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91話目 修学旅行最終日 本当に色々ありました

さあ、修学旅行ラストスパート!

修学旅行最後の見学場所である清水寺への道中、バスの最後部座席の中央に座る剣は……無心でボケ~っとしていた。後ろをチラチラと振り向く男子の敵意に満ちた視線。女子の蔑みの暗く冷たい、或いは好奇心混じりの怖いもの見たさ的な視線。暗く生気の無い幽鬼なような表情のバスガイドから注がれる据わった視線。


そのどれもが鬱陶しく、完全無視による精神完全ガードを決め込んでいるのである。こうなっている原因は、剣の右腕に桃色笑顔で擦り着いている梓ではなく、左腕に遠慮がちに寄り添って、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして俯いている弓の存在である。


バスの乗車時、クラスメイト達は梓が剣を何故か後部座席にまで引っ張っていったのを訝しく感じたのだが、剣を梓と挟んで座ったのが弓だったのを見て……阿鼻叫喚の大騒ぎになったりしたのであった。


「うああぁぁ!エクスカリバーめ!委員長を墮としてやがる!?」


「しかも何だ!嫁公認か!?巫山戯んなハーレム野郎!」


「きゃー!聖くん帝王様よ!夜の帝王!」


「おのれ!昨日は我々とゆかり様との時間まで奪っておいてぇー!許すまじ!」


「病院に帰れ!」


「どうせだから早瀬も持ってけ!」


喧々囂々、非難の嵐。呪詛の言葉が剣林弾雨の雨霰。それを剣は持ち前の精神力(図太さ)でガン無視しているのである。


色々酷い言われようではあるが、剣は不特定多数の女性を弄ぶようなタラシではない。それどころか、とても誠実である。とても誠実に、弓からの告白に返事をしてフッたのである。しっかりその気がなかったと伝えたのである。だから、クラスメイト(部外者)にブーイングされる謂れは無い筈なのだが……


いじらしく初々しいアピールで剣に迫る弓を見て、何が在ったのかを知らない外野が剣を悪と決めつけるのは無理なきことであった。


「あ……あの……なんだかゴメンなさい……私のせいで……」


ガッチリ断られたのに、それでも諦めずに「これから好きになってもらうために頑張る!」と剣に宣言し、これまでの一歩引いた立ち位置と比べれば、比較にならないぐらいに猛アピールをしている(つもりの)弓だったが、自分の行動が剣の不利益になっているのではと思うと、やはり申し訳なく感じたのであった。


「……別に、馴れてるから平気だ。赤月こそ、辛いなら無理しない方が」


「ぜ、全然平気だから!無理なんてしてないもの!は、恥ずかしくなんて……」


そう言いつつ、明らかに恥じらっている姿が彼女いない男子~ズの両眼を血走らせ、血涙の滝を大量竣工寸前である。


「ちきしょう聖め……今まではギリギリだった!ギリギリ我慢できるレベルの嫁だったから許せたのに……」


「マジ美少女で、しかも委員長とかキャラ的に王道過ぎる!俺達に夢と希望を返せ!」


途方もない僻みの嵐の中、剣はひたすら無心で耐える中、こともあろうに新たな力に目覚めていた。それは、ラブコメ主人公の大半が会得している必須スキル[突発性難聴(え、何だって?)]から派生した常時発動型の上位スキル[無意識取捨選択聴覚(モブの声は聞こえない)]であった。


その効果は読んで字の如く、自身の無意識下に創られた〝聴覚情報の有用性を判断してくれる知性〟が、要らないと判断した情報を遮断してくれる。とゆう、雑音に惑わされなくなるスキルである。


役に立ちそうに思えなくもないが、[聴覚異常耐性]のように聴覚神経を保護するスキルではないので、鼓膜を傷付けるような爆音までも無効に出来る物ではない。戦闘では役に立ちそうにない微妙なスキルを、本人すら知らぬ間(多分一生気付かない)に会得していたのであった。


元々精神的に成熟していて、妹さえ絡まなければ簡単には怒りを爆発させない温厚な性格にスキルまで加わったので、クラスメイトの口撃は、難攻不落の城塞におもちゃの銀玉鉄砲で挑んでいるのに等しかった。


