その1
~はじまり~
どこかから声が聞こえる、何度も聞いたことがあるような、久しぶりに聞いたような。
ゆっくり瞼を開けると遠くのの青い空に、かすかに見えるのは、重く、大きく、地球の存亡を脅かす存在。
どうやら世界が終わるらしい。
「おーい!白井ー!」
僕が午後の日課のプールサイドでの日光浴をしながらの読書をしているとなにやら頭の上から彼女の声がする。
とてとてと子供っぽくプールサイドを土足で走って来る彼女は与謝野葵、去年知り合ったばかりなのにやたら僕に絡んでくる。
去年高校に入学したての頃に出会って以来よくこんな無愛想な奴と付き合えるなとつくづく感心する。
僕は声をがする方を一瞥すると、また本の世界に帰っていった、はずだったが、彼女がそれを許さなかった。
「やい白井!残り二ヶ月の人生を読書なんかして過ごしていいのか!」
「で、用件はなに?」
「一緒に『残りの人生を楽しく過ごそうの会』を作らないかい!」
「なんでまた急に?」
「いやぁ、だって二ヶ月後に隕石落ちてきてみんな死んじゃうのに残り二ヶ月がつまらなかったら滅んでも滅びきれないでしょ?」
なるほど、しかしその世界の終わりよりも絶望的なネーミングセンスをどうにかしてもらいたいところだ。
「まぁ確かにね、一つ聞いていい?」
「いいよ!どんどん聞いて!」
「友達いないの?」
「そこには触れないで!そもそも人口自体少ないんだから仕方ない事なの!」
言い訳のようだが、彼女が言っていることは間違っていない。
大きな核戦争があって東京を中心に首都圏が平らになったのがもう200年以上も前の話だ。
それ以来世界の人口は減少していき、東京跡地を中心に作られた「都市」にほとんどの日本の人が住み着き、地方は人工知能が全自動で食糧を生産する施設が建ち並ぶだけになった。
その過程で伝統などの文化が徐々に切り捨てられていき、今では日本食ほどしか残っていない、しかしそれも絶える。
残り三ヶ月で世界が滅ぶレベルの隕石が地球に丁度ぶつかるとアメリカのなんたらとかいう機関が発表したのが一ヶ月前の話。そりゃ最初は驚いたけど流石に一ヶ月もすれば心に整理がつく。
そしてあまつさえ人口が少ないに残りの余生を少しでも楽しく生きようと言うこの与謝野のような発想の人たちが案外いたようで、今では南国の島や過ごしやすい土地に移住する人たちが続々と増えている。
また、退職する人も増えているとか。「残りの時間を家族と過ごす」んだとか。
「で、結局白井はこの会に参加するのかい?いや、しなさい!」
「まぁ考えとくよ」
丁度そこで午後の授業の始まりを知らせるチャイムがなった。
pixivに上げていたものの転載です。