逆さ虹の森のおはなし
0・はじまり
あるところに、いろいろな動物たちが暮らす大きな森がありました。
朝になるとたくさんの声が聞こえるその森では、
少しだけ不思議なことがおこるのでした。
それは逆さまの虹が現れる事。
雨が降った次の日、
地面がどろどろぬかるむ日の朝。
その逆さ虹は長くて大きくてキレイな姿をして、
森の空にあらわれるのでした。
1・リスくん
とある雨が降った次の日、
地面がどろどろでいつもの遊び場でかけ回れない日の朝。
退屈そうに家から外を眺めていたリスくんは、
空に浮かぶ逆さ虹を見てひらめきました。
「そうだ逆さ虹の上ならこんな日でも遊べるぞ!」
リスくんは目を輝かせました。
森のはしまで続いていそうな長さ。
すべり台のように曲がった形。
積み木のようなたくさんの色。
「最高の遊び場になるに違いないや!
でも、逆さ虹に乗るにはどうすればいいかな……
逆さ虹は真ん中が一番地面に近い位置にあるから、
森の真ん中へ行けば逆さ虹に乗れるかな!」
そう思うと、いてもたってもいられなくなったので、
リスくんは虹へ向かって走りだしました。
2・クマくん
「逆さ虹に乗っても一緒に遊ぶ友達がいないと面白くないや!」
逆さ虹へ向かってまっしぐらだったリスくんでしたが、
友達を誘うためにいつもの遊び場の近くへやってきました。
いつもはいろいろな動物でいっぱいの遊び場ですが、
今日は地面がドロドロで、ほとんど姿がありません。
「おーい、誰かいないかい?いまから逆さ虹の上に行くんだ!」
そうリスくんが声を出すと、
木のカゲから大きな動物が顔をのぞかせました。
「あれ、リスくん。こんな日にここへ来たのかい?」
「あ、クマくんだ!」
木のカゲにいたのはリスくんの友達のクマくんでした。
「ねぇ、一緒に逆さ虹に乗りに行こうよ!」
「逆さ虹?逆さ虹ってあそこに見える?」
「そうだよ!乗ったら楽しそうだと思わないかい?」
「楽しそうだけど……ボクみたいに大きな動物が逆さ虹に乗ったら、
逆さ虹ごと落っこちてしまわないかい?」
「心配性だなぁクマくんは。大丈夫さ!逆さ虹はもっともっと大きいんだから。」
リスくんはクマくんの上にぴょんと乗ると言いました。
「ほら、小さなぼくが君の上に乗ったって、全然重くないだろう?」
「うーん、たしかにそうだね。じゃあボクも逆さ虹の上に遊びに行くよ。」
「やったー!」
クマくんはすぐにのしのしと歩きはじめました。
クマくんの上に乗っていたリスくんはビックリして言いました。
「クマくん、君の上から降りるから待って!」
「いやいや、ここら辺の地面はぬかるんでいて
とても転びやすいから、しばらく乗せていくよ」
「わぁ。ありがとうクマくん!」
2匹はゆっくりと、虹へ向かって歩きだしました。
3・コマドリさん
「あれ、なんだろう?」
リスくんとクマくんがゆっくり森の真ん中へ向かっていると。
小さな木の近くで素敵な歌が聞こえてきました。
2匹がその歌の方へ近づくと、
コマドリさんが小さな木の上で歌っていました。
『~♪』
リスくんとクマくんの姿に気が付くと、
コマドリさんがぱたぱたと降りてきました。
「とてもステキな歌だね!」
「うん、とてもいい声だなぁ。」
「ありがとう、そう言ってもらえるとすごく嬉しいわ。」
コマドリさんは少し照れながら答えました。
「あの空の逆さ虹をみて作った歌なの。
逆さ虹の近くで歌えたらもっとステキなんだけど。」
「それならちょうどよかった!」
リスくんは逆さ虹へ向かっていることをコマドリさんに説明しました。
「ねぇ、一緒にコマドリさんも行こうよ!」
「うーん、それは嬉しいけど難しいかもしれないわ。」
「え、どうして?」
「逆さ虹の近くで歌えたらいいなって考えて、
森の真ん中へ向かって飛んだことがあるのだけど、
逆さ虹は、いつも逃げてしまうのだもの。」
「逃げるだって!?逆さ虹が?」
コマドリさんは言います。
「そうなの、私が南の広場から、森の真ん中へ向かったら、
逆さ虹は北に向かって、森の外へ逃げてしまうの。
仕方がないから今度は北から、森の真ん中へ向かったら、
逆さ虹は南に向かって、森の外へ逃げてしまうの。」
「そんなぁ……逆さ虹が逃げるなんて知らなかったよ。」
リスくんは森の真ん中に行けば虹に乗れると思っていたので、
がっくりとうなだれてしまいました。
その様子を見て、クマくんが少し考えた後言いました。
「追いかけたら逃げるなら、もう反対側からも追いかけてみたらどうかなぁ。」
「反対から、追いかける……そうか!
