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95話目 初夏のお祭り

久々の日常回。フラグは立てといたので、お祭りにしてみました。

六月に入り直ぐ、初夏とは言い難い暑さが放明中学校の教室を襲っていた。


窓が開いていても心地良い風など稀にも吹いてこず、たまに入ってきても熱風だったりする……


こんな状況で学生がマトモに授業に集中している……なんてのは幻想でしか有り得ない。それは聖家で最も大人しく、礼儀正しく勤勉な実鳥であっても例外ではなかった。


「駄目だよぉ~……授業の内容、全然頭に入らないよ……」


授業中、先生が黒板に書き記した文章や数列をノートに写しはしたものの、その説明が全く耳に届かなかったのである。ノートを読み返しても、それが何かを全然理解出来なかったのだ。


休み時間、そんな泣き言を仲良しの夏彩(なついろ)星和(せわ)に漏らしていた。


「いや、ここまでノート録れてる時点でみっちゃん凄いよ。私なんてぐにゃぐにゃして線にしか見えないし、書いた本人ですら読めないし……」


「せやね、触手が繁殖行動しとるような字ぃやね」


「普通にミミズがのたくった言えっての!そうゆうアンタはどうーなのよ?」


「ウチは真面目に……夏の新刊のネーム描いてたわ。絶対締切守ってみせるねん!頭湯だっとった方がイカれたアイデア沸いてくるんよ!」


「うん……ある意味、真面目だよね」


授業中に同人誌のネーム作業に没頭……趣味に対してとても真面目である。創作者の鏡であるかもしれない。


……中学生の本分からは大いに的外れだが。


「なんだか、余計に暑苦しくなってきたよ……なんか、涼しくなること無いかな~?」


「確かに初夏ってレベルじゃないよね。ま、夕方になればまだ涼し……あ!なっちゃん今日って確か……」


「せやね~、平日の晩やけど……行こか!お祭り!みっちゃんも行こうや!」


「お祭り?」


夏彩と星和が住んでいる地区は、中学校を挟んで聖家とは反対に位置している。その為小学校時代の通学区も実鳥とは異なる。実鳥は、本日開催される祭りがあるとは知らなかったのだった。


「お祭りかぁ……多分、行けると思うけど」


聖家には夜の門限は無い。但し、条例違反しない限りである。


「それじゃ決まりやな。場所はな……」




夕方18時過ぎ。


スピーカーから祭り囃子が響く中、神社の鳥居の前で夏彩と星和が実鳥を待っていた。夏彩は学校のセーラー服のまま、星和は半袖のゆるふわトップスにデニム生地ミニスカートのカジュアルなスタイルである。


「やっぱり家が遠いから時間かかるかぁ……人通りも多くなってきたし……なっちゃん、どうした?」


星和が待ち疲れして夏彩に同意を求めようとすると、不意に夏彩の挙動がおかしな事に気付いた。どうやら、何かを凄く気にしているように、キョロキョロチラチラ盗み見していたのである。


「せっちゃん……小声でな?鳥居の反対側に立っとるお姉さん達……めっさ美人やない?」


星和が夏彩が顎で示した方へ向くと、浴衣姿の女子二人が待ち合わせでもしているのか、回りの様子を伺っているのが見えた。


「うわ……女子高生かな?レベルたっか~……浴衣着てこなくて良かったな。比べられたらミジメ~だったよ」


一人は黒髪に美白肌で、夜空をイメージした紺色の生地に花火模様の浴衣。もう一人は赤髪に小麦色の肌で、薄い桜色の生地に小さな白い花模様が幾つも描かれたシンプルな浴衣。二人とも髪を結い上げ、うなじをスッキリとさせていた。


この二人、清央高校三年生のトップ2、赤月弓と倉田安芽である。


「見事やろ?やっぱり、浴衣ん時はうなじがポイントや思うんよ。あのお姉さん達、よお分かっとるわ!」


「それは否定しないけど……あんなキレイカワイイな女子二人。周りの男どもが放っておかなそ……ジロジロ見てんの、なっちゃんだけじゃなかったみたい……」


周囲にたむろしている幾つかの男子グループの視線が弓と安芽に注がれている。弓はそれに全く気付かず辺りを見回しているが、安芽は呆れている様子でうんざりと男に目もくれず、縁日屋台に視線をさ迷わせていた。


