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81話目 修学旅行二日目 夜の茶会

今回……女の子出ません!

「気が緩んでおるように見えたが……こうも簡単に気付かれてしまうとは、自信無くすのう……」


「何の自信だよ?陰陽師だけでなく、忍者だったりもするのかよ?」


剣の軽口に、楼明は思わず、豪快に笑い声を漏らした。


「カッカッ!そこはトップシークレットじゃな」


「……否定しろよ。白状してんのと変わらねーよ……で、用があるから来たんだよな?」


「まあ、のう。……その前に、そのシャツはなんじゃい?」


「なんじゃいって何だよ?気に入ったんだよ、悪いか?」


「ちと、センスを疑いたくなるわ」


本日の湯上がりTシャツは、藍染めの生地に白抜きでジンベエザメが描かれており、背中には同じく白抜きの平仮名で〝じんべえざめ〟と書かれている。今日行った水族館の売店で、発見し即購入を決意した、剣にとっては逸品のTシャツである。


「……ケンカ売りに来たと解釈していいか?」


思わず大慌てする楼明お爺ちゃん。お年寄りとは思えない速さで首と手をブンブン振り回す。


「とんでもない!まぁ、あれじゃ。儂等のお主に対する基本方針が決まったのでな。茶でも呑みながら説明させて貰おうかとのう……要するに、茶会への誘いに来たんじゃ」


「茶会?……茶道の作法なんて知らねーけど」


「なに、儂が持て成したいだけなのでな。幹部連中が雁首揃える訳でも無し。格好もそのままで、気軽で構わぬよ」


すーっと、楼明はホテルの最上階を指差した。


「あの部屋じゃ。用意しとくから、そうじゃな……23時過ぎにでも訪ねてくれるかな?」


「最上階……って!スイートルームかよ!……よく、部屋が取れたな。金銭的にも時間的にも……」


驚く剣に、してやったりと満足そうな笑顔を見せる楼明。


「ふふん!儂は表にも裏にも顔が利くのでな。このぐらいスマホで宿泊予約するより楽勝じゃ!」


「なんて得意気な。……まいっか、23時過ぎな?やれやれ、消灯後に室外出るとか、真面目な生徒のするこっちゃねーんだけどな」


剣は無遅刻無欠席で、テストは常に平均点以上であり、たまに絡んでくる他校の不良を証拠を残さないように叩き潰したり、二度と逆らわないように示談(脅迫)で済ませたりしている品行方正な高校生である!


「……本当に高校生やっとるんじゃのう。あれほどの力があって、よう大人しく生きとるもんじゃ……」


「地位や名誉や権力に興味無いんでね。それに、自分が最強だなんて自惚れちゃいない。俺は精々バケモノがいいとこで、神様なんかにゃ及びもしねーよ」


「……あまり謙遜するでないわ。お主でも匙を投げるような者がおるなど、考えたくもないぞ……」


別に謙遜なんかしてないんだけどな……剣はそう思いつつ、言葉にするのは避けた。実際に神、それも低級神を自称する女神と親交がある剣だからこそ、神との隔絶した力量……正しくは在り方自体の差を理解した上で、受容していられるのである。


世界の外側には、意思一つで世界の全てを抹消出来る神が存在するなんて事、知らない方が幸せであろう。


「ま、考えるだけ無駄な存在もいるってことさ。さてと……湯冷めしちまうし、俺は部屋へ戻るわ」


「そうか……それにしても、上にはまだ上がおるか……自惚れておったと認めざるを得んな……」


苦渋に満ちた表情でブツブツと呟く楼明と別れ、剣が自室へ戻ると……一朗と耕平が布団の上でノビていた。それを余所に、瀧は他人事のように窓際の椅子に座り、相も変わらずマイペースでスマホを弄っていた。