森の北からと南から、両方から追いかければいいんだよ!」
それを聞いたリスくんはぴょんと飛び上がって喜びました。
コマドリさんもおどろいて言いました。
「両方から追いかけるなんて思いつきもしなかったわ。
でも、そうしたら今度は東か西に逃げてしまわないかしら?」
「うーんだったら東と、西からも追いかけよう!」
「すごい!そうすればきっと虹に追いつくわ!」
「虹より北・南・東・西…そうなると僕たちだけじゃ足りないなぁ。」
「あれ、そうか、全部で4匹必要なんだね。」
「だったら、私の友達にお願いしましょう!きっと引き受けてくれるわ!」
3匹は虹を追いかけるためにもう一人の仲間の元へ向かいました。
4・キツネさん
西の森の中にある少し高い山の上。
そこの小さな小屋にコマドリさんのお友達は住んでいました。
「なるほどなるほど、わかった、逆さ虹を皆で追いかけたいのだね。」
「どう?キツネさんにも手伝ってもらえるかしら?」
「僕たちだけだと足りないんだ。おねがいします!」
「もちろん手伝うさ、でもなかなか大変だね。」
お人よしのキツネさんはうなずくも、少し困った顔で言いました。
「これを見てくれるかい?この森の地図なんだけどね。」
ひょいと地図を広げながら、キツネさんは言いました。
「いいかい、北、南、東、西から真ん中に集合しようとすると、
それぞれ大変な道を通らなきゃいけないのだよ。」
「今いるここが森の西。
ここには見たとおり山がある。
森の真ん中ヘは山を越えていかなければならない。
森の東には大きな遊び場がある。
ここはぬかるんだ地面を歩いて行かなきゃいけない。
森の南には木の根っこだらけの広場がある。
ここを歩いていくのはとっても大変だ。
そして北には大きな川がある。
この川には今にも崩れそうな……」
「オンボロ橋だ!」
リスくんが元気よく言いました。
「ぼくはこの北の川近くに住んでいるからよく通るんだ!
