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87話目 修学旅行三日目 ナイショな話

画像が付くと……終止ヤバ……かも。

梓は女子トイレの個室に入ると、蓋をしたままの洋式便器に座った。便意が無かったのだから当然の行為である。


トイレに入った理由は、誰にも見られないように、剣が落としたであろう物を、再確認する為である。


服の中に隠していた()()は、長さにして拳三個半程度の木製の筒の様な物で、拳一個半程の位置に切れ目があり、そこから引き抜けるように見えた。


だが、単なる筒では有り得ない言い訳がある。筒の様でありながら、両端側から見ると真円ではなく、握ると手に馴染むような楕円形であった。


梓は細めた目で、マジマジとソレを見つめ、品定めをする。


「やっぱり、少し重い……」


木材だけでは感じ得ない重量感。そして、形状。拾い上げる寸前、直感的にソレが何であるかを判断し、その判断が正しかったのだと確信した。


(なんだって……こんなモノを携帯してんのよ……ううん、そんな事よりも問題は、見られちゃいけないモノを落としたのに、気付かない程頭が鈍ってることだよ……私、甘かったなぁ……もう、修学旅行だからって言ってる場合じゃない。無理矢理にでも休ませなきゃ)


何よりも先ず、梓は自身の考えが浅かった事を恥じた。剣の疲労が、かつてないレベルであったことに気付いていたのに、平静を装っていた剣の気持ちを優先してしまい、気付かぬふりをしてしまった事を。


(ここには、お姉ちゃんも妹達もいないんだから、私がしっかりしないと!)


梓は右手でパンっ!と乾いた音が響く程に気合いを込めて頬を叩くと、剣を医務室に引き摺ってでも連れていって休ませる!と、決意を新たに立ち上がった。そこで、左手に握りっぱなしにしていたモノを服の中に隠そうとして、ソレに意識を向けて怪訝な表情を浮かべた。


「それにしても……どうしてこんなモノを隠し持ってたんだろ?わざわざ持ち歩いてたんだから、大事な物なんだろうけど……見覚えないなぁ……こんなの持ってて見つかったら、停学処分されても不思議じゃないのに……」


そして、何気なく引き抜いてみた。


「……何、コレ?凄く……綺麗……」


ほんの僅か、鞘から引き抜いて現れた刀身は薄く赤みを帯び、緋色の煌めきを放ち、貴金属の様に輝いていて、思わず絶句するほどの美しさだった。


梓は服飾を趣味としているので、アクセサリーや宝石、貴金属には強い興味を持っている。その梓をしてすら、見たこともない神秘の希少金属……ヒイロガネの輝き。我を忘れて見惚れてしまうのも無理からぬ反応であった。


あまりに見惚れて、鼻血を垂らすとゆうJKにあるまじき醜態を晒す程に。そして……紅の雫が一滴、美しすぎる刀身に……ぴちょんと落ちた……落ちてしまった。


「いけなっ!早く拭かないと……」


『みぎゃあぁぁぁ!血が!血があっ!』


「みゃんっ!?あ、頭が割れ……あれ?聞こえなくなった……?」


突然の、頭が割れそうな喧しい叫びに驚いて、梓は思わず小刀――ヒナを手放してしまった。すると、嘘のように静かになったのである。


「な、なんだったんだろ?っと大丈夫かな?欠けたりしてないよね?」


ヒナを拾おうとして、触れる。


『あぎゃあぁぁぁ!やだあっ!やだあっ!』


驚いて、放す。……指先で、ちょんと触れる。


『あうぅぅ……、怖いよお……助けてぇ……』


指を引っ込める……聞こえない。また、軽く触れてみる。


『お、お願い……血を……拭ってぇ……』


どんどん弱々しくなる不思議な声。梓はトイレットペーパーを手に取り、刀身から血を拭きとり、ついでに自分の鼻にティッシュを詰め込んだ。


すると、何処からともなく聞こえてきた嘆きの声が、ピタリと聞こえなくなった。


梓は再び便器に座ると、たった今経験した不思議体験について一分程黙考し……結論を出した。


「まさか~、こんな小刀が喋るなんて有り得ないよね~」


と、陽気に笑い飛ばした。


「なんて……言うとでも思ったかな?かなぁ?」


梓の表情から、スッ……と、明るさが消え失せ、冷たい笑みを浮かべていた。そして、小刀を右手で拾い上げると、その切っ先から僅か数ミリの隙間を空けて、左手の親指を近付け、静止させた。


