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86話目 修学旅行三日目 事後処理頼むわ

令和初投稿!

前回はギリギリ平成ラスト投稿でしたが……内容的にアレルギー起こした人もいたみたいです。

でも……書きたい事を書く!

結界が消失すると同時に、複数の陰陽師が剣の元に集まってきた。話を聞くと、結界の外側付近で待機していたらしく、既に結界を覆うように一般客と映画村スタッフが入れないように封鎖してあるのだと説明された。


取り敢えず連絡する手間が省けて良かったと、映画村の営業にまで影響を及ぼせる組織力……侮れないなと剣は思った。


一先ず、自分の学校関係者に目撃される心配が無さそうだと安心したので、陰陽師達に事後処理を丸投げする為、剣も現在までの経緯を説明したのだった。


「五人の男女に囲まれたんで、敵だと判断して皆殺し決定したんだが……四人殺ったところで最後の一人が自ら依り代になって悪魔召喚しやがってさ~……で、なんやかやあってピンチを感じつつも、バフォメットって名前の悪魔さんを岩盤でペタンコに潰して圧殺した……みたいな感じなんだけど……あれ?どうした?


緊張感からの解放と激しい魔力消耗からの疲労から要点だけを投げやりに説明された内容に、陰陽師達は一様に表情を青冷めさせ、畏怖を込めた目で剣を見つめていた。


「な、名付きの上級悪魔を単独撃破した、ですと……」


「名付き?いや、悪魔にだって名前ぐらいあるだろ?しっかしまぁ強かったわぁ~俺の手加減抜きの魔法を耐えやがったし、パンチも互角だったからな……拳を交えても相互理解には至れなかった……悲しい限りだった」


拳を交えれば互いを認めあえる……なんて、漫画みたいに上手くはいかないものだと、剣はちっとも悲しくなさそうな皮肉めいた冷めた表情をしていた。


淡々と語る剣の説明を聞き、この場で初めて剣を見知った若輩の陰陽師が、剣と面識のあった先輩に小声で訊ねた。


「先輩、前に上級悪魔って、レイドボスみたいな存在だって言ってましたよね?道具や装備を万全にして、二十人ぐらいで何時間もかけてどうにか討伐できるって……あの人、たった一人で、無傷っぽいんですけど……」


「……後輩よ、安心しろ。俺もこんな不条理は初めてだ」


そう、結果だけを見れば、剣は無傷での完全勝利であった。実際には、バフォメットが食中毒を起こさなければ圧倒的に不利な状況に追い込まれ、無傷どころか敗北して殺されていた確率の方が高かったと剣自身は分析していたのだが……戦闘過程を大幅に端折って説明された彼等には、剣の圧勝にしか見えなかった。


「楼明様の判断は正しかった……正門を破壊された時、誰か一人でも彼に仕掛けていたら……本部にいた全員が皆殺しにされていたかもしれない……」


「長老、マジで慧眼っすね……」


戦慄している陰陽師達であったが、次に剣が起こした行動は、更に彼等を驚愕させた。


「じゃ、俺は修学旅行に戻るんで後始末頼むわ……っと、このままじゃ片付けるのも手間だよな。ちょっと下がってくれ」


剣は岩盤の上から飛び退くと……魔法を使って、まるでベニヤ板を裏返すように岩盤を持ち上げ、パタンとすら音を立てずにひっくり返して、元あった位置に並べて置いた。


「じゃ、後始末よろしく」


何事もなかったかのように、スタスタ去ってゆく剣。残された陰陽師達が目にしたモノは……地面と、岩盤の裏側にこびりついた……悪魔と、贄となった崇拝者達の赤黒く変色した肉片だった……