いつも橋のロープを渡っているから気にしたことなかったや。」
クマくんもリスくんに続いて言いました。
「ボクは東の遊び場の近くに住んでいるよ。
地面のぬかるみもボクはほとんど気にならないなぁ。」
コマドリさんも歌うように続きました。
「わたしは南の根っこ広場の近く。
空を飛んでいるから根っこは関係ないわ!」
キツネさんは驚いて言いました。
「なんと!みんなそれぞれ得意な道があるのだね。
そして、残った西の山は、私が慣れているから……。」
「うん、このみんなでやればどの道もうまくいきそうだね!」
「太陽が高く上がった時間に一斉に追いかけよう!」
「じゃあタイミングはわたしが飛んで知らせるわ!」
「よーし、みんなで逆さ虹を追いかけよう!」
4匹は楽しそうに皆で逆さ虹を追いかけることを決めました。
5・みんなで
太陽が高く上がった時間になり、
「みんなーいくわよー!」
コマドリさんが高く飛んだのを見て、
4匹はいっせいに逆さ虹を追いかけはじめました。
リスくんは北から、橋のロープをぴょんぴょん渡って、
逆さ虹へドンドン近づいていきました。
クマくんは南から、ぬかるんだ道をのしのし歩いて、
逆さ虹へドンドン近づいていきました。
コマドリさんは東から、広場の上をぱたぱた飛んで、
逆さ虹へドンドン近づいていきました。
キツネさんは西から、山をひょいひょい下って、
逆さ虹へドンドン近づいていきました。
逆さ虹へドンドン近づいて。
逆さ虹へドンドン近づいて。
そして…
「逆さ虹だ!」
「近くで見ると、ずっと大きいなぁ。」
「そしてかがやいていてキレイね!」
「みんなで追いかけたら、うまくいったね!」
皆が喜びながら逆さ虹に近づくと、
「やぁ、よくワタシをつかまえられたね。」
と、とても大きな声が聞こえました。
「え、誰がしゃべったの?」
リスくんが周りを見渡すと、
皆も同じように不思議そうな顔をしていました。
そこへ、もう一度大きな声が聞こえました。
「ワタシだよ、君たちが追いかけた逆さ虹さ」
「えぇ!逆さ虹さん!?」
6・逆さ虹さん
びっくりしてキツネさんが叫びました。
「逆さ虹さんって喋れたの!?」
「そうだとも、びっくりしたかい?
私もみんなと同じ動物だからね。」
コマドリさんも飛びまわりながら言いました。
「あまりに大きいから、動物だと思わなかったわ」
「ワタシは木よりも大きいからね。
普段はここでおとなしくしているのさ。」
クマくんが首をかしげてききました。
「じゃあ、雨の次の日だけでてくるのはどうして?」
「みんながあまり外を歩かないだろう?
そういう日に太陽の光を浴びに来るんだ。」
リスくんも気になってたずねました。
「じゃあ、追いかけたら逃げるのはなんでだい?」
「それはね、私もみんなと遊びたいからさ。」
「え?遊びたいから逃げるの?」
「ほら、みんなで遊んでいるのを見たよ
なんだっけ?おにごっこって言うんだったかな?」
それを聞いて4匹は顔を見合わせました。
「なんだ、逆さ虹さんも僕と同じで遊ぶのが好きなんだ!」
「ワハハ!そうだとも。」
リスくんがそういうと逆さ虹さんは笑いました。
それにつられてみんなもワハハ!と笑いました。
それから、
リスくんは楽しそうにかけまわり、
クマくんが色々な色に目を輝かせ、
コマドリさんも大好きな歌を歌い、
キツネさんが皆とお話を楽しみ、
逆さ虹さんも皆と一緒に笑っていると、
すっかり日が沈み夕方になってしまいました。
7・おしまい
「さぁ、みんな。そろそろ家に帰らなきゃ。」
逆さ虹さんが沈む日を見てみんなに言います。
「えぇもう?」
「そうだとも、ワタシだって日が沈むころにはいつもいないだろう?」
「そうだけど、少しさみしいわ。」
「うん、せっかく初めて遊んだのに。」
「ねぇ逆さ虹さん。また一緒に遊んでくれるかな?」
「うーん、そうだなぁ……」
逆さ虹さんは皆の顔を見て、
長い体を少しまげ悩んだ後、
「わかった、じゃあ……雨が降った次の日。
地面がぬかるんでいる日は、皆と遊ぼう!」
「やったぁ!」
それから、逆さ虹の森では、
雨が降った後の良く晴れた日に、
森の真ん中で仲良く遊ぶ楽しそうな、
動物たちの声が聞こえるようになりましたとさ。
おしまい。
読了いただき有難うございます。