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84話目 修学旅行三日目 映画村で遊ぶ

コスプレ回。

平等院に続いて訪れたのは、これまた京都の観光名所の定番であり、修学とゆう意味から遠く離れていると思われる……所謂テーマパークな……映画村であった。


時代劇の舞台セットとして使用される、江戸時代や明治時代の日本的な建築物が建ち並び、その時代に合う衣装をレンタルして、侍やお姫様の格好に着替え、なりきって施設内を自由に歩いたりも出来たりする……となると、旅の恥は書き捨てなノリの高校生達がすることは……決まっている!


「さ~て、誰が何のコスで出てくるかな~?」


早速着替えを済ませたのは、町娘風な装いとなった梓であった。本人的コンセプトは、団子屋の看板娘である。


「やっぱ、京都ならコレでキマリっしょ!」


「お~、イッちゃん!何処からどう見ても……士道不覚悟で切腹させられそうなチャラい隊士さんだね!」


「……鬼の副長さんのつもりだったんすけど……」


一朗は、浅葱色の羽織を纏った侍、新撰組隊士に扮している。本人のキャラが軽すぎて、梓には歳三さんとは認めてもらえなかったようだ。


「え、と……可笑しく……ないかな?」


おずおずと姿を現したのは、赤を基調とした雅な着物姿の雀であった。


「どうせだから、記念になりそうなの選んだけど……七五三みたいじゃ……ないかな?」


顔を赤らめ、恥じらうその姿は……梓の脳天を直撃した!


「ずめちゃん……メチャラブリー!とっても可愛いお姫様だよぉ~!」


「ちょ、アズちゃんくっつきすぎだってばぁ~」


思わず、姫様な雀に抱きついてしまった町娘な梓。そこに、仕返しのチャンスとばかりに、出来損ないの副長が嬉しそうに声を荒げた。


「姫様に不敬であるぞ!叩っ斬ってくれるわ~!」


「あ~れ~!お侍様、お許しを~」


実に息の合った、即興時代劇の一幕となった。気心の知れた、友人同士のじゃれあいである。


「おまたせしましたでありんす~……あら~?どないなっとりはりますん?」


「安芽……そこまでなりきる?私は恥ずかしくて出来そうにないんだけど……」


取って付けた京都弁の安芽と、付き合いで仕方なく感を隠そうともしない弓は、二人共舞妓はんになっていた。実に定番である。


「おっ!お二方、実にお似合いっす!」


「あれ?寸劇もう終わり?」


美しすぎる舞妓二人の登場に、さっくり役目を放り捨てるダメンズ隊士。迫真の演技で逃げ回ろうとしていた町娘は、思わず拍子抜けして素に戻った。


「ふむ~……二人がずめちゃんを挟んで立つと……なんて艶やか!絢爛豪華すぐる!」


梓の感想は過言ではなく、一般入場者も麗しい三人に目と足をつい止めて、カメラやスマホを構えていた。


「あ!撮影は構わないけど、SNSとかにアップする際には個人特定されない処置をお忘れなく~」


「な……慣れた対応するわね聖さん……」


「妹のお供でコスプレイベントよく行くからね、撮影前に一声かける!許可なく接近し過ぎない!無断でローアングルは死刑!最低限守らなきゃいけないマナーなんだよ♪」


「当然なルールだと思うけど……最後のは一般社会でも犯罪よね!それはそれとして、こんな格好する以上、多少は被写体になるのも覚悟してたけどね……」


それにしても……少々ギャラリーが多すぎるんじゃないかしら?と、弓は笑顔を引き攣らせた。デジタルである為、最早様式美でしかないシャッター音が幾重にも重なり、カメラに思い入れの無い弓には、カメラ好きのロマンが一欠片も解せず、少し不快感を感じていた。


「ダメどすえ~弓さん。舞妓が笑顔を崩したらあきまへん!」


「だから……安芽はノリ過ぎだってば!」


方や、安芽は上機嫌で撮影に応じ、被写体であることを存分に満喫していた。単なる被写体としてだけでなく「舞妓さんと一緒に記念撮影したい!」と希望する一般客やクラスメイトとも一緒に写真を撮られたりと、サービス全開の大盤振る舞いである。


そして、最も注目を集めているのが、雀姫であった。恥じらう姿と小柄な体格が特に大人の女性から多大な支持を集め、ちやほやされることに慣れていない雀は、あたふたしながらも期待に応えようとして微笑みを浮かべ、その愛らしさにハートを撃ち抜かれる犠牲者(支持者)が続出していた。


「ヤバイって……舞原ちゃん可愛すぎ……」


「え?あのお姫様舞原なの?」


「だってほら、あの町娘は聖の嫁だろ?」


「聖の嫁がいるなら……そうか。あれ?早瀬はどこ行った?」


クラスメイト達にとって、梓の側に雀と椿がいるのは常識である……とゆうか、梓の側にいる筈の剣に、椿をしっかり見張っといてもらいたいとゆうのが正直な気持ちであるが……


