは関係ないんです!」
あの優しい山下先生の信用がないとは、日頃どんなことしてんだこいつは。
「何言ってるかよくわかりませんが、とりあえずこの件は時田先生とよく話し合って決めますので」
「あとせんせー、もし会の申請が通ったら校内の壁に宣伝のポスターを貼ってもいいですか?」
「本当に宗教じゃないですよね!?残り二ヶ月しかないんですから仕事増やさないでくださいね!?信じていいんですよね!?」
「大丈夫ですってー、でポスターはいいんですか?」
「まぁそれも込みで時田先生とお話しします」
「せんせーよろしくねー」
先生の日頃の苦労が察せられる……
結局この後僕等は山下先生ともう少し話してから大人しく帰ることにした。話した内容は大体与謝野の日頃の生活態度に関する話だった。
まさか与謝野にあそこまでの行動力があったとは。去年入学早々隣の席になって何気なく話していたら、それ以来僕に友達がいないのをいい事にやたらと粘着してくる。ねちょねちょ。でも去年もこんな感じだったか?
そんなことをうだうだ考えていると与謝野からRAINが来た。
『先生からおっけーのメール来た(にっこり)そーゆー訳だから早速明日の放課後第2多目的室室ね、絶対だからね(包丁)』
あいつ先生とメアド交換してんのかよ、どこまでも末恐ろしいやつだ。行っても行かなくても殺されそうだな。
『行ったら殺されそうだけどあと二ヶ月だけ待ってよね(包丁)』
まさか本当に活動を開始するとは思わなかったが、果たしてポスターを貼ったところで誰か来るんだろうか……。
まぁ来たところで別にどうもしないけど。
「宗教か……」
近頃確かに、世界が終わったあと天国に行けるだの、これは神からの裁きだから入信したら隕石の後でも地球上で暮らせるだのと言った宗教は増えてきている。
山下先生が心配するのも無理はない、まぁ与謝野に限って教祖はあり得ないが。
やはり今「死」と言う絶望が間近に迫ってきてその恐怖から少しでも救われるためにそう言ったものが増えてきているのだろう。
いつも宗教にはそう言ったものが表裏一体に存在するのだと思う。
しかし僕にはそう言ったものにすがるつもりは全くない。どうせ死ぬのだから今更何をやっても無駄だ、全てなかったことになる。
地球ごと消し飛んでしまえば今まで人類が、いや生物が歩んできた何億年もの歴史は全て無駄になる。
まぁこのタイミングでなくともいつか儚く消えるものではあるのだが。
だから、僕は絶望なんてしない。