「……意外やな。ギャルっぽいお姉さん、全然男に興味なさそうや……色気より食い気っぽいわ」


「なっちゃん、創作に役立つからって人間観察はほどほどにね?色気より食い気なのはウチらも同じ……!」


意識せず、不意に星和と安芽の視線がクロスした。すぐに目を反らそうとした星和だったが、コミュ力高杉さんな安芽は、それだけの事で平然と星和達に話しかけてきた。


「こんばんは~。貴女達も待ち合わせかな?」


「え?あ、はい。クラスの友達と……」


「奇遇だね~アタシ達もクラスメイトを待ってんの!で……ちょっと協力してくんない?アタシ等二人だけだとさぁ、ナンパ野郎が寄ってきそうで面倒なのよ。しばらく一緒に居てくれない?なんか奢るから……ね!?」


初対面でも、物怖じなしでグイグイいけちゃう安芽ちゃん。


「えっと……なっちゃん、どうしようか?」


「いや……その……あかん、リア充と話すん苦手やねん……」


安芽とは逆に、二人はひっコミュ系である。知らない人と、仲介者無しで初対面の相手と話すのは苦手なのだ。特に、夏彩は今以て友達が星和と実鳥しかいないのだ!


しかし!安芽はとっても人懐っこい性格でお節介さんだった!


「ご、ゴメンね!いきなりこんな美少女お姉さんにお願いされても困っちゃうよね?でも、どーか助けてほしいのです!私が一方的に話すのを傍で聞いてるフリして相槌してくれるだけでいい、簡単なお仕事だから……ね?」


夏彩は、なんだか悪徳バイトの勧誘みたいや……とか思う一方、おもろい美少女お姉さんとこのままオサラバしてしまうのも勿体無く思えていた。


「まぁ……友達来るまででえぇなら……そん代わり……ウチもお姉さんにグイグイ質問してもえぇですか?」


「ちょ!なっちゃん……」


夏彩はコミュ力不足だが……開き直ると止まらない性格だった!


「お!ノリいいねキミ!お姉さんに答えられることなら何でもいいよ!しかし、これでもお姉さんは男を知らない純潔さんなので、エッチにゃ質問だけはNGだ!」


「そ……そんな……初っぱなに「初エッチは幾つんでした?」聞いて、ごっつ引かせる計画が崩壊や……」


「ていっ!」


呆然とする夏彩の後頭部に、星和がチョップで突っ込みを入れた。


「なっちゃん!それは質問になってなくてもセクハラだよ!ホント馬鹿で娘でスミマセン……」


「だって……高校生の性事情気になるもん……せっちゃんかて、みっちゃん家には興味津々だったやん……」


「……ソレはソレ!もっと無難な質問から入りなさいっての!お姉さん達のクラスメイトさんはどんな人ですか?とか!」


「じゃあソレで」


「横着か!?」


女子中学生の漫才じみたやり取りに、安芽は目を細めて微笑み、和んでいた。


「いや~……貴女達、愉快だわ~。その質問の答えだけど……もう来たみたいだわ」


「剣く~ん!梓さ~ん!こっちよこっち~!」


安芽の言葉が示す通り、弓が居場所を知らせる為に、腕を大きく振っていた。とても嬉しそうに。


「ん?あ、ウチらの友達も来たみたいやんな……あら?」


「そうみたい……って!ええ~!?」


弓が呼んだ名に、夏彩も星和も聞き覚えがあり、友人が見せてくれた写真でだが見覚えもあった。


「お姉さん達の友達……ウチらの友達の兄さん姉さんだったみたいやなぁ……そか、あれが噂の……」


「剣さんに、腕組んでるのが梓さんで……みっちゃんと光さんと手を繋いでいるのが燕ちゃん?あの集団、マジ眩し!」


剣と聖家姉妹(今回は四人)は、すれ違う人々が思わず足を止めて振り返ってしまうオーラを放ちながら、お祭りの様子を物珍しげに見回す燕の歩に会わせ、ゆったりとした足取りで進んで来ていた。


そんな彼等を待ちきれなかったのか、弓は安芽に振り向きもせず、足早に駆け寄って行った。


「あっちのお姉さん……百パー恋する乙女やな……」


「そだね~……私にもそう見えたわ」


「あっはは~……じゃ、アタシ達も行こっか?」





実鳥と合流すると、夏彩と星和は実鳥の家族に挨拶を済ませると、お祭りを早く楽しみたい体を装い、早々に別行動に移ったのであった。


「ヤバかったん……みっちゃんのお兄さん、マジでイケメンやったわ~」


「光お姉さんも半端なく美人だったし……みっちゃん、あんなキラキラな人達と同じ家に住んでて……よく正気を保っていられるわ……」


そう、聖家があまりにも眩しくて……一緒にいるのがいたたまれなかったのである!