クラスメイトしかいないバスの中でこれである。清水寺での自由行動ともなると……想像通りの結果になって、梓が嬉しそうに呟いた。


「まあ、こうなるよね~♪」


他学級の生徒は勿論、一般の皆様からも好奇の視線を戴く事になったのは、さもあらん。剣に対して好意を示すのが常である梓はこの状況を楽しむ余裕すらあるが、初めて興味本意の数多の視線に晒された弓は、羞恥心から剣の腕を離していた。しかし、梓が平然と剣と腕を組んでいるので大人しく引き下がりも出来ず、剣の袖をちょこんと摘まんで恥じらいながら連れ立っているのであった。


その様子を五歩下がって見守る安芽は、とても微笑んでいた。


「初々しいなぁ……弓、ナイスガッツ!」


「二股されてる感じに見えるけど……それでいいの?安芽ちゃん……」


この旅行中に安芽と仲良くなった雀が、親友が難しい恋愛に足を突っ込んでるけど大丈夫?と意味を込め、心配そうに安芽に問うた。


「いーのいーの!恋愛に奥手だった弓が頑張ってんだから、応援するのが親友ってもんでしょ!」


「まあ、私達は事情知ってるからいいけど……剣くん、オーディエンスから完全にチャラ男扱いされちゃってるし……こんなに注目浴びてると……」


また、トラブルさんが襲来しそうだとゆう意味でも、雀は心配しているのであった。


しかし、雀達一般生徒が知る筈も無いが、人的トラブルに関してはほぼ起こり得ない状態となっていた。


何故なら、私服警官ならぬ、私服陰陽師が剣の身辺警護にあたっているからである。そうなった理由は……




昨晩、梓と弓が病院から去ってすぐ、剣の病室を訪ねた楼明と尋姫は、言葉を発する前に土下座で剣に謝罪した。


無情にも剣にペッタンコの挽き肉にされたバフォメットさんは陰陽師に回収された後に検死され、その胃袋の中には消化されずに圧縮・破裂した人間四人分の肉片が認められ、未消化の所有物も発見された。


剣とは緊急の遭遇戦であったらしく、悪魔崇拝者達は個人はおろか組織に繋がる情報までも隠蔽せずに所持したままであり、その中から彼等が京都を訪れていた目的まで判明したのである。それを知った時、楼明は危うく気絶しそうになったのであった……


「本当に済まなかった!確かにヒイロガネは希少な神秘の金属ではあるが……図らずも剣殿を囮とするような形となり……その様な意図は無かったのだ!どうか、許して戴きたい!」


それはもう、平謝りであった。「どうかこの老いぼれの首一つでぇ!何卒他の者には御容赦を!」とか宣い、尋姫は「お祖父様の命だけは!私が代わりに何でもしますからぁ~!」と涙ながらに懇願してきたり……


剣は「俺はサラリーマン漫画の傲慢上司かよ……」と辟易して、怒る気力も失せたのである。元々、自身のミスを反省こそすれ、そんなに怒ってもいなかったのだが。


それから悪魔崇拝者達の目的についても説明された。


連中の目的は、より上位の悪魔を召喚する為の媒介となる物質の回収、つまり強奪であり、剣が始末したのはその為の実働部隊だったらしい。バフォメットさんの検死の結果、探知用呪具とおぼしき道具が見つかったらしく……


「奴さん等も驚いただろうな。任務合間の観光中に、目的物が探知に引っ掛かったんだからの。しかも本来葛乃葉が裏で保管している筈の品。棚からぼた餅と功を焦ったのも無理なき事よ」


「問答無用で結界に閉じ込められたからな。そっか、あいつ等が忍者の格好してたのは俺と同じ理由だったのか……貸衣装屋には悪いことしちまったな……ところで、連中の目的がオリハルコンだってのは直接悪魔さんから聞いたんだが、ヒイロガネとオリハルコンって同じ物なのか?」


「ふむ……儂は別物だと思っておったが、奴さん等は神秘的な金属の総称としておるのやもしれぬ。要は、悪魔召喚の媒介として優秀な金属であれば何でも欲しいんだろうしの。本家の倉には幾つかヒイロガネの武具や祭具が保管されとるからな、本来はソレ等を狙っておったのだろうて」


「それなのに、俺が予定外の物を目の前にぶら下げちまったって訳か……大事の前の小事と見逃しゃいいのに、欲をかくもんじゃねぇなあ」


うんうん頷きながら沁々と呟く剣に、楼明は苦笑いを返すしかなく、本当に済まなそうに何度も頭を下げた。


「結果的に儂等は被害を出さずに済んだが……剣殿には迷惑を掛けて本当に済まなんだ!今後迷惑を掛けぬ為にも〝緋波〟は御返し戴き、改めて礼を用意したいのだが……」


楼明の言葉に、剣は僅かに眉を吊り上げ、枕の下からヒナを取り出し、楼明にヒナを握った拳を突きだし――


『や、嫌です!主さ』


「爺さんの懸念は尤もだがな……返すつもりは全く無ぇよ。折角外に出れたってのに、たった一日で箱に戻すなんて、言いたか無ぇが可哀想だろ?それに、コイツが……ヒナが悪くて襲われた訳じゃ無いからな」