そんな時である。新たなざわつきが起こったのは。


「え!?あの人……凄く格好良くて凛々しいんだけど……」


一般女性客の、そんな言葉を皮切りに、周囲の視線が貸衣装屋から出てきたばかりの剣士に注がれる。


細身で高慎重、背筋に歪みがなく堂々とした立ち姿、静かで物憂げな表情にスッキリとした顔のライン。たまたま顔の合った女性が、微笑み返されると失神しそうになったりと……黄色い悲鳴が木霊する、アイドルばりの美剣士の登場に、清央高校の女子達も頬を紅潮させたり、男子が「ケッ!」と悔しがったりする中……とても嫌そうな顔をしていたのは、梓であった。


「ここまで外見が良いのに……だからこそ……残念!」


一般客達は「この娘、何言ってるの?」と、美剣士に辛口採点した梓を不思議そうに訝しむばかりだが、梓のクラスメイト達は、迸等せていた熱気を急激に下げ、青ざめた表情を覗かせる者までいた。


「……くふっ!この完璧な変装を見破るとは、流石は梓!愛の力だな!」


「お前との間に、そんな力は存在しない!」


美剣士から発せられた声は、少し低めであったが、紛れもなく女子の声であった。


「嘘っ?女の子だったの?」


「マジかよ……まるで宝塚女優じゃんか……」


「それより、女の子相手に愛って……百合?」


一般の方々は驚きつつも、然程狼狽えたりはしていないが、クラスメイト達はそうもいかない。特に、女子達は……


「嫌ぁ~!私、早瀬さんにトキメキ感じてた!?」


「嘘よ……ちょっといいとか思ってないっ!」


「神様。仏様。剣様!助けて下さい!アブノーマルな世界から救済して!」


とても、悲喜こもごもな様子でありました。


「あ~……あっちが人目を集めてくれて出やすかったな」


「デカブツの癖に、恥ずかしがってんじゃねぇよ。こんな遊びにビビリやがってよぉ……」


椿が注目の的になっている隙に、耕平と瀧がしれっとコスプレして姿を現していた。耕平は坂本龍馬に扮し、瀧は柳生十兵衛風の眼帯侍の衣装をチョイスしていた。


「あ!才谷先生だ!耕平くん背が高いから似合ってるね~」


「え?……いや、違うけど……」


耕平の返しに、雀は少しだけしょんぼりした。才谷先生とは、坂本龍馬が使用していた偽名であり、幕末の歴史を少しかじっている雀にしてみれば、耕平が龍馬の格好をしていたのが嬉しくて褒めただけのつもりだったのだが……授業で教わる程度の歴史ですら、かろうじて平均点のスポ魂くんには理解が及ばなかったのである。


「な、何故?俺、舞原を失望させるような事を言った?だって、店員さんにも龍馬の服だって……」


何も失態を侵していない筈だと狼狽える耕平。そんな彼の背中を、一朗と瀧が労るように摩った。


「気にすんな。雀っちが幕末スキーなだけだから」


「もう少し、気になる女の好きな物には興味を持てよ」


耕平くんの恋路は、前途多難となりそうである。


「ねえ!」


背後からの突然の呼び掛けに、男三人が揃って身体をビクッと震わせた。男同士の女子の耳に入れたくない話題中だったので当然だが、耕平のキョドりは人一倍だった。


「き、聞こえてないよな?な!な!?」


耕平達が振り返ると、そこには梓が腰に手をあて仁王立ちしていた。なにか気に入らないのか、ムスッと膨れっ面をして。


「けんちゃんは?そんなに手間取ってたの?」


その質問に、三人は揃って頭の上に?マークを浮かべた。


「聖なら……田崎より先に店を出たよな?」


「お、おお……迷わずに衣装を決めてたからな」


「剣の奴、トイレでも行ってんのか?」


三人とも、剣はとっくに集合場所に先着しているものとばかり考えていて、現在どうしているかなど全く心当たりがなかった。


「……おっかしいな~……けんちゃ~ん!カァムヒアァァァ!!」


しかし、剣は来なかった……


「もう……何処いっちゃったのよ~!」




剣が現在どうしているのか?時は少し遡り……


「んよっし、変身完了っと」


基本的に即断即決、剣は誰よりも逸速く時代劇衣装を決めて着替えを終えていた。


『主様、本当にその衣装で……宜しかったのですか?』


懐に忍ばせているヒナから疑問の声が響く。ヒナ的には、前時代の衣服を纏い、その姿になりきる遊びだと説明してあるが、それが遊びとして成立しているか自体が疑問のようであった。そもそも、ヒナの感覚は凡そ百年前……幕末から明治時代初期頃で止まっていたので、店にある着物の殆どが時代遅れである事にすら納得がいってない様子であったのだ。


で、あるからして、ヒナが剣に薦めてくる衣装は……更に前時代的な、戦国甲冑だったりした。当然、剣は即却下した(記念撮影用のみの衣装で出歩けないとゆう理由もあった)。