「……瀧、コレは一体何事?」


「あ~、なんかコイツ等だけじゃねーらしいけど、風呂場でグロッキーになってたらしい。俺は部屋風呂でシャワー浴びて済ませたから、よく分かんね」


「ふ~ん……そんなに熱い湯じゃなかったけどな?」


ゆったりのんびり転た寝していた剣は、嫁のしでかした悪行に全く気付いていなかった。




「さて、そろそろ行くか」


23時過ぎ、剣が行動を起こすべく起き上がると、一朗と耕平は昼間の疲れもあってか、剣が部屋に戻った時と変わらず、布団に俯せた状態のままで眠っていた。瀧も相変わらず椅子に座ったままで……寝落ちしていた。


一先ず、部屋を脱出する分には問題無さそうである。


そして、部屋さえ抜け出せれば最上階まで行くのに大した障害は無い。剣は悠然と廊下を歩き、見廻りをしている教師の横を、呼び止められもせず、堂々と素通りした。


光属性魔法による光学迷彩と、風属性魔法による空気震動阻害遮音によって、視覚と聴覚による認識を困難にしているのであった。余程注意深く見たとしても、透明な人型が音もなく歩いているように見えるだけである。


……それはそれで、ホラーであるから、教師もマトモに見廻りなんて出来なくなるだろうが。


最上階までくれば、清央高校関係者か寝泊まりしている部屋も無いので、剣は魔法を解除した。魔法の常時展開は疲れるのである。多属性同時となれば尚更なのだった。


「なあっ!?」


「うわわっ!?」


魔法を解けば、必然、突然姿が現れたように見える。何の前触れもなく。スイートルームの大きな扉の前に立っていたSP風の黒スーツ姿の男達が驚いたのも無理からぬ事である……とても頼り無くはあるが。


「よ、夕方にも見た顔だな?爺さんはこの中で間違いないか?」


剣がSP達を驚かすように魔法を解いたのは、勿論わざとである。見知った顔だったので、危機感を抱いているか試してみたのだが……剣的には懐から拳銃を取り出すといったドラマや映画でお馴染みの動作をしてくれるかと期待していたのであったが、期待はずれもいいところであった。


「ど、どうぞ……お入りください」


護衛として同行していながら、実質役立たず同然だったと現実を突き付けられてしまい、自信喪失した真っ青な顔の男達に促され、剣は自分が宿泊している部屋より宿泊費が何十倍もするスイートルームに足を踏み入れた。


ホテルのスイートルームといえど、ここは日本文化の最たる地、京都である。やはり内装は和を主体としており、壁には日本画や掛軸等が飾られ、テーブルやソファー等の家具類にも和を感じさせる、上品で落ち着いた装飾が成されていた。


普通の高校生であったら、部屋を彩る華美な美術品や高級感溢れる家具に触れるのも躊躇いそうなものであるが、剣は大して気にも留めず、なんちゃってSPに楼明の元へ案内させた。


「よ、来たぜ爺さん」


「全然臆しておらんの……少しは畏れ多いと思ってくれんのか」


「父さんが考え無しの浪費家でな。もっと絢爛豪華なスイートに泊まった事も有るんだよ。それでも、スイート内に茶室があるのは、流石は京都だなって思ったけど」


余談であるが、剣は前世で宝物庫に納められていた事もある。骨董品やら宝飾品、金銀財宝に囲まれているのは、ある意味慣れ親しんだ環境だと言えなくもない。


剣が室内に用意されていた座布団に腰を下ろすと、楼明は鮮やかな手つきで椀に湯を注ぎ、粉茶とかき混ぜ抹茶を淹れてみせた。


「さ、冷めぬ内に召し上がれ」


好好爺のように、朗らかな笑顔で茶碗を差し出す楼明に対し、剣も微笑を浮かべ――


「いや、飲まないけど?」


あっさりと拒否した。


精一杯の誠意を示そうとしていた楼明は、口をあんぐりと開いて愕然としてしまった。


「だってさ、俺、アンタ達を信用してないし。毒を盛るぐらいやるだろうなって警戒して当然だろ?」


「ぬ……心外じゃが、そう思われても致し方ないな……」


楼明達にとって、剣は予期していなかった強大過ぎる不確定要素である。友好関係を結べれば、棚からぼた餅的な戦力増強が見込めるが、敵対してしまったら……壊滅必死である。であれば、元から存在していなかったものとして、抹消するとゆう安全策が選択されるであろう事も、剣は想定しているのである。