「このまま誤魔化そうとするなら……どうなるか解る?さっきの比じゃない量の……血を見る事になるよ?」


もし、ヒナに冷や汗を流せる機能があったなら……抜けば玉散る氷の刃なんてのが目じゃないぐらいに、ビッシャビシャに濡れてしまったに違いない。


「それじゃ、ぷすっと――」


『やめてやめてー!私です!泣いて喚いていたのは私です~!』


「ん、正直でよろしい……で、あなたは何者なのかな?どうしてけんちゃんに所持されてたのかな?他にも色々聞きたい事はあるんだけど……はじめまして。けんちゃんの内縁の本妻で、戸籍上義理の姉の梓と申します」


『へ?……あ、ハイ!私の銘は緋波。主様からはヒナと名付けて戴きました。どうぞお見知りおきを……って!あれ?……あの……ど、どうなってるの?』


ヒナは激しく混乱していた。剣からは、梓は剣の前世関係について何も知らず、世界の裏の存在――幽霊や妖怪を現実として認識してはいないと説明されていた。それは、ヒナが封印される以前から一般世間の常識であった。


常識とは、凝り固まった思い込みと同義で、時代と共に変化してゆくのが当然であるとされる概念であると同時に、変化を受け入れ難くさせる厄介な人の共通認識でもある。ヒナ自身もそう認識しているからこそ、一般常識の中で生きている筈の梓が、易々と自身の存在を確かなものとして受け入れている事が信じられなかったのである。


『あ、あの!私、刀ですよ?金属なんですよ?それが喋ってるんですよ!驚かないんですか!?怖くないんですか!?』


「別に?そりゃ驚きはしたよ。でも、怖いかって問われても論外だね。泣き虫な御子様を、どう怖がれと?」


『あぐ!いえ、泣いて喚いたとゆうのは言葉のあやでして……』


既に、取り繕っても無駄な醜態を晒した後である。あまりにも説得力が感じられない言い訳に、梓はコテンと首を傾げた。


「ヒナみんは、見栄っ張りさんなのかな?」


『ヒナみん!?何ですその呼び方は!』


「え?可愛くないかな?けんちゃんにヒナって呼ばれてるんでしょ?元々の名前が緋波だからヒナみん!駄目かな?」


『駄目とかではなくてですね……』


受け入れるどころか、距離感が近すぎる。剣のような、自分と近い境遇であった特異な存在であるなら兎も角、只の人間である筈の梓が、どうしてこうも素直に、怖れもせずに……自らそう仕向けたとはいえ、世の裏を知る陰陽師にすら妖刀として忌避され封印すらされていたのに……何の前フリもなく愛称呼びまでされる馴れ馴れしさ……ヒナには、梓が理解出来なかった。


『どうして、そんなに安心しているのでしょう……?私みたいなモノノケに、何故……』


「何をそんなに不思議がってるのかな~?ヒナみんが悪くて危険なモノノケだったら、けんちゃんが持ち歩いたりする筈無いじゃん!安心するのに、これ以上の理由がいる?」


ニッと笑ってドヤ顔で応える梓。剣への絶対的信頼、それだけあれば、理由なんて他に要らないのであると。


『奥方様は、主様をとても信頼されているのですね……素晴らしい夫婦愛です!』


「奥方様!?や、やだなあ!確かに正妻とは言ったけどぉ、そんな呼ばれ方したら……嬉しくて照れちゃうじゃないの!なんていい子なのかしら!」


無意識的な行動で、ヒナの刀身(峰側)に頬擦りをしちゃう梓。刃物に頬擦りするJK……危険な絵面である。


『お、奥方様~!危ない!危ないですから~!鞘!鞘に収めて下さい~!抜刀してなくても、柄に接触してたらお話し出来ますから~』


「そうなの?ま、下手して指切っちゃたら大変だし、納刀しますか。折角の綺麗な刀身が見えなくなるのは残念だけど……」


渋々とヒナを鞘に仕舞うと、梓は改めてヒナに質問した。


「私のこと、あまり詳しくない様子だよね?けんちゃんの……懐刀になったのは最近なのかな?」


『懐刀!?ハイ!今日からです!』


「……直近じゃない」


懐刀と呼ばれた事に気持ちの上がるヒナであったが、梓は懐刀とゆう単語を〝側近〟とゆう意味ではなく、字面通りに〝懐に忍ばせている刀〟使用していたのであったが……空気を読んで訂正はしなかった。


「そうかぁ……それじゃ、まだけんちゃんの事もあまり知らないよね?」


『そうですね……でも!とても強くて、優しい方だと思いました!……それと……いえ、私ごときが口にすべきでは……』


「遠慮せず、感じた通りに話していいんだよ?容赦なくて、冷酷で、人でなしだと思ったりした?」


『そ、それは……失礼ながら、図星を突かれた思いです……』


敵であれば、女であろうと、戦意を失おうとも、迷わず殺し、殺そうとする。ヒナからの助命の求めに対し、一考するに値しないと否定した。その後に起きた事を思えば、それは確かに正解だったが……