『残念です。主様によくお似合いだと思ったのですが……』


「もし、出歩いてよかったとしても、あんな格好目立ちすぎるっての。まぁ、この格好で昼の町中を出歩くのも、大概な感じではあるけどな」


『そうですよ。昼間にそんな格好をしてたら、絶対警官に捕まりますよ』


「だからこそ、なんだけどな。余所じゃ中々、外出出来ない姿だからさ」


剣が選んだ衣装は、全身真っ黒な装束。所謂一つの忍者であった。現代でも、日中に町中を歩いていたら通報されるのが確実な格好である。しかし、映画村でなら歩いていても不自然ではない、公認されている存在である。


『しかし……目立ちたくないのであれば、侍や浪人でも宜しかったのでは?主様の凛々しき御尊顔を隠すだなんて勿体無く……』


「俺の顔なんかを見せびらかしてどうすんだよ……?」


ヒナから見ても、剣は美丈夫であり、主が注目を浴びて誉め称えられるのは誇らしいのである。大した従者根性とも言える。だが、平穏に過ごしたいだけの剣は可能な限り目立ちたくないのである。普段の生活圏では既に絶望的に目立っているので、せめて旅行先でくらいは注目されたくないのだ!


……が、貸衣裳屋を一歩出たところ。


「あー!忍者だ!本物?忍術見せて!忍術!」


いきなり、一般来場者の親子連れに声を掛けられてしまったのである。


「す、スミマセンこの子ったら……キャストじゃなくてお客さんですよね?家の子、アニメの忍者が大好きで……まだ現実との区別もついてなくて……」


短めの謝罪の後、小声で伝えられた内容を剣は頭の中で要約してみた。すると、こうなった。


(つまり、夢を壊さぬように誤魔化せばいいのかな?)


ここにいるのは、魔法で忍術を再現可能な男である!


「坊や……忍術が見たいのだな?」


「うんっ!」


「そうか……では、よく見ていたまえ。……(ニン)っ!隠れ身の術!」


「うわっ?消えた!」


「う、嘘でしょ!?」


目の前で消えた忍者に、子供はテンションマックスであるが、母親は目前で起きた事が信じられず、思わずよろめいた。剣流隠れ身の術、忍法・ステルス迷彩である。今日だけは魔法でなく忍法である!


「何処を見ている?こっちだぞ坊や」


「わ!もうあんなトコに!」


屋根の上から腕を組んで見下ろす忍者を見上げ、子供はとても嬉しそうに瞳を輝かせた。


「……お客じゃなくてキャストだったの?最近のテーマパークの演出って凄いのね……」


母親のそんな呟きは、子供の耳には一切入らなかった。


「フッ……それでは、任務があるのでこれにて失礼……忍っ!」


そのまま、忍者は屋根の上を駆けてゆくのであった……


「凄いねママ!本物の忍者さん!」


「そ、そうね……本当に……」


「ボクも、忍者になる!」


リアルに忍術(魔法)を目撃した、忍者に憧れる幼児が今後どうなるのか……まあ、剣にはどうでもいい話であった。




「さて、子供の夢を壊さずに済んだかな?」


剣は適当に屋根の上を駆け抜けると、人目を避けて地上へ降り立った。


『あの……目立ちたくなかったのでは?』


「顔隠してたからいいんだって。ま、映画村の忍者役のスタッフには、迷惑かけたかもしれないけどな」


先程の剣を目撃していた客から、無理難題を要求されるかもしれない……そんな事を思いつつも、剣は心の中で謝罪しながらも、一切責任を負うつもりは無かった。


「うん、まあ〝謎の忍者が映画村に出現!〟みたいな都市伝説が生まれる程度で済むだろ。全く問題ない!」


既に都市伝説量産マンとなっているので罪悪感の欠片もなかった。


「さて、さっきの子供に見つからないように集合場所に――」


突然、剣は全身が異様な感覚に包まれたのを感じた。まるで、周辺の空気の温度が急に低下したかのように。


『これは……主様、空間封鎖の結界では?予め張られたものでなく、急拵えだと思われますが……』


「そうだな……やれやれだぜ……こんな事してくるって事は、爺さん達とは別口な連中……つまり〝敵〟だな。……失敗したぜ。使うんじゃなかったな、忍術」


『それで感知されたと判断するべきですね。気配は……五つ感じます。ところで主様、一つ質問したいのですが……何ですか?忍っ!て』


「今する質問か?……只の様式美だ、意味は無い」


『……妙な時代になりましたねぇ』


緊張感の無い掛け合いをしている中、剣達の目前に現れた〝敵〟の姿は、全身黒装束の……忍者であった。


「……映画村のスタッフ……な訳ないか」


『そうだったら、謝ってもすまない話ですよね』


ヒナの突っ込みに「ああ良かった」と〝敵〟と相対しながら怒られなさそうで安堵してしまう剣であった。





忍者の、ニン!はお約束ですよね?

カァムヒアー!……おっきいロボットを呼ぶ勢いで発声しましょう。

次回は剣さん対非日常な方々です。


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