「本気で持て成すつもりだったなら、相当失礼な態度をしてるって俺も思うけどさ……信頼関係を築いてもいない相手から提供される飲食物を疑い無く摂取出来る程、俺は純真じゃあないんでね。そんな訳で……さっさと本題に入ろうか?」


「……そうさな。儂等の基本方針としては、相互不干渉であるのが妥当だろうと意見を纏めた。勿論、味方に引き込めれば言うことなしなんじゃが……剣殿を儂等の指揮系統に組み込み制御可能であるかと考慮した結果、無理であろうとの結論に至った次第じゃ」


「そりゃそうだ。俺にはアンタ達が何の為に裏の京都を守ってて、どんな思想を持っている集団なのかも知らないし、知るつもりも無いからな。放っといてくれるってんなら、俺にとっちゃ悪くない結論だ。……でも、それで終わりじゃないんだろ?」


剣の勘繰った問い掛けに、楼明は顔をしかめ、何もかも見透かされているような心境で息を呑んだ。


「俺を懐柔するのは無理だと判断したとはいえ、余所の……万が一にも敵対組織に俺が利用されないとも限らない。それは絶対に防ぎたい筈だ。だから、俺自身への監視や、俺の家族にも監視や護衛を着ける……それを許可してくれってとこか?勝手にそんなことしたら、何も知らない俺に、部下を無駄死にさせられちまうかもしれないもんな?」


楼明は、答えない。応えられない。剣の語った想定は、大方楼明達の目論見通りであったからだ。そんな楼明を後目に、剣は一人納得しているように語り続けた。


「ま、そんくらいの見張り程度、認めてもいいけどさ……一つ、条件を飲んでくれるならだけどな」


「そ、そうか……こちらとしては可能な限り条件を飲む次第じゃが……何を、しろと?」


「そっか、何、大した事じゃない。とっても常識的で、だが忘れちゃいけない大事な案件だ」


剣が何を言い出すのか身震いして備える楼明に、剣は今日一番の真面目な顔で、要求を口にした。


「姉妹の警護役に、絶対男を着けるな!」


「……は?」


「は?じゃねぇ!俺の姉妹は全員美女・美少女なんだぞ!それが日常茶飯事、特定の男に見張られてるって知らされてる俺の気持ちを考えてみろ!気が気じゃねぇだろ!長時間見張ってれば、間違いなく見張ってる側の方が魅了されるだろうが!ラッキースケベの発生率も上がる!そうなったら責任取れんのかテメー!あぁ!?」


既に、楼明の身体から震えは消えていた。寧ろ、開いた口が塞がらず、脱力して呆然としていた。


「ボケッとしてんじゃねぇ!女性の人員足りてねぇなら、この話は御破算なんだぞ!解ったか解らんのか!?」


「……お、おぉ……何とか……させて戴こう……とゆうか……お主にとっては、それが最重要案件……だったのか?」


「あ!?何を当たり前な事を……言っとくが、テメー等が護衛に着いてる上で、テメー等の敵に妹が傷つけられでもしたら……どうなるか……解ってねーのか?」


楽に死ねると思うな……剣の殺気に満ちた瞳が、雄弁にそう語っていると、楼明は理解した。


「……うむ!全力で護衛を選抜しよう!」


先だっての会議中、剣の家族を人質に脅しをかける……そういった意見もあったのだが……その判断をしなくて正解だったと、楼明は心の底から会議中の自分に感謝した。


非日常が相手でも、剣のシスコン兄さん振りは全力全開で健在なのであった。




これで二日目終了!

次回から三日目に入ります。

剣はまたも寝不足……


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