「……先輩、あの岩盤何トンですかね?それに、コレを見て平然と……うぷっ!」


「言うな……それより、応援を呼ぼう。精神的に耐えきれん……おえっ!」


この現場に招集された陰陽師全員が、剣にだけは、絶対に敵対しない事を心に刻んだのであった。


この封鎖区画は、陰陽師の皆様による懸命な後始末により、物質的・霊的に浄化されて翌日より無事に営業が再開されました。




「あ~!もう!けんちゃんってば何処行ってたの!?みんな待ってたんだからぁ!」


「うん、ごめんな。ちょいと厄介事に巻き込まれてな……掻い摘んで説明すると……」


海外からの旅行客を装った反社会的グループに絡まれたので、返り討ちにした後()()()()()機関に身柄を引き渡して現場検証と事情聴取に協力していた……と、剣は()()本当な説明をした。死体を身柄と解釈して良ければ全て本当である。


高校生がするには、かなり非現実的な出来事ではある。常識的に考えれば有り得ない言い訳だ。だが、剣のクラスメイトにとっては……


「またトラブルに巻き込まれたのかよ剣~」


「よりによって剣くんに絡んじゃうとか、絶望的に不運な悪党ですね」


「どんな恐ろしい目に逢わされたのか……トラウマがぁっ!」


特に大した事件でもなかった。


「まあ、けんちゃんだし仕方ないか……言いたい事はあるけど……兎に角今は撮影だよ!レンタル時間限られてるんだからね!」


梓は剣が何をしていたのか追究する気はなかったが、少しだけ怒っていた。朝から目に見えて疲れていたのに、平等院では睡魔に負けて見学を諦める程だったのに、現在の剣が、その時以上に疲弊しているのを隠していたからである。


(こんなに疲れてるけんちゃん、初めて見たよ……なのに、みんなに心配させまいと……)


剣が平静を装っていると判っているからこそ、剣が無断で単独行動した事を咎めようとはしなかったのである。かつてない疲労しながらも修学旅行を楽しもうとしている剣に梓が出来ることは、疲れを癒しつつ、無理をさせず、仲間にそれを気付かせず気を使わせないようにすることであった。


その為、衣装を返却すると「甘味を食べたい」と普段通りの明るいノリでハッキリと意思表示したのであった。特に誰も反対することなく、和のスイーツが楽しめるお店に入店すると……


「はい!けんちゃん、あ~ん」


「あ……あ~ん……ん、んまい」


梓に突き出された団子に、素直に食らいつく剣。甘い餡子がたっぷり塗られた団子は、モチモチした歯応えが心地好く、口中に広がる甘味が程よく、疲れた身体に糖分と炭水化物が染み渡ってゆく。


「聖って、凄いよな。夫婦でも普通に恥ずかしい〝あ~ん〟を人前で平然と……精神耐性・高とかスキル欄に絶対ある」


「ああ、アレに割って入る女子がいないの、この旅行でよく解ったよ……」


普段の学校生活で剣達と関係の薄い瀧と耕平は、この旅行で剣と梓のラブラブを近くで何度も目にして辟易していたが……遂にそれを通り越して、達観するに至っていた。


一方、剣に淡い想いを寄せている弓は、この旅行中に少しでも気持ちに気付いて貰えたら……そう願いつつも、ごく一般的日本人女子な倫理観と慎重な性格から、一歩も踏み出せずにいて、その親友である安芽は歯痒くモヤモヤした気分であった。


※ここからの二人の会話はヒソヒソ話です。他のメンバーには一切聞こえていません。


「にしってもさぁ、私はけっこう聖~ズへの印象変わったわ。剣んって教師や不良から悪魔的に怖れられてるけど、授業態度はフツーに真面目だったよね?なのに、ずっと眠そうにだらけてアズっちに寄っ掛かってさあ。これが真の姿なんかね?」


「そうなのかしら……でも、疲れるのも解る気はするわ。暴走しがちな椿さんに、お調子者の田崎くん。それに……聖さんに、日常的に、あんな……情熱的なアタックされてるんだもの。無理矢理にでも居眠りしないと、身体が保たないんじゃないかしら?」