『主様ぁ!』


剣が示した返答に、感極まった様子のヒナ。もし、人の身であったなら、涙と鼻水を垂れ流して抱き着きたいとばかりに感激しているのだが……剣は完全にスルーしている。


「しかし、それでは……」


「一度引き受けたからな。それに、ヒナの境遇には思うところもある。ま……親っつーか師匠的な立場になった気分なんでな。一人前にするまでは保護者面させて貰うよ。それより責任感じてるなら、もっと警戒強めてくれよ。せめて俺が明日東京に帰る迄はさ」


「ふむ……剣殿がそれでいいのであれば、これ以上は無粋だの。しかし……〝ヒナ〟か。まだ一日も経っておらんのに、随分砕けた関係に成っとるのう?……タラシか?そう言えば、両手に華だったみたいだのう?」


ニヤニヤと勘繰るように笑う楼明に、剣は頭にヤの付く自由業さながらにドスの効いた声で返した。


「あ?それ今関係あるか?誰がタラシだ?俺は女()遊びはしても、女()遊ぶような趣味は無えっての」


「それは失礼。しかし……聞いた話では剣殿が嫁扱いしておるのはふくよかな娘の方だけではなかったか?それにしては、細身の乙女も、随分熱を上げておるようだったが?」


剣は既に現状を把握しつつあった。


「……ここの医者は、患者のプライバシーを他人に漏洩しているみたいだな……」


ここは、葛乃葉が出資している病院であると!


「ハッハッハ!で、どうなんじゃ?良かったら尋姫もいらんか?種付けだけでも……」


「お祖父様!何言ってんですか!怒りますよ!?」


ボゴッ!と、尋姫が楼明の後頭部を刀の鞘でぶん殴った音がした。


「……おいおい、俺の病室で祖父が実の孫に撲殺されるとか、迷惑この上無いんですけど?」


「ご、ごめんなさい!責任もって埋葬しますから!」


「……生きとるがの~……で?どうなんじゃ?」


「無いっての。本気になれない相手に自分の子供を産ませられるかよ……つか、アンタ達が身内になったら、いざって時に助けなきゃならなくなるだろうが……」


「そうか……残念だのう、尋姫や」


「お祖父様……やっぱり一回死にますか?」


祖父に本気で怒る孫娘と、孫娘に構って貰えて嬉しそうな祖父の喧嘩(と言う名のじゃれあい)を眺めながら、しれっと無視してヒナに現代の常識についてレクチャーする事に集中したのだあった。




そして現在、楼明の命令で微妙にイラッとしている私服陰陽師に見守られながら、剣は梓と弓を伴い清水寺周りの土産物屋をハシゴしていた。


梓と弓が仲好さげに綺麗な小物類を見て廻るのを、剣は三歩下がって見守りながら、ヒナと無音相談していた。


(俺、赤月の告白をしっかり断った筈なのに……そもそも、どうして好かれているのか……よく分からん)


『そうですか?主様の言動も行動も人を突き放すようでいて、男前で優しさに満ちていると思いますが』


(いや、俺は非道い奴だぞ。ヒナのことも、妹がピンチになったら平気で見捨てる自信があるぞ)


『そうゆうトコなのでは?妹様に次ぐ程度には優先して下さると確信しております!』


(そりゃ、まあ……ワンコのこだちの次程度にはな)


『犬以下!?……いえ、主様の愛犬の次であれば本望です!』


(それでいいのかよ……?何にせよ俺の周りには、俺を過大評価する奴ばっかりだな……)


この買い物を終えれば、いよいよ修学旅行は帰路を残すのみである。


剣にとって平凡な修学旅行はこの四日間で、初日だけであった。本っ当に色々あった四日間であった。




長かった……

最終的に正当派ヒロインと人外ヒロインが持ってった感じになってしまった?

梓を沢山書けて楽しかった……

次回は、家に~帰、る迄が、修学旅行で、す~。

先生もありがとやした!

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[一言] 二年後、双子に当たってしまうガイドさんを想うと…… 南無
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