「二人とも……そんなので私の家に遊びに来れる?」


「いや……その……普段着ならなぁ?だって……ウチらの方が浮いてたやん?みっちゃん達、みんな浴衣やったんもん!」


「お兄さんは作務衣だったけど……フツーの服とセーラーだよ?中身も貧相だし……死にたくなるっ!」


そう、聖家女子は全員浴衣だったのである。


光は大人びた涼しげな紫陽花柄。


梓は白地に、紫の異なる色調の朝顔が無数染め抜かれた浴衣。


燕のはデフォルメされたペンギンのイラストが沢山プリントされていた。


そして、実鳥は七夕をイメージさせる黒地に緑の笹の葉模様の浴衣を着ていた。


「こうして三人なら、格好バラバラでバランス取れとんやけどなぁ……」


「みんなで和装してくるなんて、みっちゃん家は仲良いよね?そう言えば、今日はハル姉さんいなかったよね?桜センパイも」


「あ、うん。お姉ちゃんはバイトだし、桜ちゃんは翼さんと希さんのライブの打ち合わせに行く予定だったから。小町ちゃんは……難しいお年頃なので……」


家族と一緒にいるのを知り合いに見られたくないとか、友達と遊んでいるところに遭遇されたくないとか……そんな事が恥ずかしくなってしまう、そんな多感な年頃なのである。


「さて……折角来たんやし祭りを楽しまんとな?先ずは、何か食べよか?それとも遊ぼか?」


「どちらにしろ迷うわね。食べ物なら定番のソース系か……それとも揚げ物か……はたまたのっけから甘い物か」


「……取り敢えず、参拝からじゃない?」


「流石はみっちゃんや。礼儀正しなぁ~」


「礼儀って……神社に来たら、御参りするのが普通じゃないかな……?」


「いや……祭に来て最初に御参りする程、私達信心深くないし。ま、賽銭入れたら節操なく欲望丸出しのお願いするけどね」


「ウチも夏イベの成功祈願せんとな~。みっちゃんは何をお願いしたいん?」


「お願いなんてしないよ?健康で幸せに毎日過ごせていることを神様に報告して感謝するだけだよ」


夏彩と星和は、雷に撃たれたかのように驚愕した!


「マジかいな……せっちゃん!ここに聖女様がおる!聖家の女の子だけに!」


「くうっ!なんて尊い!私はなんて心が汚れてるんだ……神に感謝なんて……したことがない!」


「お、大袈裟だよ二人とも……それに、剣さんの受け売りだし」


絶望的な幼女時代を過ごした実鳥にとって、願い事を叶えてくれる神様なんて、そんな都合のいい存在は信じるに値しなかった。


だから、聖家の一員となって、家族で初めて初詣をしたときに、賽銭箱の前で何をすればいいか判らずに困っていたら、剣にこう言われたのである。「神様は気紛れで忙しいから、願い事なんて自分から訊きに来てくれた時にすればいいんだ。だから、誰かに聞いて貰いたい事や、内緒にしておきたいけど独りで抱え込むにはしんどい事なんかを勝手に報告しちゃえばいいんだよ。そして、聞いてくれてありがとうって言っとけばいいんだ」と。


「お……お兄さん、心ん中までイケメンか!?」


「神様にねだらず感謝するだけ……?なんて清い!」


実際には、本物の神様の端くれと付き合いがあり、期待するだけ無駄だと悟っているだけなのだが。


「あはは……でも、私にはそれがしっくりしたんだよね。私が願う事なんて、自分で頑張ればどうにかなる、小さな事ばっかりだし……神様どころか、恥ずかしくて誰にもお願い出来ないもん」


「みっちゃん……イチイチかぁいいわぁ~!」


「もう……私にはみっちゃんの幸せを願うしか選択肢がない!」


仲良し三人娘は、揃って参拝を済ませると、縁日屋台を巡り、食べて遊んで、より仲を深めあったのだった。


「そろそろ剣さん達と合流しなきゃ……」


「せやな、名残惜しけど、ウチらだけやったら補導されてまう時間も近いしなぁ」


「みっちゃん家遠いし、一人で帰す訳にいかないもんね。明日が休日だったら、私ん家に泊めるんだけどなぁ」


どれだけ盛り上がろうとも、祭の終わりは必ず来るもの。ちょっぴりの寂しさを覚えつつ、三人は再度、待ち合わせの鳥居の前に向かったのだった。


そこには……


「……おふっ?」


「……フルアーマーや」


「つっ……剣さん!?何ですか、その荷物はぁ~?」


「……一言で言えば、戦利品」


両手では抱えきれない程の玩具や菓子類。屋台の食べ物が詰め込まれた袋を抱えた剣が、待っていた……




姉妹それぞれの友達をクロスさせてみました。今後、どんな化学反応するかなぁ……?

単発話の予定でしたが……次回は剣が何をやっていたか、祭の裏話をやりたいです。

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