「ま、確かにアズっちが情熱的なのは揺るがないけど……弓はさ、気付かなかったかぁ……」


「え?何の事?」


「剣んはさ、アズっちの傍で熟睡しちゃうんだよ。寝てる間に悪戯されるなんてちっとも考えてないみたいにさ。精神的に疲れさせてくる相手に、無防備な自分を……弓なら任せられる?」


「安芽……何が言いたいの?」


「まあ、そんだけアズっちが剣んの信用を勝ち取ってるってコト?だから……アズっち以上に自分をぶつけられないなら、傷の浅い内にって忠告かな。小学生になる前からアズっちを基準に女の子を見てるんなら……女の子からの好意に鈍感になってるし!絶対!」


「そうなの……かしら?でも、最近後輩の娘達が聖くんに言い寄ってるみたいなのは……どうなの?」


「あれはガチで告白されたみたいだから鈍感とかって問題じゃないから。弓にもあの程度の度胸があれば応援する甲斐もあるんだけどね~。剣んがマジで迷惑してるのを、照れてるとかって解釈しちゃうポジティブさは見習うべきかもよ?」


「安芽……私に勘違い系突撃乙女になれと?」


「そうゆう弓も、案外可愛いかもよ?……剥れない!何にしろ……想いを秘めて待ってるだけじゃ、神様だって奇跡を起こしちゃくれない……そう思わない?アズっちだって、誰より近くに居れたってラッキーには恵まれたかもしれないけれど、何もしないで今の関係を築けた訳じゃないんだろうしさ」


「……そう、かもね。でも、ただ真っ直ぐ伝えるだけじゃ、玉砕する未来しか見えないのよ……」


「……いいんじゃない?玉砕したって」


「え?」


「寧ろ、絶望的って覚悟が出来てるならするべきじゃない!諦めたくなるまで、何度でも!」


「いや、結果が分かってても、現実になると……キツいと思うよ?多分……私、泣くよ?」


「そんときゃ私の胸でも背中でも貸して慰めてやるって!ま、焚き付けた責任くらいは果たすって……弓はさ、私が誰かに振られたとして、そうしてはくれない?」


「意地悪な問いかけね……私が安芽を、ほっとけるわけ……ないって分かってて言ってるよね?」


「だって親友だし!」


「……頼もしい親友だこと……」


ヒソヒソ話に夢中になっている二人を、剣を除く男子三人は横目で様子を伺いつつ、しっかり聞き耳を立てていた。


(いいんちょが剣に気があるの、剣以外クラス全員薄々気付いてんだけどな~)


(聖と話してる時、絶対声が上ずるしなあ)


(自分も散々男を振ってるだろうに……リア充な悩みだな)


自分を取り巻く友人達の思惑が巡る中、梓の差し出す糖分の塊を黙々とモグモグ咀嚼していた剣であったが、何を思ったか、突然立ち上がった。


「……トイレ、行ってくる」


女子も居る中、食事中に、明瞭で配慮のない言葉を発し、剣は誰にも一瞥すらせずテーブルを後にした。


「珍しいな……いつもならメシの時とかは「察しろ」とか言って言葉を濁すのに……嫁さん、食わせ過ぎた?」


聖家は女性ばかりの家族である。その為、剣はそこらの男より人一倍そういった気配りをする奴だと一朗は長い付き合いから知っていたので首を傾げていた。


「そうかなぁ?あれ?何だろ?いきなり立ったから、何か落としたのかな……よっと……」


梓はテーブルの下に潜り込み、剣の席の下に落ちていた物を確認し……一瞬思考をフリーズさせた後、拾った物を、誰にも見られないように服の中に隠して……


「……お花摘みに行ってきます!」


と、一目散に駆け抜けて行ったのであった。




女の友情的な会話を入れてみました。安芽はサバサバしているので、足踏みしている弓の背中を押したくなっちゃう……みたいな。

まあ、それは本筋のスパイス的な……或いは今後の伏線かも……

さて、本筋ですが……次回、梓に確保された不審物の運命や如何に!?


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