『ですが、主様に比べれば、私は甘いのだと思い知らされました……護身刀として打たれた身であるのに……護る為の判断を、間違えてばかりで……』


もし、あの時剣に異を唱えていなければ、悪魔の召喚を未然に防げていた筈で、剣を消耗させる事もなかった……護るどころか、主を危機に陥れた……剣がそれを気にしている様子は無いが、内心申し訳なさで一杯でもあった。


だから、続く梓の言葉が意外過ぎた。


「あ~、それ違うから。確かに決断に迷ったりとかしないけど、けんちゃんって案外お間抜けさんだから。それに詰めの甘いとこあるし、妹達には甘々が過ぎるから!……だからね、ヒナみんには、失敗を恐れずけんちゃんに意見して欲しいかな?私は、闘ったりとかじゃ、役立たずの足手まといにしかならないから。そんな時、けんちゃんが間違えたりしたら遠慮なくね!そうしてくれたら、安心出来るし」


『え?……あの……主様からは……奥方様、何処まで察して……』


ヒナは剣から、剣の前世や能力について、説明してある家族は翼・希・桜の三人だけだと聞かされていた。そして、ヒナにも他の家族には秘密にしろと指示されていた。


「だ~か~ら!けんちゃんは詰めが甘いの!家だと油断し過ぎなの!私はと~っくの昔から、けんちゃんが普通の人間じゃないって知ってるの!全然隠しきれてないんだから!」


『……本当、に?』


「けんちゃんはね、自分の嘘を誤解されるのが凄く嫌いなのよ。逆に、本当の事を言って嘘だと思われても、本音で生きてる結果だからって受け止めちゃうのよね……責任感強いと言うか、図太いと言うべきか……だから、言い訳する時には言葉を凄く選んでるのよ。さっきも、反社会的グループとか、しかるべき機関って何!?って内心思ってたのよ……イッちゃん達はけんちゃん流のジョークだと思ったんだろうけど……私にはあの時点で、どちらも表沙汰に出来ない集団なんだと理解出来たわ……それが何なのかまでは解らないし、知らない方がいいんだろうけどね」


梓の剣に対する理解度と、言葉の端を汲み取る思慮深さは、ヒナにとって想定外にも程があった。だからこそ、解らない事があった。


『……正直、脱帽しました……で、では!どうして……主様に、主様が隠している事に気付いていると……告げられないのですか?』


「それはね……けんちゃんが私に、前世や魔法を、本当だと思ってほしくないから……かな?けんちゃんが私に求めてくれてるのって、変化しないこと、なんじゃないかって思うんだ。だから何も知らないフリしてるんだけど……もっと私を信じてくれていいんだけどなぁ……実際、私の気持ちは全然変わんない……どころか、大っきく強くなる一方だし!」


ヒナは、もう感心するしかなかった。正直に感じていた事を言ってしまえば、封印される前に知っていた女性……葛乃葉家の女性に比べると、梓は慎みが無く、愛情表現が強引だとすら思っていた。だが実際に話してみると、梓は剣の心の細かな機微まで察している上で、剣の意思を尊重し、邪魔にならない程度に加減して好意を示している……そう、感じられたのだった。


『奥方様は……素敵な方です。であれば尚のこと、その想いの全てを主様に御伝えした方が……』


「だ~め!けんちゃんが自分から話してくれる迄、それだけの勇気を獲得するだけの成長をするまで待つって決めてるから!既に充分チートスペックなんだから、簡単にラッキーボーナスあげるのは為に成りません!秘密だからねヒナみん!もし、秘密を守れなかったら罰を与えるからね!」


『ど、どんな罰でしょうか?……ゴクリ』


喉を鳴らせないので、わざわざ言葉にするほど……ヒナは緊張した。ここまでの会話から断言出来る。梓は……やると言ったらやる人だと!


「そうだな~ヒナみんでピッチピッチの鮮魚を捌こうかな~?〆てない、生け簀から直でまな板に乗せた奴で!私お料理下手だから、指も切っちゃうかもな~」


『絶対秘密厳守致します奥方様!』


こうして、剣に内密で絶対的上下関係が構築されたのであった。


「さてと、けんちゃんが心配だし、そろそろ戻らないと……」


梓がトイレの個室から出ると同時に、血相を変えた雀が飛び込んで来た。


「アズちゃん大変!剣くんが……倒れたの!」




現実目線だと、JKが刃物と妄想会話しているだけにしか見えない……ヤバイわこれ(汗)

あまり書いてこなかった梓の内面でしたが……こいつパないわ。自分で当初想定していたより育っちまってる……

修学旅行終わったら、他の姉妹を押し出さねば!

次回は、意識を取り戻した剣が、お約束の台詞を呟いたりするかな~?

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